初級ドイツ語の山場 形容詞の格変化
今学期の前半は、本務校、非常勤先両方のクラスで、形容詞の格変化を教えていました。ここは、いわばドイツ語初級文法の一つの山場です。一年生のドイツ語授業で、このへんからわからなくなる人が続出するところです。20年前、大学で週に4コマドイツ語の授業を受けていた私も、夏休み前に学習した形容詞の変化がまったくわからず、後期以降はすっかり大学に行くことが苦痛になりました。
最近の教科書では、煩雑で挫折の原因にしかならない、形容詞の格変化は1年目の授業では扱わず、2年目以降に回すという方法もとられています。(本務校の場合は、ほとんどのクラスで、形容詞は2年目に教えます)
しかしながら、形容詞の複雑な語尾のルールは非常にドイツ語らしい特徴を備えているとも言えます。じっさい、授業でうまく説明できるときもちいい単元でもあります。今日は、形容詞の語尾変化のルールを例をあげながら説明します。
形容詞の何がどうして変化するのか
形容詞の用法とは?
日本語でも、形容詞は1)独立して物の様態を表す用法(述語的用法)「クマが大きい」と、2)何か名詞を修飾する用法(付加語的用法)「そこにいる大きなクマは赤カブトという」があります。
ドイツ語で言えば
1)Der Bär ist groß.
2)Der große Bär dort heißt „Akakabuto“.
おなじ形容詞großですが、下の文では、うしろに語尾-eがついていることがわかります。これが形容詞の語尾です。
冠詞とともに、名詞の性・数・格を区別するものとして変化する
ドイツ語の形容詞は、名詞に直接かかる場合には、名詞の性、数、格に応じて語尾が変化します。要は、冠詞が変化するのと同じように、形容詞の側にもその場に応じたオマケがついてくるわけです。
冠詞とともに変化する形容詞ですが、冠詞にも色々な種類があります。英語のtheにあたる定冠詞、aにあたる不定冠詞にはじまり、私のあなたののような所有冠詞、〜がないことを示す否定冠詞、dieserこのsolcherそのようなwelcherどのjenerあのといった定冠詞類など、さまざまな冠詞類が前にくっつく場合、そしてくっつかない場合、それぞれ形容詞の語尾は変化するわけです。
どのように語尾が変化するのか?
いくつかの具体例
ドイツ語の挨拶は、英語とよく似ています。初級クラスの1時間目に紹介するのが、
おはよう! Guten Morgen!
こんにちは! Guten Tag!
こんばんは! Guten Abend!
おやすみなさい! Gute Nacht!
という挨拶です。英語のGood morning!やGood night!に似ているので、すぐに覚えられます。しかし、時々鋭い学生は、なぜMorgenやAbendはGutenなのに、NachtはGuteなのか?と質問してきます。これこそが、形容詞の語尾の変化です。
あいさつのGuten Tag!はもともとは、一つの文でした。
Ich wünsche Ihnen einen guten Tag! 私はあなたによい一日を願っています!というのがもとの文です。つまり、Tag(男性名詞で日の意味)が4格になるわけです。そしてその前に不定冠詞einenがついて、形容詞gutがあります。男性4格なのでgutにはenという語尾がつきます。
Gute Nachtは何が違うのかといえば、こちらは女性名詞です。同じように不定冠詞がついて4格のときはeine gute Nachtとなります。Guten Tagと同様に、MorgenやAbendも男性名詞なので、Gutenという形容詞がつくわけです。
三つの変化形
ドイツ語形容詞の語尾変化は、上で示した例のように、不定冠詞がつく場合だけでなく、無冠詞(冠詞なし)の場合、さらに定冠詞がつく場合と、3つの変化形に分かれます。それぞれ下の表のように形容詞の語尾が変化します。
1)冠詞がついていない(無冠詞)場合:強変化
ワインWein, ミルクMilch, パンBrot、りんご(複数)Äpfelにそれぞれ形容詞をくっつけた場合です。語尾だけを取り出すとこうなります。
er, en, es, emなど様々な種類に変化するので強い変化=強変化とよばれます。
2)定冠詞(類)が形容詞の前にある場合:弱変化
der, die, dasなどの定冠詞あるいはdieser, jener, solcher, welcherなどの定冠詞類(定冠詞と同じように語尾が変化するもの)が前にあるときは、形容詞の語尾はe, enのみになります。
語尾変化はこのようにシンプルになります。男性・女性・中性の1格、女性・中性の4格がeになります。
3)不定冠詞(類)が形容詞の前にある場合:混合変化
ein, eineのような不定冠詞、mein, deinなどの所有冠詞、さらにkeinのような否定冠詞が前にあるときは、強変化と弱変化がまざった混合変化となります。
色をつけたマス、男性1格、中性1格・4格は、冠詞に語尾がつかない(ein, meinだけ)ので、形容詞の語尾が強変化型になります。それ以外は、弱変化型と共通です。
3種類も覚えられない!
