ドイツ語教員が教えながら学ぶ日々

熊谷哲哉 ドイツ語教育、ドイツ文学、文学じゃないけどおもしろいものなど。

学生が間違いやすいドイツ語文法総まとめ

ドイツ語総合4におけるプレゼンテーションの課題

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私が担当する2年生のクラスでは、最終回に会話文の作成とプレゼンテーションのテストを行いました。前期の内容を以前紹介しています(下リンク)が、後期も同様に、必ず使う文法事項を指定し、それを含む10文以上の会話文を作成し、発表させました。

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どのチームも協力して、非常に面白い内容の文章を作れました。このワークの目的は、後期の学習内容を総復習し、筆記試験に向けて各自のあやふやな部分を再確認させるという点にあります。

同時に私自身も学生たちの様子やできあがった文章を見ながら、なるほどこの点がまだ理解できてないなあ、このへんは弱いなあと自分の教えてきたことがどのように吸収されたかを確認することができました。

今回は、この一年、各学年で教えてきたことを思い出しながら、学生が間違いやすいポイントをいくつか挙げていきます。学生の皆さんには、自分の教科書でチェックしながら読んでいただければ幸いです。

 

1)人称代名詞の種類

基本中の基本ですが、人称代名詞全9種類がちゃんと覚えられていないという学生は多くいます。

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9種類が覚えられないというよりは、英語と分節化が異なるので、整理できていないという学生が多いようです。

間違いやすいのはやはり2人称です。英語の場合は、youだけですが、ドイツ語では、du=君、ihr=君たち、Sie=あなた・あなたたちと3種類に分かれます。とくに混同されやすいのは、duとihrです。作文などではihrとsie(三人称複数、彼ら)を混同して書いてしまうという例もよく見ます。

あと、そんなに多くはないのですが、単数のsieと複数のsieを混同している人もいます。彼だったらer istだけど、彼女の場合はsie sindになるんですか?と聞かれたことが何回かありました。*1

後述しますが、ドイツ語は人称代名詞ごとに動詞の形が変わるので、人称代名詞の区別は非常に大切です。

 

2)格の概念

ドイツ語の名詞・代名詞や冠詞、形容詞などは文中の役割に応じて形が変わります。これを格変化といいます。

これもできれば前期のうちに理解しておいてもらいたいことですが、格の考え方がどうしても身につかないという学生が多くいます。文中の成分がどの格であるか、語の形の上から判断することはできるものの、なぜそうなのか説明できないというケースはよく見ます。

Ich habe meinem Vater eine Uhr gegeben. 私は父に腕時計をあげた。

この文のmeinem Vaterは所有冠詞のかたちで3格だとわかります。しかし、そのあとのeine Uhrはどうでしょうか。形だけでは1格とも4格とも考えられてしまいます。

この文の場合は、冒頭にichがあるのでeine Uhrは1格ではなく、4格と判断できます。

「は、の、に、を」に一致するわけではない

教科書や参考書で、必ずしも日本語の「は、の、に、を」が1格・2格・3格・4格に一致するわけではないと書かれているように、日本語の助詞はあくまで理解の手がかり(概念を整理する上でのとっかかり)でしかありません。(だからそもそも日本語の助詞と格を対応させて教えること自体に否定的な先生も多くいます)。異言語なので当然私たちの日本語とは概念を整理するしくみが異なっているのです。この点を頭に入れておく必要があります。

2格の「の」については以前書いた記事を参照してください。

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初級の教科書でも、日本語の意味だけを覚えていると間違えてしまう場合がいくつかあります。

格の考え方を理解するには、名詞や冠詞がどういう形になっているかではなく、その文にどんな動詞があるかに着目する必要があります。seinなら1格、habenなら4格という具合に、動詞でその文に含まれる名詞(類)の格は決まるからです。

