ドイツ語教員が教えながら学ぶ日々

熊谷哲哉 ドイツ語教育、ドイツ文学、文学じゃないけどおもしろいものなど。

本の街で学んでいた頃

久しぶりの百万遍古本市

今月の初め、たまたま独文学会京都支部の委員会のため、京大を訪れていました。母校とはいえ、いまは非常勤講師もやっていないし、指導教員も定年で去ってしまったので、最近では学会の用事くらいしか来る機会がありません。それどころか京都に来ることもここ最近は年に数回程度になっています。(たまにしか来なくなると、京都ってこんなに遠かったっけといつも思います)

委員会はわりとすぐに終わったので、夕方まで百万遍の古本市をのぞいてみることにしました。かつてよく買っていたお店(外国文学に強い萩書房、現代思想なら福田屋書店など)を見て、いつの間にか大量に購入していました。

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11月の百万遍古本市は、5月の岡崎、8月の下鴨に比べ、気候的にも場所的にも本を探すのにちょうどいいので、当時は一番気に入っていました。

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買った本。2冊ほど既に持っていた本を買っていました。

大学院時代は年に三回、かならず参加していた古本市ですが、じつはあまり得意ではありませんでした。というのも、古本市だとまとめて買うため、本当に必要ではないものや、すでに持っているもの、あるいは探せばもっと安く買えそうなものを買ってしまうのが心配だったからでした。

今回もまた、今買う必要がなく、もしかしたらすでに持ってるかもしれない本を買ってしまったわけですが、いろいろな古書を眺めるうち、学部や大学院時代は毎日こんなふうに古本屋に通ったり、友達とつれだって買い出しに出かけたりしていたことを懐かしく思い出しました。

 

 

古書店街の大学だったけど、高いのでよそに買いに行った

私が学生生活を過ごしたのは、東京の御茶ノ水、そして京都の百万遍とたまたまどちらも古書の町でした。

明大での学部時代には、駿河台キャンパスの図書館で読んで欲しくなった本を、坂を下った神保町の古書店街で買って帰るなんてこともしていました。今ではもう滅多にあの近辺へ行くことはありませんが、2年前に上京した時は神保町を歩いて、当時と変わらない街並みを眺めました。

しかしよく考えると、私たち明大生は、じつはあまり神保町で本を買っていませんでした。日本有数の古書店街である神保町は、東京の他の地域に比べると本の値段の相場は高く、やはり専門書が多いため、学部生がとりあえず買うような文庫や新書や入門書はそれほど充実していなかったのでした。そこで私たちは、より安くて学生向きの本が多い、高田馬場の早稲田通りに買い出しに出かけていました。独文専攻の同級生たちと、山手線の駅から早稲田大学までの道のりを、本屋さんを覗きながら歩くのは楽しい時間でした。

それから、当時住んでいた下高井戸や豪徳寺、経堂あたりの古書店にもよく出かけていました。いくつかのお店はもうなくなってしまったと聞きましたが、私がいちばん多く通っていた下高井戸の豊川堂はまだ健在でした。

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文学辞典を買うといいよ、とKくんが言った

文学少年でもなんでもなかった私は、大学に入ってはじめて世界の文学作品に触れました。もちろん教科書や予備校の参考書で、ある程度は純文学や外国文学といったものに触れていたし、関心も持っていましたが、「大人向け」の「世界の名作」的なものを、自分で選んで読んだ経験はそれまでほとんどなかったのでした。

ドイツ文学の名作については、必修科目だったドイツ文学史の教科書として指定されていた、岩波の『ドイツ文学案内』を読んで、興味のある作品をつぎつぎ読んでいきました。

ドイツ文学案内 (岩波文庫)

ドイツ文学案内 (岩波文庫)

 

ドイツの作家たちに影響を与えた(作品中で言及される)他国の作家や、特定の時代に他の地域で活躍した作家たちのことを知ろうと思ったら、より広く文学作品を読んでいく必要があります。

さて、どうやって読むべき作品を探せばいいのだろう、と友人たちと話している時、私たちの中で一番読書量が多かったKくんが、「文学辞典を買ったらいいよ」と言いました。そしてすぐみんなで早稲田通りに行ったときに、『新潮世界文学小辞典』を買いました。文学辞典には、岩波の文学案内で出ている、英米仏露希などいわゆる西洋文学だけでなく、ラテンアメリカ、アジア、アフリカなどさまざまな地域の作家・作品の解説が載っていました。辞典をパラパラめくって、次に何を読もうかといつも考えるようになりました。

