ドイツ語教員が教えながら学ぶ日々

熊谷哲哉 ドイツ語教育、ドイツ文学、文学じゃないけどおもしろいものなど。

何度習ってもよくわからない人のためのドイツ語発音入門

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*イメージは実際の発音と関係ありません

妻がドイツ語を覚えない

ときどき妻が「これなんて読むの〜?」とドイツ語の単語をてきとうに読みます。そのたび、これはこう読むんだよと教えていますが、いっこうに覚える様子がありません。フランス語を長年学んできた妻は、現在は英語やフランス語で発表したり論文投稿をしたりしていますが、ドイツ語学習経験はまったくありません。本人としては、ドイツ語圏に無関心ではない、そのうち勉強すると言っているものの、ときどき説明する程度では、いっこうに発音すらできるようになりません。何度も同じことを教えるうちにいらいらしてきたので、ごく基本的なルールだけでもまとめておきたいと思いました。

また、あわせて私のドイツ語クラスの学生たちがなかなか覚えにくいポイントについても指摘しておきます。

 

ドイツ語として正しい発音?まずはカタカナ発音でも大丈夫

ドイツ語の発音について、言語学を専門的に勉強したわけでもない私が、あれこれ口を出すのは正直いって気が引けます。しかし、初級ドイツ語で教えるべきことは、言語として絶対的な正しさではなく、他言語の特性を知ることで、日本語をより深く理解することでもあるので、日頃授業で説明している方法を紹介します。

そのドイツ語じゃ伝わらない? 伝わるけど返答がわからないことが多い!

ちゃんとした発音でないと伝わらなくて困るから、カタカナなんかで発音を覚えようとするのは間違いだという意見もあります。しかし、経験的には、自分の言いたいことが発音が悪くて理解してもらえないことよりも、自分の聞き取り能力のまずしさで、人の言ってることが理解できないということのほうが、ずっとずっと多いです。

ドイツには、実際のところたくさん移民や多言語を母語とする人が住んでいます。地域的な方言の違いもあります。そのため、日本で私たちが予想するよりも、はるかにドイツでドイツ語を話した時に、ストライクゾーンが広いように感じました。

ですから、まずはカタカナでも英語訛りでもいいので、言いたいことを言えるようになりましょう。

初級の教科書にも書いてあることですが、原則としてはローマ字読みです。そして書いてある文字はほぼ全て読みます。

例:kommenコメン findenフィンデン glaubenグラウベン Geburtstagゲブルツターク

  eineアイネ   kleineクライネ Stollenシュトレン gegangenゲガンゲン

学生は、しばしば英語のように語尾のeをぼやかして読んでしまいますが、前の記事にもあるようにドイツ語は冠詞の語尾変化が非常に重要なので、書いてある通りしっかり読まなければなりません。

音声を利用して、カタカナからドイツ語らしい発音へとステップアップ

カタカナ発音で十分とはいえ、音声を利用することは上達の近道です。教材の付属CDや電子辞書の読み上げ機能を使うのがベストでしょう。しかし、紙の辞書しかない場合や、ドイツ語をちょっと調べたいという場合は、昨今では自動音声を使うという方法もあります。Google翻訳のテキスト読み上げ機能が一番手軽です。

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アプリをダウンロードしたら、調べる言語を設定します。

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カメラでドイツ語テクストを撮影し、そこから訳したい文章をマークすると、日本語訳とドイツ語音声を聞くことができます。

また、単語だけを調べる場合には、キーボードで入力し、音声を聞くこともできます。

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あるいはドイツ語的な発音のイメージ(文のイントネーション)を掴むのであれば、ドイツ映画やポップ・ミュージックを聞くのもいいでしょう。

 

ドイツ語の間違いやすい発音

学生が特によく間違えるものを重点的に、ドイツ語独特の発音を解説していきます。

1)複母音

au (日本語のアウよりもアオに近い音)Hausハウス(家)Traumトラウム(夢)

ei (アイ)Leibライプ(体)  Beilバイル(斧)  einアイン(一個の) zweiツヴァイ(2)

eu/ äu (オイ)Euroオイロ(ユーロ)Gebäudeゲボイデ(建物)

ie(イー) Triebトリープ(欲動) Liebeリーベ(愛)

 

2)ドイツ語独自の子音の読み

・単語の後ろに来るb, g, dの音はそれぞれ濁らない音になります。

Betriebベトリープ(企業) Nürnbergニュルンベルク Fahrradファールラート(自転車)

・単語の後ろのigは「ヒ」

Königケーニヒ(王)Honigホーニヒ(はちみつ)wichtigヴィヒティヒ(重要な)

・st、spは冒頭に来たらシュト、シュプの音

Stuttgartシュトゥットガルト、Spurシュプール(足跡)

・chsは「クス」

sechsゼクス(6) Lachsラクス(鮭)

・jはヤ行の音

Japanヤーパン jetztイェツト(今)

・ßエスツェットはssと同じ

Fußballフースバル(フットボール) großグロース(大きい)

・vはフ、wはヴの音

Vaterファーター(父) Weinヴァイン(ワイン)

・zはツの音

Zeitツァイト(時間) zehnツェーン(10) Franzフランツ(名前)

 

3)英語との干渉

英語の読みと違うため、ドイツ語の発音に馴染めないことがよくあります。とくに学生が引っかかりがちなのが、schです。

Schule シューレ(学校)すくーれではありません。

Schwein シュヴァイン(豚)

schreibenシュライベン(書く)

