ドイツ語教員が教えながら学ぶ日々

熊谷哲哉 ドイツ語教育、ドイツ文学、文学じゃないけどおもしろいものなど。

小作文を取り入れた授業

f:id:doukana:20171112223111p:plain

ブログ更新をサボっている間に

前回の記事から三週間くらい更新が滞っていましたが、この間に2回台風が来て、1日授業が休講になり、トレイルランニングの大会が中止になって、分担者として三件の科研費申請を行い(ほとんど手出ししてませんが)、学園祭で6日間ほど休日が続き、そして10月後半から断続的にいそがしく教務関係の仕事をこなしています。

ブログの更新は止まっていましたが、未発表の下書き原稿は5本以上あるので、これから少しずつ完成させていきます。

昨年から授業に小作文を取り入れる

今回は、昨年度から行なっていた、ドイツ語の授業で、授業時間の終わりに作文の課題を出していることについて書きます。もしかしたら、どの先生方も当たり前にやっていることかもしれませんが、私にとってはこれを取り入れたおかげで、わりと漫然と行き当たりばったりに教科書を進めていた授業に、明確な形が見えてきた気がしています。

 

宿題は出さず、授業内の活動に集中

2010年からドイツ語を教えてきましたが、考えてみるとこれまでほとんど宿題を出すことはありませんでした。というのも、宿題など出すと、教えている自分がどのクラスで何を宿題にしたか覚えていなければならないのが面倒だったからです。初めに教えていた京大では、学生がみんなよくできるので、宿題など下手に出してしまうと、教科書があっという間に終わってしまって、もっと高度なことを教えなければならなくなるという不安がありました。初めのうちは宿題もだしていましたが、気づくと学生たちはみな授業前の休み時間5分ほどで宿題をやってしまうので、それなら授業時間内に、問題練習などすべてやってしまうのがいいだろうと考えるようになりました。*1

その後いくつかの大学で教えてきましたが、基本的な進め方は同じです。授業時間中に、教科書のペアワークや会話文をつかったグループ練習をやり、その合間にそれぞれが教科書の練習問題などを解く時間をとっています。私はあまり文法事項をあれこれ説明しない(一度に説明すると分からなくなる恐れがあるので)ので、どの大学でもこの方法でちょうどいいペースをつくれています。

 

全く勉強しない学生をどうするか

しかしこの方法だと、授業時間以外に多くの学生は全く勉強をしなくなってしまいます。なんとか中間テストや、期末テスト前の口述試験(作文とプレゼン)などを取り入れ、試験期間の詰め込み以外にも家庭学習の機会を作るようにはしているのですが、それでも15週のうち13週くらいほとんど何もせずに過ごしている学生もいます。

多くの学生が自律的に参加できるような授業内の活動をつくろうと、これまではグループワークを行ってきました。しかし、グループワークについてよく言われる批判ですが、フリーライダー(何もせずに成果を得る者)の発生は避けられません。そうなると、必然的に学生一人一人が自力で取り組むような課題を毎回何かだすのがいいのかな、と思うようになってきました。

  

クラスサイズの変化 いまや少人数クラスが基本となっている

もう一つ、授業の進め方を考え直すきっかけになったのが、各クラスの履修者数の変化でした。

専任教員になって4年目ですが、毎年ドイツ語履修者は少しずつ減り、今年度は本務校で一番大きいクラスでも22名、小さいクラスは6名程度になっています。非常勤として京大で教え始めた頃は、1クラス40名以上がふつうでしたし、本務校でも初めの年はどのクラスも30名程度はいました。しかし、これだけ人数が減っている今となっては、むしろ授業の方法を変えて、より少人数むけのやり方を考えないといけなくなってきました。

これまで、個人で取り組む課題よりは、グループワークを優先してきたのは、何より大人数クラスでも採点が容易だったからでした。

毎回作文の課題を出すという方法は、大クラスだと採点がたいへんなので向いていませんが、少人数クラスだと、それぞれの学生の学力だけでなく、勉強の仕方や、苦手な分野、思考の癖などがよくわかってきます。

 

毎回どんな課題を出しているのか?

