ドイツ語教員が教えながら学ぶ日々

熊谷哲哉 ドイツ語教育、ドイツ文学、文学じゃないけどおもしろいものなど。

『ふらんす』での夫婦連載を終えて

いつのまにか連載が終わってた

毎月、10日くらいまでの時期が不安でした。ネタがない。書く時間がない。そして原稿の催促が来る。では今週末までにお送りします、とメールに返信して、その週末が終わろうとする日曜の夜に、ダイニングテーブルに向かい合って、4〜5時間かけて原稿を書いて送る。そのように続けてきた『ふらんす』の連載記事「ドイツ×フランスお隣りどうし」ですが、2月23日発売の3月号をもって、無事最終回となりました。

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この連載を始める経緯や、最初の2回分の原稿を書いた頃のことは、この記事にまとめました。

schlossbaerental.hatenablog.com

 

今回は連載が終わったので、これまで一年間でどんなことを書いてきたのかをふりかえっていきます。

 

第1回 4月号 発音をカタカナ書きするさいの問題

このネタは、初回ということもあり、わりとすんなり出てきたように思います。

日程的にも余裕を持って原稿を完成できました。

 

第2回 5月号 発音の規則と英語との関係

これも第1回から連続しているテーマだったので、それほど苦労はしませんでした。英語との類似性というのは、フランス語、ドイツ語両方に違った形で存在しているので、その点についても言及できたのが良かったと思います。

 

第3回 6月号 方言や地域ごとに異なる語

フランスとドイツの一番の違いが、地域性の尊重という点にあるのではないかと思っていたので、ドイツ語の地域ごとの違いや方言を取り上げました。フランス語ももちろん画一的ではなくて、地域ごとの差があります。チョコレートの入ったパンを何というか、という問題について妻がいろいろ調べて細かいことまで書いています。それ以後、このように、調べたことを一気にまくし立てるように書くのが妻のスタイルとして確立してきました。

 

第4回 7月号 名詞の性と性別を分けない近年の取り組み

フランス語は男性女性、ドイツ語は男性女性中性、と名詞の性の種類が異なるので、このテーマも必ず取り上げようと思っていました。名詞の性の地域的な違い、どのように性別が決まるか、近年の男性・女性両方を含んだ書き方などを調べてまとめました。ドイツ語のさまざまな表記の変化については、少し前に阪神ドイツ文学会でドイツから来られた先生が講演で話していた内容が役に立ちました。

 

第5回 8月号 動詞の変化と時称の種類

フランス語、ドイツ語が英語と大きく違うのは、動詞の変化の種類が多い点です。この記事では、フランス語の時称のややこしさ、ドイツ語では、動詞の名詞化や分離動詞などの文法事項を紹介しました。

 

第6回 9月号 名字と名前の種類

これも最初から書くつもりでいたテーマです。ドイツ語については以前ブログでも、流行の名前や名付けの歴史的な変化について書いたことがありました。

tetsuyakumagai.blogspot.com

今回はさらに、名字についてもDudenのLexikon der Familiennamenを使って調べたことなどを付け加えました。

 

第7回 10月号 長い単語と前置詞の種類について

フランス語が前置詞で語をつなぐのに対して、ドイツ語の場合は日本語の漢語のように、名詞と名詞をくっつけてどんどん長くすることができます。そのため、一語なのに、一行分くらいの長さになることがしばしばあります。そこからの連想で、前置詞について比較をしました。ドイツ語の前置詞は、英語とよくにていますが、前置詞の格支配(うしろにくる名詞の格が前置詞の種類ごとに違う)というのが大きな特徴です。

 

第8回 11月号 助動詞とその使い方

学生が間違いやすい文法事項として、助動詞の入った文の語順というのがあります。ドイツ語の場合、助動詞の形は英語と似ていますが、文の作り方はだいぶ異なります。また、ドイツ語でもフランス語でも、日本語から見ると文節化しづらい助動詞があったりします。その辺のことをまとめました。

 

第9回 12月号 クリスマスに何をするか

これも最初から書くと決めていたテーマでした。2019年の年末に、一週間くらいかけて、オランダ、ドイツ、ルクセンブルクを旅行しましたが、そのときに集めたヴァイナハツマルクトの情報などを記事に生かすことができました。

schlossbaerental.hatenablog.com

 

第10回 1月号 形容詞とその変化

ドイツ語初級文法でいちばんやっかいなのが、形容詞の格変化です。フランス語でも、形容詞は名詞の性によって形が変わります。また、形容詞が「〜なもの」をあらわす名詞になることなどについても言及しています。

 

第11回 2月号 ドイツ、フランス、あいだにルクセンブルク

ルクセンブルク研究者で、私たちの親友である小川敦さん(大阪大学准教授)を招いて、ルクセンブルクにおけるドイツ語、フランス語、そしてルクセンブルク語との関係についてお話を聞きました。この企画も、どこかでぜひやりたいと以前から考えていたことでした。12月始め頃に、zoomでミーティングを開き、それぞれの発言をちょっとずつ書き足しながら、記事の形をつくりました。夕方から4〜5時間くらいかかりましたが、何とか一回のミーティングで記事が書けました。この回がたぶん12回のなかで一番充実していたように思います。

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たいくつして箱に入って遊ぶネコの前に、ノートPCを置いて写真を撮りました。ちょうど箱の中からミーティングに参加しているように見えますね。

 

第12回 3月号 接続法、条件法ほか難しい文法事項

最後の回ということで、教科書の最後の項目にありがちな、「もし〜なら・・・なのに」という表現(ドイツ語だと接続法II式)を取り上げ、学習者がつまづきやすい難し目の文法事項を紹介しました。

 

どのように記事を書いていたか

12回の連載を振り返ってみましたが、毎月記事を書く中で、だんだんと型が定まってきたように思いました。

記事を書く際には、最初に1週間くらいかけて、アイディアを出しあい、こんなことがやりたいと方向性が決まってきたところで、最初のやりとり(グーテン・ターク、ボンジュールのあとの二言、三言くらい)を書き出し、その後をそれぞれ別個に考えて、数日たったらノートPCを開いて、代わる代わる書き足していくという方法で進めました。

考えてみると、ふたりとも研究者として仕事をしていますが、べつに同じ分野ではないので、共同で何かをすることはありませんでした。私たちはそれがあたりまえだと思っていましたが、こういう形でともに知恵を絞って何かを書くというのは非常に貴重な機会でした。

ちょうど今年は結婚10周年です。節目の年に、こういう仕事ができたことは二人にとって良い記念になったと思います。この企画を続けさせてくださった白水社さん、そして毎回読んでくださった方々に、心から感謝しております。また機会があれば、おもしろい記事を書きたいと思っています。