ドイツ語教員が教えながら学ぶ日々

熊谷哲哉 ドイツ語教育、ドイツ文学、文学じゃないけどおもしろいものなど。

先生は待ち時間をどうすごしているのか

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今回は久しぶりに授業の方法について書きます。

日ごろ授業をしていて、待ち時間がけっこうあることに気づきます。待ち時間とは、授業の合間の時間ということではなく、授業中に、学生がなにか活動をしていてそれをじっと待っている時間のことです。もしかしたら多くの他の先生方は私のように、待つ時間などないのかもしれません。こんなふうに待ち時間を過ごす教員などあまりいないかもしれないという不安を抱えながら、なぜ、どのように私が待つのかを述べたいと思います。

 

教える側にとっての90分の過ごし方

授業時間の90分をどのように使うかというのは、大学でドイツ語を教え始めた頃には、毎回細かい時間配分をノートに書いていました。このことについては過去の記事で触れました。

schlossbaerental.hatenablog.com

この記事の真ん中あたりで説明していますが、私は助手時代から、非常勤を始めた頃に、開始後何分でどんなことをするというリストを作成することを学びました。

ドイツ語の初級文法を教え始めてそろそろ10年になるので、いまではもはや事前に授業ノートを作って準備をすることはありません。説明すべきことはだいたい頭の中に入っているので、教科書の内容を追いながら、随時必要な説明などを板書していきます。

だいたいどの先生の授業でも似たようなものかと思いますが、語学の授業では、

1)教員が説明する

2)学生たちが練習、解答、発表をする

3)教員が解説する

というサイクルを繰り返すことで授業が進行していきます。これについても、授業前に、教科書のどのあたりまで進められるか、そして教科書以外のワークとしてどんなことをやったらいいかを考えておきます。

 

待ち時間とは何か?

語学(私の場合は講義も同様のスタイルでやっています)の場合、おそらく多くの先生の授業で、じっと待っている時間があるのではないかと思います。私自身の授業を振り返ると、基本的に授業の3分の1くらいは待っている時間です。そして3分の1くらいは私がしゃべる時間、残りの3分の1は学生が練習をしたり、発言をしたりする時間です。授業のレベルやクラスによって多少の差はありますが、私の授業ではだいたいこんな感じになっています。

では、待ち時間とは何かといえば、学生が問題を解いたり、パートナー練習をしたりする時間のことです。

先ほど説明した、語学の授業における3段階(説明、練習、解説)を進めていくさいに、かならず一定時間、学生が問題を解いたり、パートナー練習をしたり、発表の準備をしたりといった時間が必要です。この時間を私は待ち時間というのです。

 

待ち時間=ただ待ってるだけでいいのか

待ち時間なんて無いという先生方の場合、そもそも学生が授業時間中にタスクをこなす時間なんて無い(すべて予習しておくのが当然)という考え方の人もいることでしょう。たしかに私が学部で受けた授業では、授業内容はあらかじめ予習してあることが前提で、90分間ほとんど教員が話し、学生は当てられた時のみ口を開くという形でした。

以前の記事にも書きましたが、私の場合、専門に学びたい学生向けの購読を担当したとき以外は、基本的にすべて授業の時間内に問題練習、パートナー練習など、学生が手と口を動かす時間も含めるようにしています。*1

あるいは学生がタスクをこなしている間、教員は机間巡視をしたり、それぞれにアドバイスをしたりといったことをやるので、イスに座る暇などないという先生もいるでしょう。私も数年前に50人のクラスを教えていた時は、学生が問題を解く間も忙しく動き回っていました。しかし、昨今では履修者数の激減に伴い、机間巡視など、2、3分でおわってしまうクラスサイズに収まっています。そのため、教員が机間巡視をしていると、学生たちの邪魔になりかねません。このような理由で私は、学生たちが活動をしている間、様子を見つつじっと待っています。

 

待っている間にやっていること

発音の矯正:クラスサイズが小さいので、パートナー練習などで単語が正しく発音できていない場合には、すぐに教えることができます。一人の学生に指示を出しつつ、全体への呼びかけもしています。(この単語、みんなちゃんと読めてないからもう一度確認しますね、といった具合に)。
ヒントの提示:練習問題、グループワークでの作文などの際には、学生たちの進捗状況を見ながら、ヒントを提示したりします。ヒントになりそうな単語を板書したりします。
教科書、授業ノートを読む:次のタスクをどのように進めるか、どんな解説が必要かといったことを考えたりメモしたりします。
課題の作成:グループワークのお題や、授業終了時に書かせる独作文などは、たいてい授業中の待ち時間を使って考えます。その場で学生たちの出来ぐあいを見て問題を作ったほうがいいと思うからです。
ネタさがし:学生に話すネタ、リマインドすべきことなどをメモします。
気づきをメモ:教授法、教科書などについての気づきをiPadで書き留めます。この時間に考えたりメモしたことはしばしばこのブログの元ネタになっています。
教科書に出てきた事物、ニュースなどをネットで検索:必要があれば、画像や動画をiPadで提示したりします。神戸大の授業では、ドイツのキャラクター(Sandmännchenなど)がいろいろ出てくる本だったので、毎回Youtubeの動画を見せていました。

 

待ち時間には、だいたいこういったことをしています。iPad miniとApple Pencilを持ってごそごそやっていますが、遊んでいるわけではありません。SNSに書き込んだりするとバレるので、これも絶対に授業中にはしていません。

待ち時間など本当はないほうがいい

クラスによっては、同じ内容と方法で授業をしていても、あまり待ち時間がないということがあります。つぎつぎ質問をしてくる学生が多いと、私もじっと座っているわけには行きません。活発なクラスだと、文法や単語についての質問をどんどん発言してくる学生もいるし、あるいはすでに練習や問題を終えた学生から、これまでの学習内容やテストについての質問が出たりします。

何でも教員に質問すればいいというわけではなく、もちろん学生自身が調べたり考えたりすることに時間を使って欲しいとは思います。それでも私がじっとしている暇などないくらい活気のあるクラスのほうが教え甲斐があります。

学生たちの活動を、じっと待ちながら見守っている時間は、たんに暇なわけではなく、授業内容を冷静に見つめ、これからの展開を考える大切な時間です。しかし、学生たちへの学習効果を見ていると、やはりどんどん質問が出て、待ち時間などないくらいのほうがいいのだろうと思います。

 

*1:私は中間テスト、期末テスト、口頭発表以外には、学生に予習を課さないようにしています。(もちろん自主的に勉強してくることは大歓迎です。)いくつかの大学で教えた経験から、そもそも学生たちは、語学でも専門科目でもほとんど家庭学習をしないし、宿題などを出したところで、授業前に友達のノートを写すだけなので、それなら授業時間中に集中して勉強してもらったほうがいいだろうと考えたからです。