そして、初級の教科書でとくに注意が必要なのは、以下の動詞です。

gehören:(物1格)が(人3格)のものである、という意味です。
Das Fahrrad gehört meinem Bruder. その自転車は私の兄のものです。

gefallen:(物1格)が(人3格)にとって気に入る、という意味です。
Diese Krawatte gefällt mir nicht so gut. このネクタイ、私はあまり気に入らない。
日本語では、かならず人を主語にして「気に入る」というのでやや訳しにくい語です。

helfen:(人3格)を助ける、に役に立つという意味です。
Er hilft dem Mädchen. 彼はその女の子を助ける。日本語だと〜を助ける、という言い方をするので、4格と混同しやすいのですが、「〜にとって役に立つ・助けになる」と考えれば3格目的語をとると納得できるのではないでしょうか。
*あと、不規則変化である点も要注意です。

anrufen:(人4格)に電話をかける、という意味です。
Gestern hat er mich angerufen. 昨日彼は私に電話をかけてきた。もとは人を呼ぶ、誰かに声をかける、という意味です。またtelefonierenも電話をかけるという意味ですが、こちらはIch habe mit ihm telefoniert.のようにmit +3格で「誰かと電話で話す」という言い方をします。

treffenおよびsehen:どちらも(人4格)に会うという意味です。日本語だと「〜に」というので3格と考えがちですが、要は「誰かを」見る=会うなので4格だと考えればいいのでしょう。

 

3)動詞の人称変化

できれば1年目前期のうちに身につけておきたいのが、動詞や助動詞の格変化です。様々な種類があるように見えますが、じつは基本的なパターンのバリエーションにすぎません。英語に比べれば複雑かもしれませんが、フランス語などに比べればはるかに単純です。

基本的には、動詞の語尾が以下の表のように変化します。

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学生によくある間違いとして、どこが語幹(変化しない部分)か理解しておらず、たとえばhabene, habenstのように不定詞のうしろに語尾をくっつけてしまうというのがあります。

助動詞は少し違うパターンです。ichとer/sie/esが同じ形になります。ich, du, er/sie/esのときは語幹も変化しますが、wir, ihr, sie/Sieのときは動詞の規則変化と同じように語尾だけが変化します。

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不規則動詞の変化

また、不規則変化動詞laufen, fahren, sehen, lesenなどについては、とくにduとer/sie/esのときにウムラウトがつく変化を忘れる学生が多くいます。(du schläfst, er fährt, sie läuftなど)いつも言うことですが、積極的にウムラウトをつけてください。

 

人称変化については過去にもっとたくさんのパターンを解説した記事を書いていたので、そちらをご確認ください。

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4)冠詞類、人称代名詞の格変化

動詞の人称変化と同様、初級で覚えないといけないのが、冠詞類や人称代名詞の格変化です。

2)でも説明しましたが、ドイツ語では名詞や代名詞、そしてそれらにくっつく形容詞や冠詞類は文中の役割に応じて形が変わります。

格変化は定冠詞、不定冠詞、定冠詞類、所有冠詞、否定冠詞、形容詞とさまざまな品詞において生じますが、基本となるのは、定冠詞と不定冠詞の変化パターンです。

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定冠詞と不定冠詞の変化も表を見比べればわかるように、語尾の形が違うのは男性の1格、中性の1格・4格くらいです。

 

定冠詞と定冠詞類の格変化は、下の表のようによく似ています。

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同様に不定冠詞類(否定冠詞、所有冠詞)も不定冠詞の変化と似ています。

また、形容詞の格変化も上記2つの変化パターンの組み合わせで理解できます。こちらについては以前書いた記事をご覧ください。

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5)語順のルール

もう一つ、非常に間違いが多いのが語順です。

語順の基本

作文などでミスが多い点を中心に、ドイツ語の語順を確認していきます。

・平叙文では動詞(助動詞)が2番目

Ich spreche Deutsch. 私はドイツ語を話します。

Den Film habe ich gestern gesehen. その映画を私は昨日見た。

Am Wochenende will ich ins Kino gehen.週末は映画に行くつもりだ。
1番目の例のような単純な文だと間違える人はいませんが、2番目、3番目のように、主語から始まらない文の場合、どのように後をつなげればいいかわからなくなることが多いようです。3番目の文のように、時間に関する要素(昨日、今日、週末になど)が文頭に置かれる場合がドイツ語ではよくあります。その場合も2番目に動詞・助動詞、そして主語という語順になることに気をつけましょう。

