ドイツ語教員が教えながら学ぶ日々

熊谷哲哉 ドイツ語教育、ドイツ文学、文学じゃないけどおもしろいものなど。

アクティブ・ラーニング教室を使った授業で何ができるか?

進化する経営学部、アクティブ・ラーニング室を開設!

私が務めているのは、本学の看板学部の一つ(ほかには理工学部が昔からあります)でありながら、いちばん校舎がボロい経営学部です。田舎のデパートのような天井の低い造りの古い建物には、上りのエスカレーターがついているものの、下りは階段のみで、エレベーターは10人くらいしか乗れない、普通のマンションについているようなのが二機のみです。一学年1300人以上いるのにこれかよ、とがっかりすることも多くあります。しかし、今年に入ってから、これまで物置のようだったゼミ室が、アクティブ・ラーニング室として改装され、非常に使いやすくなりました。

今回は、新しくなった教室でどんな授業ができているか、そして現在の課題はどんな点にあるのかということをレポートします。

f:id:doukana:20180601235858p:plain

ホワイトボードを使った授業のイメージ


前後に全面ホワイトボード

以前の日記にも書きましたが、かつてはほとんど黒板ばかりだった私の授業ですが、現在は、語学5コマすべてがホワイトボードの部屋になりました。中でも火曜3、4限と木曜4限で使っている601教室は、部屋の前と後ろにホワイトボードがある、少人数、アクティブ・ラーニング型授業に対応した部屋となっています。

601教室は、以前は狭く細長い部屋の手前側に移動式の黒板があり、学生たちは2人がけの長机に4列くらいで座るようになっていました。ちょうど私が中学生の頃に通っていた、椎名先生の英語塾のようなこじんまりした部屋でした。

黒板は、運動部の部室にあるような小さな移動式のものしかなかったので、毎回ほとんどまとまった板書はできず、できる限り口頭およびプリントで説明していました。プロジェクタやスピーカーは当然ないので、音声はポータブルスピーカーで流し、教科書付属のDVD(ミュンヘン行ったりするやつ)は一度も使いませんでした。

f:id:doukana:20180601171241j:plain

改装後は、図のように、部屋の一方にPCや書画カメラなどの入ったキャビネットが置かれ、短焦点プロジェクタがつき、壁には前後とも全面ホワイトボードがつけられました。机は個人ごとに、移動できるものに変わりました。(だいたい最大25名程度は入れそうです)

 

物置小屋からアクティブラーニング室へ

金曜日2時限、2年生クラスで使っているのは、かつては、よほどのことがない限り使う機会などなかった、20号館1階の部屋ですが、いつの間にかリニューアルしていました。(20号館は経営学部の21号館とセットになっている建物で、大教室、ゼミ室、語学等に使う教室があります。

f:id:doukana:20180601171107j:plain

壁一面のホワイトボードだけでなく、3台もの単焦点プロジェクタ、移動式のテーブルやホワイトボードもついていて、わりと大人数のクラスでも使えるアクティブラーニング室に変身していました。(私のクラスは20名ですが、畳んであるデスク全てを使うと50人くらいの授業はできそうです)

私がとりわけ使いやすくて気に入っているのが、この教室です。

台形の可動式テーブルを組み合わせて、グループを作りやすくなっていたり、各テーブルのすぐ近くに、ホワイトボードを持ってくることができる点などが気に入っています。

 

可動式ホワイトボードを使ったグループワーク

せっかくアクティブラーニング室が使えるのだから、これまでとは違った形のグループ練習などができないものか、と模索して先月あたりから毎回の授業にグループワークを取り入れています。

以前の記事にも書いたように、私は本務校の授業では、簡単な作文をすることで、ドイツ語文法の知識の定着と運用能力をつけることを中心とした授業を行なっています。毎回ごとに授業終わりに、その日説明した内容を使った提出課題を出すという形式です。

schlossbaerental.hatenablog.com

学生たちはそこそこ勉強ができるので、動詞の人称変化などパターン化された練習は得意なのですが、自由作文のような、これまでに習得した知識をまとめることは苦手です。そこで、中間テストや期末テストで以前から出題していた、条件にあった文章をいくつも作るということをグループワークにしました。

具体的には、以下の通りです。(出題の例)

1)動詞で始まる疑問文とその答えの文を3つ作る。

2)疑問詞で始まる疑問文とその答えの文を3つ作る。

出来上がった文をグループごとにホワイトボードに書きましょう。

 

