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ドイツ語教員が教えながら学ぶ日々

熊谷哲哉 ドイツ語教育、ドイツ文学、文学じゃないけどおもしろいものなど。

作文をどのように授業で練習するか

ドイツ語 研究活動

教え始めて7年

ドイツ語を教えるようになって、今年度で7年目です(もう40歳なので、同年代の先生方はもう少し教歴が長いはずです。私はいろいろ回り道をしていたので、すこし遅れています)。

はじめのうちは、自分自身もあまりドイツ語ができるわけではないし、教科書を読んでいても知らなかったことがたくさんあったりするなど、文法事項を解説するだけで精いっぱいでした。

自分の指導教授のように、他の先生方がどうして週に何コマも、とくに苦労している様子もなく授業がこなせるのか想像がつかないくらい、一コマの授業準備がたいへんでした。

3年目くらいから、とくに綿密な授業ノートを用意しなくとも、だいたいその場で解説ができるようになりました。最初はしょっちゅう間違っていた名詞の性も、初級の教科書に出てくるものくらいは、ほぼ間違えなくなりました。

 

学生に作文をさせる授業

自分自身のできることが増えていくにつれて、学生たちへの教え方も変化していきます。私は、2013年のクラスから、自由作文を授業に取り入れています。つまり、教科書などにある、日本語を独訳するだけの作文ではなく、身の回りのことや自分自身のことを、習得した知識を使ってドイツ語で表現するという練習です。

私も含め、多くの学生たちもまた、大学入試までにさんざん叩き込まれる例文の丸暗記、そしてそのことによる文法規則の習得という形で英語を学んできました。しかし、大学以降必要となるのは、英文を自力で書く能力です。今でも覚えていますが、大学に入って始めのネイティブ先生の授業では、各自が自分の夢や将来像について、英語でエッセイを書くという課題をやりました。

学生たちが大学に入るまでにある程度の学習を積んできている英語の場合は、このように、大学に入って最初の授業でいきなり作文をさせる、ということもできるでしょう。ドイツ語の場合は、学習時間も期間も大変限られているので、単語や表現を増やすことと、自分で言いたいことを表現することとを同時進行で進めていく必要があります。

そのため、多くの場合、ドイツ語の初級のクラスではほとんど作文練習をする機会がありません。私自身も大学入学時からドイツ文学専攻で、週に4コマ授業を受けていましたが、作文の練習は、2年生になってやっと独作文の授業を履修し、あとはネイティブ先生の選択科目くらいしかありませんでした。

これまで教えてきたクラスは、ほとんど初級でかつ文学部ではないクラスだったため、独作文に特化した課題をやる余裕も必要性もないと思っていました。しかし、自分自身の学習歴を振り返っても、一番難しくかつ勉強になるのは作文です。できれば、初級の段階から、教科書の練習問題だけでなく、自分で考えたことをドイツ語で表現する練習ができたほうがいいでしょう。

そのように考え、2013年から自由作文をドイツ語授業の一つの柱としてとりいれてきました。以下に、これまで4年間の具体的な授業内容をまとめておきます。

 

2013年度 グループでシナリオを書き、動画を作成する課題

2013年の後期には、私たちの業界ではすっかりおなじみになっている岩居メソッド(岩居弘樹大阪大学教授が取り組んでいる、iPadのアプリを利用したアクティブラーニング型授業)を応用し、スマホのアプリを使ったドイツ語練習と、寸劇のシナリオを書いて、動画を作成する課題を実際に行くつかのクラスでやってみました。(誰もが持っているスマホを使うというのがポイントでした)

この授業実践については、2014年秋の独文学会で発表しています。

具体的には、京大、滋賀県大の1年生クラス、龍谷大の2年生クラスを対象に、後期の後半に6週〜7週程度を使って、グループごとに作業を行いました。作業の流れは以下の通りです。

1)グループで寸劇のシナリオを作成する。

2)ドイツ語で文章を作成し、読む練習をする。

とくにテーマや内容の縛りを設けず、学生の自主性に任せ、1〜2分程度の劇を作らせました。例文検索サイトやアプリを使って、ドイツ語文を書かせ、それを私が直しました。
学生が演技をして、動画に撮るので、ドイツ語文を練習する必要もあります。ここでも、音声認識ソフトを使って、正しい発音ができるよう練習させました。

