ドイツ語教員が教えながら学ぶ日々

熊谷哲哉 ドイツ語教育、ドイツ文学、文学じゃないけどおもしろいものなど。

大文字山が見えるアパートと洗濯機の思い出

洗濯機とともに過ごした一人暮らし時代

日本の住宅はほとんど個人で洗濯機を所有しているが、それは外国人から見ると驚くべきことだ、と知人が言っていました。ドイツでは集合住宅の一階や地下一階などに洗濯機が設置されていることが多いものの、たしかに日本では一人暮らしの学生アパートにも多くの場合洗濯機置き場がついていて、一人一台所有することがあたりまえになっています。

私がこれまでに住んでいた家の場合、東京の木造アパートのころは、廊下に自分の洗濯機(二槽式)を置いていました。このタイプの洗濯機は非常に単純なしくみながら、洗濯物の種類や量に合わせて効率よく時間を調整しながら洗える(洗濯物を種類ごとに分け一方で洗濯とすすぎ、もう一方で脱水をするなど)ので、手間さえ惜しまなければ非常に便利だと思いました。

その後引っ越して半年弱すごした世田谷区のアパートでは、洗濯機置き場がないのでコンランドリーに通いました。

京都に移って最初に住んだアパートは、全自動の新しい洗濯機が一階のシャワー室となりに設置されており、誰でもタダで使えるので、フル活用しました。おそらくアパートの住人は十人くらいいたので、毎日24時間ほぼ誰かが使用していました。しかし自室から顔を出せば洗濯機の動作音は聞こえるので、無音の時に自分の洗濯物を洗えば、誰かとかち合うこともありませんでした。

この北白川のアパートは老朽化で取り壊しとなったため、私は2007年の秋からおなじ左京区の浄土寺、バス停で言えば銀閣寺道からすぐ近くのアパートに移ります。

窓を開けると大文字山が見える部屋でした。

 

銀閣寺道のアパートでの快適な生活

不本意ながら北白川のアパートを離れた私ですが、いろいろ考えて数百メートルしか離れていない、銀閣寺道バス停付近のアパートに移りました。このころは博士課程の4年目でいちばん熱心に研究に打ち込んでいた時期でした。毎月何冊か海外の古書を買っていたので、引っ越し後もしばしば前のアパートに出かけ、大家さんから注文した古本を受け取っていました。近所に引っ越して正解だったと思いました。

(当時のデスク周り。自作棚ではなくメタルラックに本やコピー本を並べていました)

このアパートに引っ越して、私ははじめて風呂つき物件に住むことになりました。すでに31歳でしたが、ようやくこの年になって、自宅風呂や洋式トイレや二口ガスコンロや台所の湯沸かし器など、一般的な一人暮らし世帯といえるような設備がそなわった家に住むことができました。

(2008年夏、iPhone3Gを買っていました。小さいですね)

べつに収入が安定していたわけでも、将来の展望が開けたわけでもなんでもなかったのですが、やはりあのとき、それまでより少しいい部屋に移ろうと思ったことには大きな意味があったと今では思います。

なにも特別なことはなかったにせよ、生活は少しずつ変化するものだし、自分だってこの時間が止まったような左京区に住みながらも、徐々に歳をとっていくのだと初めて実感できたからです。その後助手になり、結婚し、それまでとは大きく生活も収入も変わっていったのですが、やはりきっかけになったのはあの2007年の引っ越しだったはずです。

銀閣寺ハウス間取り図

雪の大文字

送り火の日は屋上の物干し場で。遠くの山までよく見えました。

 

50円玉でしか動かない洗濯機

このアパートでいちばん困ったことが洗濯機でした。共用洗濯機は屋上に出る階段の上にありましたが、おそらく全部で30部屋以上あるにもかかわらず、洗濯機は2台しかありませんでした。暇な時間に洗濯をしようと階段を登って屋上に行くと、ほとんどの場合だれかが使用していることになります。幸い私の部屋は階段のすぐ近くだったので、自室を一歩出て、洗濯機の音が聞こえるかどうかで使用中かどうか判断することができました。

数が少ないことより、むしろ問題だったのは、一回の使用につき150円入れる必要があったのですが、50円玉でないと受付けてもらえないという点でした。

普通に暮らしていたら100円玉や10円玉はたくさん財布に残るかもしれませんが、50円玉はそれらに比べてだいぶレアです。もらったら忘れないように小銭入れから台所の片隅に出しておき、いつでも使えるように50円玉貯金をしていました。

 

高野の友人宅から台車にのせて洗濯機を運ぶ

そうやってしばらく50円玉しか使えない共用洗濯機を使用していましたが、どうしても使いたい時に50円玉がなかったり、常に誰かが使用中だったりして思うようなサイクルで洗濯ができないことにかなりいらだっていました。

そんなとき、春に修士課程を修了して故郷に戻るという友人から、洗濯機をゆずってもいいとの申し出をうけました。自分自身の引っ越しで活躍したミニマムサイズの台車を持って、約3km離れた高野にある友人宅に引き取りに行きました。当時は自動二輪の免許しか持っていなかったので、車で運ぶという選択肢はありませんでした。高野あたりは日頃のジョギングで通っているし、洗濯機くらい台車があれば簡単に運べるはずだと楽観していました。

