ドイツ語教員が教えながら学ぶ日々

熊谷哲哉 ドイツ語教育、ドイツ文学、文学じゃないけどおもしろいものなど。

格って一体何なのよ?

 

格概念は初級ドイツ語の一つの山場

久しぶりの文法解説の記事です。日頃大学で初級の授業や、通信教育部の試験の採点などをしていて気になっていることをまとめます。

f:id:doukana:20191128084204p:plain

 

学生を見ていると、格の概念というのが理解できていない人が多いと気づきました。もちろん教科書には、どの本でもちゃんと説明されているし、一部の教員から評判が悪い、アクティブラーニング系の教科書でも、一度に全部出てこないものの、1格から4格まで種類があって、それぞれに意味や形が異なることは明記されています。

しかし、説明を読んでもなかなか理解できなかったり、これまでに自分が知っている、日本語文法、英文法の知識にどう位置づければいいのか戸惑っている学生が多いのではないかと思います。今回は、格概念とは何なのか、そしてどういう点がわかりにくいのか、考えたことをまとめます。

 

f:id:doukana:20191127160720p:plain

格と日本語

格とは、文の中での名詞や代名詞の役割のことです。これを日本語では、どのように表示しているでしょうか。

格助詞 日本語では、言わずもがなですが、助詞を名詞の後ろにくっつけることで格を表示します

私の父は、この時計を、誕生日のプレゼントとして私にくれた。

このような文では、助詞「は」「を」「に」がついていることで、父が主語、時計が直接目的語、私が間接目的語とわかります。

ところが英語やドイツ語などヨーロッパ言語では、日本語のように名詞になにかくっつけることで格を表示することはありません。

 

格と英語

英語の場合は、主格、所有格、目的格の三つがあります。

主格と目的格はドイツ語ともだいたい同じなので分かりやすいのですが、人称代名詞以外は形が変わりません。

I bought my sister this Computer.

I bought her this Computer.

人称代名詞のsheはherになります。

ドイツ語だとこうなります。

1 Ich kaufe meiner Schwester diesen Computer.

2 Ich kaufe ihn ihr.

meiner Schwesterはmeine Schwesterの3格、diesen Computerはdieser Computerの4格。これらを人称代名詞に変えれば2の文になります。

ドイツ語の場合、定冠詞(それ、その)や所有冠詞(私の、あなたの)がついていれば、格に応じて形は変わりますが、英語の場合代名詞(この場合は、私の妹にの部分)しか変わりません。

 

4つの格の基本的な機能

1格は主語

1格は主に主語、日本語の「〜は」にあたります。

また、述語になることもあるし、呼びかけの場合も1格です。

 

2格は所有

〜の・・・というように所有・所属を表すのが2格です。

Das ist der Computer meines Bruders. これは私の兄のコンピュータだ。

この文でもそうですが、所有冠詞(mein, deinなど英語のmy, yourにあたる)と2格を混同する学生がたくさんいます。

また、稀な例ですが、2格の名詞を伴う動詞もあります。

bedürfen+2格:〜を必要とする。

 

3格は目的語、所有、利害など

Ich schenke meiner Frau das Buch. 私は妻にその本を贈る。

Sie klopft ihm auf die Schulter. 彼女は彼の肩をたたいた。

Er kauft ihm das Wörterbuch. 彼は自分自身にその辞書を買う。

Wie geht es Ihnen? お元気ですか?いかがお過ごしですか?

Mir geht es gut. 私は元気です。

 

4格は直接目的語

Er besucht seinen Großvater. 彼は祖父の元を訪ねる。

Sie kauft ihm das Fahrrad. 彼女は彼にその自転車を買う。

 

このほかに前置詞の格支配もある

1〜4格の役割とは別に、前置詞のうしろに特定の格の名詞が続くというルールもあります。こちらが抜けている学生がけっこういます。

Elias fährt mit dem Auto nach Osaka. エリアスは車で大阪へ行く。

Die Bushaltestelle liegt vor dem Bahnhof.バス停は駅の前にある。

この場合、mitは3格支配、vorは上記のように場所を表すときは3格支配なので、後ろの名詞は、dem Autoやdem Bahnhofのように3格になります。

前置詞の種類や機能と格支配については、以前の記事をご参照ください。

schlossbaerental.hatenablog.com

どういうとき難しいか?

教えていて、格の話が理解されにくい場面というのが多々あります。学生たちが何度も間違えるのはどういうときなのか、いくつか例を挙げてみます。

助ける helfen+3格:日本語では、〜を助けるというので4格と考える学生が多数います。しかし〜にとって役に立つもまたhelfenです。

電話をかける anrufen+4格:日本語では誰かに電話をかけるというので3格と考えがちですが、4格です。分離動詞ではないrufen(呼ぶ)は4格をとるというのは理解しやすいのですが。

誰かのものである gehören+3格:これは、gefallenとともにとても理解しにくい動詞です。Das Fahrrad gehört mir. その自転車は私のものである。というように、モノが主語、人間(持ち主)が3格という形をとります。

気に入る gefallen+3格:私自身も学部生の頃に習って、違和感があり何度も先生に質問した動詞です。これもまた、物を主語とし、〜にとって気に入っているというように人間が3格となります。ちなみにFacebookの「いいね」はドイツ語ではGefällt mir!です。

尋ねる、質問する fragen+4格:日本語では「〜に尋ねる」というので3格かと思ってしまいますが、4格です。また、答える:antwortenは3格をとります。

会う:sehen+4格、treffen+4格:どちらの動詞も4格です。日本語だと「人に会う」なので、3格と考えがちです。

値段がいくらである kosten+4格

Wie viel kostet das? Das kostet einen Euro fünfzig.

Euroが男性名詞なので、1ユーロの場合は、einen Euroとなります。

Wie viel kosten diese Bananen? Diese Bananen kosten 3 Euro.

また、値段を聞きたいものが複数の場合、主語は複数の物なので、動詞は三人称複数になります。これも理解しづらい部分です。

 

所有冠詞と2格

すでに一度記事に書きました(また、先ほど2格の事例でも触れました)が、毎年「〜の」をどう理解するかで苦しむ学生が多くいます。

schlossbaerental.hatenablog.com

 

 

ドイツ語の格で気をつけるポイント

最後に格を理解する際に気をつけるポイントをまとめておきます。

f:id:doukana:20191127162419p:plain

1)日本語の格助詞と同じではない

教科書では、「1格=は、2格=の、3格=に、4格=をに相当する」などと書かれていますが、これは理解の手がかりでしかありません。日本語・ドイツ語は多くの点でことなっているので、当然この法則に全てが当てはまるわけではないし、それぞれの格の使い方は、格助詞1種類でまとめられるものではありません。

「Wie geht es Ihnen?」のように最初に習うフレーズでも、日本語とまったくちがう表現は出てきます。

2)格は動詞で決まる。

これも以前書いたような気がしますが、学生たちは文のなかで、変化する部分だけに着目しがちです。格変化に気をつけなさいと言われると、名詞についた冠詞や代名詞ばかりを見てしまいます。それよりも動詞がどんな動詞であるかに気をつける必要があります。

辞書で引くと、どんな格の名詞と一緒に使われるかが分かります。

 

f:id:doukana:20191127162338p:plain

3) 見た目が同じでも格は異なるということに気をつける

文章を読む際には、たとえばunsやeuch、die, dasなどは別の格でも同じ形になりますが、機能の上で格は異なるということに気をつける必要があります。また、文章を書くときや会話をするときには、つねに次にどの格がくるかを意識する必要があります。