・疑問文は2通り

疑問文の場合は、「はい・いいえ」で答える疑問文か、疑問詞で始まる疑問文かで語順が違います。

Hast du einen Stift?  Ja, ich habe einen Stift. 君、ペンを持ってる? ああ持ってるよ。

Was sind Sie von Beruf?  Ich bin Lehrer. あなたのご職業は? 教師です。

上のような場合は動詞が1番目に置かれます。下の文は疑問詞wasから始まっているので、その次に動詞が置かれます。

この原則は、助動詞を含む場合でも同様です。

Kannst du Geige spielen? Ja, ich kann sehr gut Geige spielen. ギターは弾ける?ええ、上手に弾けるよ。

Was musst du am Wochenende machen?  Ich muss ein Referat schreiben. 週末は何をしないといけないの? 僕はレポートを書かないといけないんだ。

助動詞が含まれる文(現在完了形なども同様)は、助動詞が一番目あるいは疑問詞・助動詞の順番になります。

 

・助動詞を含む文、現在完了形

疑問文の語順のところでも出てきましたが、助動詞を含む文の語順はドイツ語と英語で大きくことなります。原則として助動詞が二番目、本動詞が文末となります。現在完了形も同様に、完了の助動詞が二番目、動詞の過去分詞が文末となります。

Er will am Wochendende nach Tokyo fahren. 彼は週末に東京に行くつもりだ。

Mein Bruder hat mir ein Buch gekauft. 兄が私に本を買ってくれた。

助動詞が二番目、本動詞(過去分詞)が文末、間にその他の要素を挟むという形は枠構造と呼ばれます。学生は英語のように助動詞と本動詞を連続して書いてしまうことがしばしばあります。気持ちはわかりますが、助動詞を2番目においたらじっとがまんして最後に本動詞や過去分詞をくっつけましょう。(この枠構造をちゃんとつくるということについては、私は初めてドイツに滞在して語学学校に通っていた頃、よく夢にでてきました。Ich habe・・・と話し始めて過去分詞で文を終えなきゃ、と焦っているのになかなかちゃんと枠構造が作れない、どうしようと焦る夢をよく見ました)

・従属接続詞に導かれる副文

接続詞は文をつなぐ働きがあります。undやaberは並列接続詞といって、前後の文をそのままつなぐだけですが、weilやobwohlなどの従属接続詞の後の文は副文となって、語順が少し変わります。

Er kommt heute nicht, weil er krank ist. 彼は病気なので今日は来ない。

weilのあとの文は、er ist krankではなく、語順が入れ替わり、動詞が一番後ろに来ます。

Bevor er zu Mittag isst, lernt er Deutsch. 彼はお昼を食べる前に、ドイツ語の勉強をする。この場合はBevor以下の副文が前に出ているので、主文のほうは動詞lerntから始まっています。つまり副文が一番目の文の成分と数えているわけです。

Als er nach Berlin abfährt, kommt sie zum Bahnhof. 彼がベルリンへと旅立つ頃、彼女が駅へとやってきた。

副文の中に分離動詞が含まれる場合は、分離させずに副文の最後にくっつけます。

 

ほかにもzu不定詞や過去形、比較級・最上級、接続法など、重要な文法事項がありますが、今回はあくまで学期末テストのための最終チェックとして、最小限にとどめます。

 

 

 

 

 

*1:この場合もそうですが、ドイツ語以前の問題で、日本語をちゃんと理解できていない、文法的にとらえる視点ができていない学生がときどきいます。英語を学ぶうちに身につけておいて欲しいとは思うのですが。