通常の教科書では、上記の3つの格変化の提示され、学生はそれを一生けんめい覚えることになりますが、まあよほど頭のいい人でない限り、ちゃんと記憶することは不可能です。3種類の変化パターンを覚えるまえに、そもそも定冠詞や不定冠詞の格変化をおぼえるのもたいへんだし、所有冠詞やdieserやwelcherはどの変化のパターンになるのかわからない、という学生もたくさんいます。ここで、冠詞類の変化を整理して、そのうえで形容詞の語尾変化を理解しましょう。
冠詞類の変化の系統はじつは2通り
1)定冠詞の変化:語尾が大きく変化する er es(as) em enなどいろんな語尾のパターン
定冠詞、dieser, jener, welcherなどがこのパターンです。
2)不定冠詞の変化:語尾変化が小さい。男性1格、中性1格・4格に語尾がつかない。不定冠詞、所有冠詞、否定冠詞がこの変化です。
不定冠詞は一つのもの、不特定なものにつくので、通常複数形にはつきません。所有冠詞、否定冠詞の変化は定冠詞複数の場合と同様です。
形容詞の語尾と冠詞(類)の変化の関係
形容詞が名詞の前についている場合、形容詞あるいは冠詞(類)のどちらかまたは両方に、かならずなんらかの語尾がついていないといけません。語尾なしということはあり得ません。
そのため、このように整理することができます。
1:冠詞なしの場合=定冠詞型の強変化語尾
Ich trinke gern kaltes Bier. 私は冷たいビール(中性4格)が好きだ。
2:前に定冠詞がある場合=形容詞は大きく変化しない=弱変化
Der alte Mann kommt aus Tochigi.その老いた男性は栃木から来た。
3:不定冠詞がついている=男性1格、中性1格と4格は冠詞に語尾がないので、形容詞に強い語尾(er, esなど)をくっつける
Ein japanischer Student kauft ein deutsches Bilderbuch.
ある日本人の学生(男性1格)が、一冊のドイツ語の絵本(中性4格)を買う。
形容詞の格変化の考え方
長くなりましたが、これでまとめです。文章の中で、形容詞をくっつけた名詞を書くとき、どのような点に気をつけたらいいかを整理しておきます。
1)まずは名詞の性、数、格を確認。
2)名詞には冠詞はつくか?
3)冠詞がない→強変化 kaltes Bier
4)定冠詞・定冠詞類→弱変化 die schwalze Tasche
5)不定冠詞・不定冠詞類で語尾がない→er, esなど強い語尾 ein blaues Buch
6)不定冠詞・不定冠詞類で語尾がある→e, enなど弱い語尾 eine rote Blume
表をむりやり暗記するのではなく、すでに習った冠詞の格変化表を思い出しながら、形容詞の前に何がつくのかを考えて、適切な語尾を選べばいいのです。
最初はなかなかすんなり理解できないところもありますが、この複雑に見える語尾の変化も、なれればドイツ語のおもしろさとも言えます。