しかし、Englischエングリッシュ(英語)やFischフィッシュ(魚)は発音が英語とほぼ同じなのであまり間違えないようです。

 

4)日本語にない音
ウムラウト

ドイツ語には英語にないアルファベットが4文字あります。そのうち三つが、2個の点がついたä, ö, üです。もともとウムラウトはeの文字を小さく上に書いていたそうですが、だんだん省略されて¨だけになりました。つまりどの音にもeの音がふくまれています。

eの音とは、わかりやすく言えば日本語の「エ」と同じように、下の中央部を上にあげるような音です。(自分であいうえおと発音しながら、舌の位置を確認すると、「い」と「え」の時、舌が前に張り出して口蓋に近づいているのがわかると思います)

ä(口を大きく開けながらエー)gähnenゲーネン(あくびする)Universitätウニヴェルズィテート(大学)

ö(舌を「エ」の位置にキープしてオーの発音)Österreichエースタライヒオーストリア) Kölnケルン 

ü(舌を「エ」のいちにキープしてイーの発音、ユーに近い音)übenユーベン(練習する) Tübingenチュービンゲン

ch 

この綴りは2通りの音があります。一つは「は」よりも舌の中央部を口蓋のほうに上げて出す音です。

もう一つは口の広げて出す、「ひ」という音です。

ichイッヒ, rechtsレヒツ(右), Münchenミュンヒェンなどi, e, その他が前にあるときは「ひ」の音です。

また、a, au, o,が前にあるときはその母音に続けて「ハまたはホ」の音をくっつけます。auchアオホ(〜も), dochドホ(だが), nachナハ(〜へ、〜のあとに)などの場合。

r

巻き舌でもいいという教科書もあります。一番一般的なのは、喉をせばめて、うがいをする(あるいは痰を吐く)ように、ぐぐっと力を込めて出す音です。その際、舌は下の前歯の裏側に当てるようにすると、喉が狭まって音が出やすくなります。

l

逆にlは、日本語のラ行と同じように、舌を上前歯の根元に当てて出します。

上手に発音ができなくとも、舌の位置が上=l、下=rと区別して発音するよう心がけましょう。

5)長音と短音

長く伸ばす母音(長母音)と短い母音(短母音)の区別は大変重要です。

habenハーベン(have), Lebenレーベン(生命)

このようにアクセントがある母音(下線部)のうしろに子音が一つだけの場合は長音になります。 

しかし、Stollenシュトレンやkommenコメンの場合は、母音の後ろに子音llまたはmmと2文字ありますから、短い音です。

また、同じ母音字が二つ続く場合も長い音です。

aa Aalアール(うなぎ)

ee Seeleゼーレ(魂)

oo Bootボート

ドイツ語では基本的に全ての文字を読むと書きましたが、例外的に読まないのが、アクセントがある母音の後ろに続くhです。

gehenゲーエン(行く) sehenゼーエン(見る)wohnenヴォーネン(住む)

この場合、それぞれhの前の母音を長く伸ばします。 

6)できてるつもりでもできない音sやf

日本語やカタカナの要領で発音してしまうと、音声認識アプリなどには聞き取ってもらえない音がけっこうあります。こちらはちゃんとできてるつもりなのに、なぜSiriやDragon Dictationによる音声認識では聞き取ってもらえないのか!と怒る学生がいますが、こういうときは、発音の専門書を確認してみましょう。

sの発音

母音の前にあるsは濁る音になります。Sonntagならゾンターク、siebenはズィーベンとカタカナ表記できますが、実際はちょっと違います。

このsは日本語のように、舌を上の前歯の裏にくっつけて発音しません舌と前歯に隙間があくようにして音を出します。そうすると、サ行とザ行の間くらいの音がします。これがドイツ語のsです。日本語のザ行より若干柔らかい音になります。

fとhの区別

どちらも日本語だとハ行に相当する音なので、同じように読んでしまいがちですが、けっこう違います。

fは前歯を下唇につけて出す音です。fahrenファーレン(行く)、Firmaフィルマ(会社)濁る音がw:Wagnerヴァーグナー、Wienヴィーンの音です。前歯を使って出す音だということに気をつけましょう。

また、hについてもHundフント(犬)、Hungerフンガー(空腹)などuと結びつくときは、日本語の「ふ」よりも奥の方から音を出すイメージで読んでみましょう。

IPA国際音声記号)を覚えていると早い! 妻がすぐできるようになった

この記事は、ドイツ語を覚えられない妻のために書き始めました。ちょうど自宅にたくさん教科書の見本誌が送られてきた時期です。数冊の教科書を見て妻はにわかにやる気を出し、毎夜ドイツ語の勉強をはじめました。わずか数日ですが、いつの間にか私が特に教えなくても単語や文を読めるようになってきました。

これは妻がフランス語学習の際に、IPA国際音声記号)をしっかり覚えていたため、単語とともに発音記号を見て、すぐに音を再現できたからです。

今回の記事では、高校を出て大学に入ったばかりの学生を対象にしているので、あえて発音記号にはふれず、カタカナと口の使い方による説明だけにしています。しかし当然のことながら、他の言語や英語学習の際にIPAを覚えて、それを使ってドイツ語の発音を習得した方が、ずっと早く正しい発音ができるようになります。

 

参考書はこれがオススメです

 

新装版 DVD&CDで学ぶ ドイツ語発音マスター

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教員として学生に説明するときによく使うのがこの本です。今回の記事で取り上げた、日本人にはわかりにくい音の出し方が非常に丁寧に説明されています。