しかし一人暮らしサイズとはいえ、20kgを超える重たい洗濯機なので、高野を出発してすぐ、これはまずいなと思いました。ジョギングならばわずか15分くらいで行ける距離なのに、重い荷物を押して歩くと1時間くらいかかりました。最後はひとりで洗濯機をかついで三階の部屋に持ち上げましたが、その後二日間くらい腰が痛みました。

 

父のアドバイスをもらって初めての水道工事

洗濯機を部屋に設置するにあたって、DIYで水道工事をしました。このころ私はまだDIYに本格的に取り組んだことはありませんでした。父の壁紙貼りなどの作業を手伝ったことはあっても、自分から何かをDIYすることは考えていませんでした。

しかし洗濯機を洗濯機置き場がない部屋に設置するということで父にアドバイスをもらいました。そして私がDIYで試みたのは以下の点です。

1)お風呂場の水道を2つに分配し一方に取水ホースをつける

2)洗濯機の下にコンクリートブロックを置いて高さをつけ、風呂場へと排水ホースを流せるようにする。

川端通りにあったホームセンターに出かけて必要な工具をそろえ、部屋の外から水道の栓を閉めて、お風呂場の蛇口を交換しました。この工程はうまくいくか心配でしたがけっこう簡単にできたので、のちに台所の水栓も老朽化が目立ってきたので新しいものに交換したりしました。実は私にとって自宅DIYの出発点は水道工事だったのかもしれません。

玄関には靴箱、ロードバイクと共に洗濯機をおいていました。洗濯機の下にブロックを置いて高さを稼いでいるのがわかります。排水ホースは普段は本体横にくっつけておき、使用時のみお風呂場のほうに伸ばしていました。

防水パンがないとやはり水は漏れる

友人からもらった全自動式洗濯機は非常にうまく機能し、毎日充実の洗濯ライフが送れていました。

しかし何度かトラブルにも見舞われました。

洗濯の後の排水時には、ホースをお風呂場の排水口へ伸ばして水を流していたのですが、しばしば脱水時の振動などでホースの位置がずれ、台所の方に水があふれることがありました。台所といっても当然本棚があるので(イラスト参照)、ちょっとした漏水でも大災害につながります。ホースから耳慣れない音がして、あわてて駆けつけると、台所の床が水浸しになっていて、あわててタオルを広げることが何度かありました。

こういう漏水事故を防ぐために洗濯機置き場には防水パンがあるのだとあらためて気づきました。

また、排水ホースが摩耗して穴が空いてしまったこともありました。脚として置いていたコンクリートブロックや風呂場の入り口などでこすれて、蛇腹状になった排水ホースに小さな穴が空いていました。最初は漏水箇所がよくわからないので、タオルをかぶせて塞ぎましたが、だんだん漏水箇所が増え、洗濯機周りはつねに少し水が漏れていました。

(パテとテープで補修したホース)

(本体下にデジカメを入れて、ホースがどこについているのかを確認しました)

意を決して漏水を修理しようと、洗濯機の下にカメラを入れて写真を見ながらホースの付け根からの漏水を治したり、テープやパテで穴をふさいだりしました。ちゃんと洗濯機置き場がある部屋であれば、こんな無駄な苦労をしなくてもいいのに、よくがまんしていたものだと今では思います。

 

旅行で滞在するときだって洗濯機は必要だ

助手になって収入が安定し始め引越ししたいと思いながら、結局この部屋に3年半住みました。結婚を機に2011年の春にアパートを離れ、洗濯機は処分しました。たしかリサイクルショップに引取りに来てもらったと思います。洗濯機の下に敷いていたコンクリートブロックはどうしたのでしょう。おそらくアパートの屋上かベランダに放置したと思います。

その後は全自動洗濯機、ドラム式洗濯乾燥機などを使いながら暮らしてきました。現在は高層階に住んでいるということもあり、ほぼ洗濯物は外干しせず、乾燥機で乾かしています。

いまでもときどきドイツに出張したときなど、洗濯機がない部屋に泊まることがありますが、やはり不便です。

2013年にドレスデンに一ヶ月滞在した時は、宿舎に洗濯機がないので、路面電車にのって街まで出かけて洗濯をしました。

ミュンヘンで何度も泊まっている快適なアパートメントホテルも、地下にある共同洗濯機がやたら高いので、日を決めて1kmくらい離れたコインランドリーに通っていました。

(容量が大きくて使いやすいコインランドリーでした)

(洗濯の待ち時間に散歩すると、広場で刺繍を売るおばあさんに出会いました)

最後に渡独した時に泊まったベルリンのアパートメントは、日本では見ない縦方向に回転するドラムがついた洗濯機がありましたが、やはりどんな形式であれ、連泊するなら部屋に洗濯機は必要だなと痛感しました。

日本では見たことがない、縦方向に回転するドラム式でした。幅が狭い場所にも置けます。