3)シナリオに基づき、動画を作成し、提出

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動画の作成に関しては、字幕でドイツ語と日本語を入れること、という条件だけを設け、学生たちにまかせました。iPadの有料アプリなどがあれば、だれでも簡単に動画を作ることができるのでしょうが、学生それぞれのIT環境がバラバラだったため、やたら技術力の高い学生はほとんどアニメのような作品を作りましたが、ほぼ撮って出しのようなグループもありました。

各グループの動画は、教室内で上映し、内容上のポイントや感想などを学生に発表してもらいました。

このグループワークの問題点として、1)シナリオ作成に関する内容の縛りがない、2)ドイツ語文に手を入れる際の具体的な方針がない、3)動画作成が学生たちにとって負担が重すぎるという点がありました。

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授業後のアンケートでは、動画作成がいかにたいへんだったか、一ページ丸ごと使って工程を説明してくれた学生もいました。

 

学生たち自身は楽しく作業ができたという好意的な反応が多かったのですが、上記2)にあげたように、ドイツ語文をかなり私が書き直してしまったグループが多かったので、本当に学生自身の語学力の向上につながっているのか疑わしい面がありました。

 

2014年度 やる夫シリーズ 一回完結型の小グループワーク

2014年四月から、現在の勤務校に勤め始めました。この年は、13年度に試みた作文のワークを授業にどのように取り入れるか、模索するだけの一年でした。

ここで何ができるのか、そして、何をするべきなのかということを毎回の授業で学生達の様子を観察しながらいつも考えていました。できたら、13年度にやったような作文や動画作成を授業に取り入れたいと思いながら、前年度と同じやり方では、前年度に直面した上記の問題を克服することはできない、とも思いました。勤務校のICT環境はあまりに貧弱で、そもそもDVDを視聴することすらできないような教室も多くありました。そうなると、PCやタブレットを使うこともためらわれました。

また、授業で使う教材についても、これまでとは違う制約があり、慣れるのに苦労しました。私の勤務校は、学部ごとに統一教科書を使用します。着任後最初の年は、私が選んだわけではなく、他の先生方が決めた教科書でした。この本がとても使いづらかったこともあり、毎回学生たちに、補足プリントを作って配るようになりました。

グループ練習や作文練習などに補足プリントを作成するというのは、非常勤時代にもやっていましたが、この一年でひとつのパターンが出来上がったように思います。

14年度の授業で、一つの成果といえるのが、以前ブログにまとめた、「やる夫と学ぶシリーズ」です。→Bloggersからコピーして、過去記事に入れました。

schlossbaerental.hatenablog.com

schlossbaerental.hatenablog.com

この記事の最後に、「やる夫と学ぶシリーズ」の意義について考えをまとめようとしたのだろうが、とくに大した意味はなかったという結論が出そうだったので、適当に締めたことを覚えています。

しかし、このときに授業の顔のようなキャラを設定し、それらに各回のポイントや学生への注意喚起(学生が間違える前から、キャラが間違ったことを言う!)をわかりやすくまとめるという手法は、その後の授業運営に大きく寄与することになりました。

 

2015年度 やる夫のイラストをつかったプレゼンテーション

一年ほど、自由作文なしの授業を続けて来ましたが、やはり物足りなさを覚えるようになりました。とくに、15年度から神戸大学で非常勤を始めたこともあり、やる気や能力のある学生にもっと自分でドイツ語を運用する練習をしてもらいたいと強く思うようになりました。

15年度は、神戸大学の1年生2クラス(工学部の文法クラス、医学部保健学科の実習クラス)と近大の2年生・コミュニケーションのクラスで、作文とプレゼンの課題を行いました。

作業の手順は以下の通りです。

1)全12種類のイラストから4つを選んで、お話をつくる。

2)人物のセリフをドイツ語で書く。

3)大きく印刷したイラストにセリフのドイツ語文と日本語訳を書く。

4)セリフを音読する練習。

5)イラストをスクリーンに映し、グループが前に出て発表する。

↓以下は、’15年秋に日本独文学会東北支部で発表した際のスライドからの抜粋です。 

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作例

 

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反省点

1)コミュニケーションのクラスでは、キャラクターのセリフを書かせると言う形式にしたため、会話表現や短すぎる文が頻出してしまい、ドイツ語の文章をじっくり考えて組み立てる訓練にはならなかった。(→その反省から、工学部クラスおよび近大2年生クラスでは、イラストに説明文をつけるという形に変更しました)

