ドイツ語教員が教えながら学ぶ日々

熊谷哲哉 ドイツ語教育、ドイツ文学、文学じゃないけどおもしろいものなど。

対面授業の再開と5年ぶりの黒板教室で考えたこと

対面授業が再開、久しぶりの黒板教室

10月半ばごろから、勤務先では対面授業が再開されました。学部によって方針はさまざまですが、私の担当授業は7コマ中6コマが対面となりました。のこり一つの講義科目はオンデマンドです。再開した当初は、感染への危惧から、学生に声を出させたり、グループワークをさせたりは控えたほうがいいのではないかと考えていましたが、一ヶ月が経過し、だんだん状況が落ち着いてきたし、私も慣れてきて、現在はほぼ以前と同じように教室内での活動も含めた授業ができるようになりました。

今年度はずっとオンライン授業だと思っていたので、年度始めに使用教室の希望などは何も出していませんでしたが、その結果、約5年ぶりに黒板の教室を使うことになりました。以前は、ほとんどの授業が黒板で、チョークを自腹で買うほどでしたが、5年くらい前から、経営学部の小教室はホワイトボード化が進み、私の担当授業はホワイトボードが前後についているアクティブラーニング対応教室を使うことが多くなりました。黒板、ホワイトボードでの板書についてはこれまでのブログでも書いてきました。

schlossbaerental.hatenablog.com

schlossbaerental.hatenablog.com

また、2年前にはiPadを教室でどう使うかについても書いています。しかしこれも今読むとだいぶ以前のことのように思えます。

schlossbaerental.hatenablog.com

 

オンライン授業を経験した今、ふたたび対面授業になって、板書ってどうやってやるんだっけ?と迷うことがありました。今回は、黒板、ホワイトボード、オンラインを比較しながら、板書の方法や、そもそも私たちは何を板書しているのかということについて考えたことをまとめます。

 

3つの板書方法

板書を考える上で、黒板、ホワイトボード、iPadのそれぞれの特徴を挙げておきます。

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黒板:教室で使われ、チョークは硬く、文字を書くのにやや時間がかかる。教室の壁に固定されているため、教師と学生の位置は固定的になる。

ホワイトボード:教室でも自宅でも場所を選ばず使われる。文字の大きさや色は、場所によって変えられる。教室内で移動することもできるため、教員・学生が相互に使うことも可能。プロジェクターと連動させ、PCやiPadと合わせて使う(PowerPointのスライドに文字を書き加えたり)こともできる。

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以前のブログに自分で描いたイラスト。Word等の文書に、iPad上で書き込んで、ホワイトボードに写す様子。

iPad:自宅からのオンライン授業で使用される。iPad Pro12.9インチでちょうどA4程度の大きさのため、紙の上に文字を書くときと同じ要領で筆記が可能。PDF化した教科書や授業資料と組み合わせて使用することも可能。

iPadによる板書というのは、私はあたりまえのように行ってきましたが、使ったことがない人にはイメージが捉えにくいだろうと思います。次に、オンライン授業における板書とは、どのようなものであるか、私がやってきたことを説明します。

 

オンライン授業における板書

対面授業がなくなったこの一年半で、私にとって、日々の授業は大きく変わりました。

オンライン授業での板書は、私の場合すべてiPadの画面上で、Good Notesを使いました。画面共有で、自分のiPadを写し、無地のページや、とりこんだ教科書のPDFにAppleペンシルで書き込んでいくという方法です。

授業開始とともに、机においた一眼レフで自分を撮り、カメラにむかって話ながら、同時に授業資料や板書をiPadからPCにつないで配信または録画します。

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自宅におけるオンライン授業時の板書のイメージ

朝日出版社から出している、私の教科書の動画教材も同じ方法で作っていました。

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字幕はFinal Cut Proで入れましたが、手書き文字やマーカーの線は、iPadで書き込んでいます。マーカーやペンなどは、Good Notesというアプリに入っており、Appleペンシルで、選べます。

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昨年の3年生向け講読クラスの動画です。長い文章を詳しく説明しながら読み進めています。

こちらの動画でも教材のPDFに書き込みながら、また適宜自分で作った単語リストや、文構造を書きだして説明するための白紙のスペースなどを使って授業をしています。

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このスクリーンショットのように、授業時にはしばしば教科書の文字列や表などをポインターで示しました。ポインターの線は、光の軌跡なので、数秒で消えます。線で強調するだけなく、ちょっとした説明をポインターをつかって文字で書くこともありました。

オンライン授業時には、教室で黒板に向かって書いているのとはまったく異なり、手元でノートにメモを取るような感覚で板書をすることができました。簡単に文字や説明を入れたり、マーカーやポインターでいろいろな色を使うこともできました。ちょうどYouTubeの動画にしばしば字幕が入るように、私は自分の授業で板書をしてきました。

この一年半、講義科目以外はすべて同じ方法で板書を続けてきたので、この方法は私の体の芯まで染みついていて、iPadを使わないで教室でどのように授業をしたら良いのか分からなくなったほどでした。

 

対面授業の再開、板書はどうする?

さて、ふたたび教室での授業となり、板書をどうするかがわからなくなってしまいました。最初に考えたのは、オンラインと同様に、教科書のPDFを写し、そこに書き込みながら話すという方法です。ホワイトボードとプロジェクタがある教室であれば、この方法は可能です。しかし、いくつかの科目であたっている黒板教室は、そもそもプロジェクタがなく、パワポ等の資料は、黒板の上のほうにぶら下がった小さめのモニタに写すことしかできません。小さなモニタでは、教科書に書き込んだ文字などはとても読めません。

しかたなく、何年も前の授業を思い出しながら、黒板に板書しながら授業をすることにしました。

黒板への板書ですが、何を書くべきなのでしょうか?

私が教員の仕事を始めたころに念頭に置いていたのは、話したことは基本的になんでも板書し、板書したことがきれいにまとまりをもつような、いわば予備校スタイルです。私は教職課程を受講していないので、板書の仕方を学んだのは、大学院生のころの中学・高校受験塾の研修のみです。そのためどうしても板書の方法は、自分の経験的なものとならざるをえません。(ちなみに塾の研修では、子供に背を向けずに、顔と身体を子供たちの方に向け、手だけで板書できるようになれと教わりました。ぜんぜんできるようにはなりませんでしたが)。

大学で数年教えているうちに、何でもかんでも板書すればいいわけではないということはわかってきました。教科書に書いてあることをそのまま書くのではなく、口頭で伝わりにくいことを重点的に書くということを心がけています。

講読の授業では、重要な文法事項が入っていたり、分かりにくかったりする文章は、黒板に書き出し、文の構造などを説明しています。教科書に書いてあることを書きだして説明するのは、なんだか二度手間のように感じますが、自分でも本を読んでいて分からない文章を手で書き起こし、一語ずつ調べていくことで、意味が見えてくるという経験を何度もしています。

教室での板書は、教科書に書いてあることを大きな字で書き直すことではありません。テキストの文字列を、自分の手で一度書き起こすことで、図や写真ではなく、現物を手にしたような立体感が見えてくるのです。

私たちは、手で書き、考えることで、思考を立体化しページや画面上の文字列から、そこに含まれる情報や要旨を浮かび上がらせ、読み取っているのです。教室での板書もこれと同じで、教師が板書し、説明したことを、受講者がそれぞれノートやタブレットでメモを取り、自分なりに理解をするわけです。

私たちが板書で説明していることは、単なる教科書の要点や強調だけではなく、思考の方法を伝えているのだと私は思っています。

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