学生たちには、初級文法の一番最初の段階である、動詞の人称変化および語順のルールを教えています。そこで教科書を使い、 すでに出てきた例文を参考にしながら、グループごとに作文をします。

教員は、途中でミスがある場合には、「ちょっと間違ってるけど、どこが変か考えてみよう」とか「もっと違った書き方はないかな」とコメントをしながら、机間巡視します。全グループの回答が出揃ったら、各グループごとに書けた文を紹介し、講評します。

このグループワークは、学生たちの提出課題を見ていると、語順や人称変化の間違いが多いので、教科書を使って復習させるより、課題をグループごとにやったほうがいいのでは、という発想からはじまりました。

f:id:doukana:20180511120101j:plain

教室入り口側の全面ホワイトボードを私が使います。(よく見ると課題が先ほど書いたものとちょっと違っていますね。3、4格の目的語を含む文を作るという課題です)

f:id:doukana:20180511120055j:plain

f:id:doukana:20180511120103j:plain

学生たちを見ていると、非常に生き生きと意見を出し合っているので、その後はほぼ毎回、何らかのお題を与えて、グループごとの作文練習を(15分〜20分程度で)行なっています。教科書やプリントで練習問題をやらせるより、たしかに数はこなせませんが、話し合うなかで、より一層理解は深まっているのではないかと期待しています。

 

全面ホワイトボードはちょっと使いにくい?

601教室を使う1年生の授業でも、ホワイトボードを使った作文のグループワークを取り入れています。10人履修者がいる火曜日4限のクラスでは、2人ごとのチームで実施しました。この時に、ちょっと学生の動きが鈍いように感じました。どうも、ホワイトボードに書くときに、いちいち躊躇してしまうように見えました。

私たち教員が期待するのは、チームのメンバーがあれこれ意見を出し合い、ホワイトボードにメモを書きつつ、チームの解答をまとめるというようなワークです。

しかし学生たちは、まずそれぞれのノートを使って話し合い、できあがった正解をボードに「清書」する、という作業手順を踏んでいるように見えました。 

私たち「大人」の感覚として、ホワイトボードにあれこれ思いついたことを書いて、意見を出し合いながら、消したり書き加えたりを行った作業をすれば良いと思うのですが、学生たちはまだなれていないのかもしれません。

これは、基礎ゼミでときどき行う、模造紙を使ったグループディスカッションなどでも感じたことです。学生たちは手を動かさずに話し合って、ようやく出てきた答えを、模造紙に清書するという手順をとります。せっかく大きな模造紙を使うのだから、書いたり消したり好きにすれば良いのにと思ってしまいます。

その点、20号館1階のように、各グループごとのホワイトボードが使える部屋だと、学生たちはもう少し気軽に作業ができるらしく、グループによっては、各メンバーが好き放題書きなぐって、あとで意見を出して推敲していくという方法を取っているところもありました。教員側としては、せっかくのホワイトボードなので、どんどん自由に使ってもらいたいと願っています。

 

ホワイトボードでのグループワークをどう発展させるか?

文章を作るグループワークを、各クラスで実施しながら気づいたのですが、これは教科書の作文問題から、会話文や自由作文を作るための橋渡し的な練習になるということでした。

以前の記事に書きましたが、2013年には、1年生クラスを中心に、ドイツ語で会話文を作り、動画にするというグループワークを実施しました。また、2015年の神戸大1年生クラスでは、やる夫・やらない夫のイラストを組み合わせた会話文をつくるワークも実施しています。

schlossbaerental.hatenablog.com

このときに難しいと思ったのは、教科書の例文や練習問題のレベルから、会話のやり取りを含む「お話」をつくるという段階へのギャップをどう埋めるかということでした。結局は、私が必死で会話文を添削したり、あるいは語学センスのある学生の能力任せとなってしまいました。

最近のグループワークを振り返ると、たとえば一定の条件に従って疑問文と答えの文を作る、というのは、教科書の問題とシナリオの作成との間をうめる練習になるのではないかと思いました。以前の授業では学生に丸投げしていた、シナリオ作成ですが、いまのように段階的に、文章の語順や動詞の使い方を復習し、会話文を作るという段階を踏んで進めていけば、これまでより学生が取り組みやすくなるのではないかと思いました。

今学期の授業の最終目標をどこに設定するかはまだ決まっていませんが、これまでに行っていたプレゼンテーションの課題よりも、もう少し高度なところまで持っていけるのではないかと期待しています。