2)教科書の表現からかけ離れた内容が多かったため、作文に手を入れるのが非常に困難でした。→文章を添削することが学生ではなく、教員の勉強にしかならない。

3)グループごとの出来不出来の差が激しい。

4)学生が手書きした紙を写真に撮って、iPadからプロジェクタに写すため、画面が暗くなりすぎ、手書き文字は読みづらかった。見ている学生には発表内容があまりよくわからないということも多かった。

 

以上のように、それなりにおもしろかった、「やる夫の4コマ」グループワークでしたが、この方法を試みることで、私としては、アナログな方法にも可能性はあることがわかりました。しかし、文字の見辛さなどの問題もあるので、PCを使う必要性も感じました。

 

2015年度−2 スマホ動画を使った、スピーチの課題

神戸大のコミュニケーションのクラスでは、学期末に、ひとりひとりに作文を書かせ、自分の書いた文章を読み上げたものを動画に撮って、提出するという課題を出しました。この課題の目的は、自分で作文をすること、ドイツ語の文章を流暢に読めるようになることでした。

音読した音声を提出させるという課題は、以前の非常勤先の同僚が実践していたことでした。音声だけよりは、動画の方が学生たちも取り組みやすかろうということで、動画をメールまたはLINEで送ってくるように伝えたところ、夜となく昼となく学生たちからLINEの通知が来て、その度に私もロースおじさんのスタンプで受け取り確認の返信をしました。

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実際に送られてきた課題を実際に見てみると、後期中盤(11月中旬)に行った、グループでのプレゼンのときのほうが、学生たちはドイツ語を読むのが上手だったような気がしました。一人二人だけでなく、ほとんどの学生がそうでした。

一体何がいけなかったのかとよく考えましたが、動画を撮って提出するということで、学生たちは、何度も練習するだけでなく、何度も撮り直していることがわかりました。そのため、読み方はこなれてくるのですが、どうしても日本語の朗読のような変な癖のついた読み方になってしまう学生が多く見られました。

それならば、やはりみんながいる前でのプレゼンテーションのほうがいいのではないかと思いました。

 

2016年度 パワポのスライドと個人によるスピーチ

今年度は、神戸大学が4学期制になってしまったり、*1本務校の方では、一年生の履修者が大幅に減ってしまったこともあり、作文の課題はなかなかできませんでした。

しかし、近大一年生クラスでは、PC教室が使えたため、教科書(アクティブラーニング系の非常にレベルの高い本)に出ていた、自分の生活をスライドにまとめて紹介する、といった課題を学生一人ひとりにPCを使って、やってもらうことができました。

神戸大では、昨年度同様、工学部の文法と保健学科の実習を担当しました。実習クラスでは、後期の最後に3週ほど使ってそれぞれパワポのスライドを作り、自分の生活や家族についてスピーチをするという課題をだしました。

課題と作業の流れは以下の通りです。

1)冬休み中に、作文を書いてくるよう、指示をする。
 10文程度の長さ、決められた文法事項を必ず含める。Googleなど機械翻訳ではなく、例文検索や辞書を使う。これらのルールの徹底を呼びかける。

2)完成した文章をチェックし、それぞれ一週間以内に書き直して提出する。

3)訂正した文章を再度チェックし、OKが出たら、各自パワーポイントでスライドに文章を入力し、まとめる。→パーワーポイントのデータを集める際に、先日とりあげた、学習管理システム(神戸大学BEEF)を使用しました。

4)文章を暗唱し、発表。スライドは教員が操作する。

ポイント

これまでの問題点を反省し、今回はどのような文を作るかについてのやや細かい制約を設けました。

要は、zu不定詞再帰動詞、現在完了など、必ず含めるべき文法項目を決め、また、文の長さも10文程度としたのです。

また、私の方も、学生の文章に手を入れる際には、1)学生が指摘されたら理解できるような訂正をする、2)大幅に書き換える必要がある場合は、こちらが文章を作るののではなく、このような既習の文法事項を使えば同じようなことが言えるという提案をする、という二点を基本方針としました。

反省点

今回は、これまで2回の反省点を踏まえているので、少なくとも学生ではなく一番勉強になったのは私の方だった、ということにはなりませんでした。いろいろ忙しい業務の合間に授業のことをやらないといけない状況だったこともあり、最小限の時間で添削などの作業ができました。

しかし、今回も気になったのは、学生たちがドイツ語読むのがあまり上手くなっていない、という点でした。また、先日の記事でも取り上げましたが、手で書いていたら絶対間違えなかったであろう、単純なスペルミスがあまりにも多くありました。