昨年度、近大の2年生クラスで、小作文を取り入れ始めました。法学部と経営学部で1つずつ2年生クラスを教えていますが、昨年の経営学部クラスは、50人も履修者がいました。既習者でわりと真面目な学生が多いクラスなので、人数の多さはあまり気になりませんでしたが、一人ひとりに目が届いていない感じがして、いつも不安でした。

そこで、教科書の練習問題の解答解説をして、授業時間の終わりには、教科書の問題をちょっと変えた作文問題を作って出題するようにしました。この課題を出すことで、それまで寝ぼけていた学生も、いやでも授業に参加するようになりますし、なんとなくついていってるつもりの学生たちも、改めて自分がちゃんと理解できているかを確認することができるようになります。

課題は、学生が10分〜15分程度で解答できる、そして何より私が苦痛を覚えずに採点できるような問題数とレベルに設定しています。

教科書でその回に出て来た内容を組み合わせればだいたいできるような作文を2つか3つほどホワイトボードに書き、解答用紙に(B6サイズ)に記入させ、できた順に提出して退出可としています。

 

たとえば、二年生クラスでは最近形容詞の格変化をやったところなので、

1)私は私の赤い車で神戸へ行く。

2)彼女は母親に、その新しい本を買う。

3)日曜日に、彼らはイタリアンレストランに食事に行く。

といった問題にドイツ語で解答させます。

ポイントは、1)は私の赤い車mein rotes Autoを前置詞mitの後ろにくるので3格mit meinem roten Autoとするところです。2)は、「その新しい本」が中性名詞で4格なので、das neue Buchとします。3)は、形容詞イタリアンitalienischが、前置詞insのあとにつくので、4格ins italienische Restaurantとなる点です。教科書に載っている形容詞の格変化3種類のパターンと、先月の授業で説明した前置詞の格支配のところを見直せば、それほど難しくない内容です。

もちろんテストではなく、授業内の活動なので、教科書や辞書を使ったり、友達同士で相談するのも自由です。ただ、全く自分で考えずに、友達の答えを写すということはしないように呼びかけています。

 

小作文の効用

小作文を取り入れることの効用については、すでにいくつか述べてきました。最後にいくつかのポイントに分けてまとめます。

1)学生が作文問題を解くことで、ドイツ語の学習に意識的になる

授業を通じて何を教えるかは、大学学部ごとにことなっています。私たちの大学では、週1コマで、専門の勉強に特にドイツ語は必要ないので、ほとんどの学生は2年生まででドイツ語の学習はおわりとなります。ですから、ドイツ語を読める、話せるということよりも、書くことを通じて、ドイツ語のしくみを理解してもらいたいと思っています。小作文の問題を解くことは、教科書で学んだ知識を自分で運用することです。この作業を通じて、ドイツ語でどのように文章が作れるのかということを学んでもらえればと思っています。

2)全員が必ず参加できる

何を持って授業への参加とするのかは、先生方それぞれにご意見があるかと思います。それまで私は、ただ座ってるだけでも別に構わないと思っていましたが、自主的に勉強に向かえない学生を何人か見ているうち、授業時間内に半強制的に手を動かす時間をとったほうがいいと思うようになりました。この方法をとりいれたことで、みんなが真面目に学習するようになったということはありません。しかし、数人の学生は、自分がちゃんとわかっていないということを素直に受け入れ、どうすればわかるようになるのか考えるように変わってきました。例年ならテスト二週間前ごろになってあたふたしてくる学生たちが多かったのですが、昨年度あたりから、もっと事前に分からないポイントを質問したりする学生が増えてきました。

3)学生一人ひとりの理解度や得意不得意を見極め、対応することができる

10人程度のクラスで授業をしていると、普段の授業だけでもそれぞれの学力はわかります。作文を取り入れることで、それぞれの学生の苦手としている部分、たとえば動詞の人称変化がわかっていない、定冠詞と不定冠詞の区別が苦手、格変化が理解できない、あるいは英語の語順になってしまうなど、個々の学生の考え方の癖や勉強の仕方も見えてきます。そういった不得意分野については、日頃授業から注意しておしえるようになりました。

4)教科書の進度にとらわれない、自由な問題づくり

出題する内容は、毎回の授業の内容だけにとらわれないよう、多くの学生が苦手とする分野については、何回も繰り返し出題することで知識の定着を図っています。文法の教科書では、どうしても一つの課が終わり、つぎの課に進むと、前の学習内容は忘れられてしまいがちです。しかし教える立場から重要なことや理解して欲しいことは、すでにおわった課の内容でも、なんども問題にだし、授業でもリマインドすることができます。

5)中間テスト・期末テストの問題づくりが簡単に

これは私にとってのメリットですが、普段から作文の問題をあれこれ作るようになったので、中間・期末テストで新たな問題を作ることが容易になりました。学生へのサービスとして、すでに出題した問題を出すこともありますが、既習の知識を組みわせレバできるような新しい問題も出しています。また、特定の動詞や前置詞を使って自由に作文せよ、というような問題も出すなど、出題のバリエーションが広がりました。

*1:例外的に毎回宿題を課していたのが、京大で1年だけ担当した2回生以上の講読の授業でした。フロイトカフカを扱っていたので、予習してくること前提で、毎週2ページくらいのペースで進めていました。