これらの点を改善して次に繋げるとしたらどうしたらいいでしょう。

できたら各学期に一回程度は、パワポを使ったスピーチを実施する必要があります。

また、PCでのドイツ語入力の練習は、学期の前半にやっておく、というのもいいでしょう。

PCを使うことの意味

PCでドイツ語を入力するのは、キーボードやICTの利用に親しむことだけが目的ではありません。この点については、あまり学生たちには伝えられていなかったのですが、本当の目的は、PCを使えば、さまざまなドイツ語の使い方を自分で調べられるということです。私たちはほとんど毎日、ドイツ語の単語の意味を辞書で引くだけでなく、Google検索で、用法を調べます。また、自分で文章を作る際にも、こういう表現は可能だろうか?とgoogleで用例を調べます。こういった作業ができれば、ドイツ語表現の精度はずっと高まります。一年目の学生たちには、このような形でのインターネットの利用はまだ難しいのでしょうが、PCを使うことの意味についてもう少し学生たちに伝えられればよかったかと思いました。

 

まとめ どんな課題を出すか=教員が何を教えたいか

今回このような形で、2013年度から4年間にわたって続けてきた授業実践を短くまとめて見ましたが、そこで私自身が気がついたのは、自分のやってきた方法の変化ではなく、むしろ自分自身が何を教えたいかということが、より明確になってきているということでした。

ドイツ語の授業で学生に何を教えるか、どんなことを学んで欲しいか、ということは、各教員ごと、各大学ごとに様々な考え方があるでしょう。

この問題については、これまでもブログに書いてきました。おそらくそう容易に答えはでないでしょう。

しかし、自由作文を授業に取り入れ始めた頃から、試行錯誤をへて、私自身の方針は明確になってきました。

2013年ごろは、作文=会話表現、応用表現という認識でした。学習者は、教科書ではなく、例文集や会話のテキストを使って、適切な表現を見つけられること。そして書いた文章を自分で上手に読めることを目指していました。

今年度の課題の際には、なるべく教科書の表現をベースに、授業で学んだ知識を使って、自力で文章を作ることを重視しました。(使うべき文法事項を細かく規定する=学生たちは教科書を参照し、文章を組み立てるようになる)

添削する際にも、表現として自然かどうか、もっとうまい表現があるのでは、という観点はほぼ無視して、学んだことを運用できているか(格や語尾などのミスの指摘等)を特に気をつけました。

作文や会話というのは、けっして応用的なものでも、特別なものでもありません。たしかに、こんな表現は教科書にはないなあ、あるいは例外的だなあ、という言い方はたくさんあるし、会話文集から学ぶことも多くあります。

とはいえ、私自身を振り返ると、ドイツで自分が話すことはほとんど初級文法の教科書に載っていることばかりだと気がつきました。あまり出来が良くない自分を基準にするのもおかしいのですが、少なくとも教科書レベルの文法事項や単語を使いこなせれば、現地での意思疎通だって十分可能なのです。

 

来年度に向けて

以上のようなこれまでの取り組みを振りかえって、来年度どんなことができればいいかということも考えてみました。

1)前期からPCを使った学習、プレゼンテーションの課題を出す。

前期の段階では、どのクラスでもあまり文法事項の習得が進んでいないので、プレゼンテーションの課題は出しにくいと思っていましたが、わからないならわからないなりにやりようがあるだろうと思います。ごく初歩的な内容であっても、自分で文章を作る、PCで入力する、文章を練習して覚える等の練習は意味があるでしょう。

2)多人数クラスでどのように実践するか

今年度は本務校の2年生クラスの人数が非常に多かった(前期50名、後期40名)ため、作文やスピーチを取り入れることができませんでした。授業も予備校のような、問題練習主体の内容でした。学生たちの学習意欲は高いのに、非常にもったいなかったと思いました。人数が多くても対応できる方法を工夫する必要があります。

3)発音練習の継続

発音の練習やテストは、毎年前期の始めに行うだけで、その後については、あまりケアできていませんでした。後期あるいは2年目になってから、発音のブラッシュアップ的な練習をすることも非常に有益です。この点についても、スピーチの前に、しっかり学生に学ぶ機会を作りたいと思いました。

 

 

 

*1:これまでの前期後期が二つに分けられ、それぞれに期末試験を行うため、試験前後の準備やフィードバックなどに時間が取られて、実質的な学習内容は数週間分削減せざるをえなくなりました