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みんなが持っていた『新潮世界文学小辞典』。とても安く手に入りました。

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中身はこんなふうになっています。


今回、10年ぶりくらいでこの本を開きましたが、ベルンハルト、ハントケ、イェリネクのような、現代において古典となっている巨匠たちは当然この事典には載っていませんでした。(1966年刊行のため。ドイツ語圏だとベル、グラスなどは載っていました)。

和泉図書館の閲覧室でも本を読んだ

古本屋で思いがけない一冊を探すのも楽しかったのですが、同時に図書館にもよく通っていました。明大和泉校舎の和泉図書館は、試験期間以外はほとんど学生がおらず、とくに2階の人文系の閲覧室は空いていました。(1階が社会科学系、2階に人文科学閲覧室と休憩室、やや狭い3階は計算機を使っていい閲覧室でした。政経や商学部の今で言うウェーイたちは1階に集まっていたので、2階は静かでした)

2階の閲覧室で、書架の本を眺め、広いテーブルで何時間も本を読んで過ごしました。この図書館で恒文社の東欧の文学シリーズを読んだのを覚えています。

和泉図書館は、数年前に全面改装され、きれいになったそうです。私はいつも空いている閲覧室や、ソファでのんびり過ごせた(しかし居眠りしていると怒られた)休憩室もとても気に入っていたので、すこしもったいない気がします。

 

エペペ

エペペ

 

 ものすごく印象に残っている、カリンティのディストピア小説『エペペ』。友達に薦められて読みました。

 

古書の町の大学院生

大学院に入ってからは、左京区の古書店でいつも買っていました。京都の場合は、東京の早稲田通りや神保町のような、まとまった古書店街はないのですが、左京区周辺には多くの古書店が点在していました。

私が下宿していた北白川からは、銀閣寺道や一乗寺の古書店(文庫堂、竹岡書店、萩書房など)が近く、毎日のように通って、さまざまな本を買い漁りました。

このころから、日本の古本屋のようなネット古書店を利用するようになりました。また、研究の必要から、Abebooksなどで海外の古書も積極的に買うようになりました。

www.justbooks.de

当時はまた、Justbooks.deもよく使っていました。Abebooksやamazon.de、ZVAB, Booklookerなどネット古書店を横断検索できて便利です。

海外の文献はいまや多くは図書館(バイエルン州立図書館やフライブルク大学図書館など)やInternet ArchiveでPDFをダウンロードできるようになったり、著作権切れの文献はコピー本を格安で買えるようになりました。

海外の古書を買い始めたころは、本が届くのに、今よりももっとずっと時間がかかったように思います。最近では、遅くとも2、3週間で届くのが普通でしょうが、当時は1ヶ月以上かかることは普通でした。そのため、北白川のアパートを引き払ったあとにも、大家さんのもとを訪ねて、届いた古書を受け取りにいくこともありました。

京都での大学院生としての暮らしは、古本市に行かずとも、日々古本にまみれていたように思います。毎日いろいろな図書館で文献をさがし、研究室では友人たちが買った古本を見せてもらったり、さらに帰り道で古本屋に寄って買い込んだりもしました。

 

現在はジュンク堂から徒歩圏内だけど

大阪に引っ越してきて、あまり古書店に行くことがなくなりました。梅田の「阪急古書の町」は完全に日々の行動範囲外だし、難波にも何軒か古書店があるのですが、なかなか行けずにいます。

最近だと、神戸にいくたび、お気に入りの古書店に立ち寄っています。阪急六甲駅からJR六甲道へと降りる途中にある「口笛文庫」というお店です。音楽・映画・人文学、児童書などを中心にぎっしり本が積んであり、眺めるだけでも楽しめます。

www.kuchibuebunko.com

いっぽう、福島からは北新地が近いので、ジュンク堂大阪本店にはよく行っています。授業が昼からの日や、授業後にちょっと寄り道したい時などに立ち寄って、ついたくさん買ってしまって、歩いて帰ったりしています。

インターネットが普及していなかった学部生の頃は、友人に聞いたり、文学辞典で調べたりして、自分の足で本を探していたのでした。そうやって本を探す経験というのは、すべてネットで事前に調べることができ、海外の文献だってダウンロードできてしまう現在とはまったく違っていることに驚きます。

 

ついでに最近ネット古書店でまとめ買いした本を紹介しておきます。

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白水社の『現代世界演劇』全17巻+1です。大学院時代に何度も借りていて、そのうち必要な巻を買おうと思っていたのを思い出し、3年くらい前にセットで買いました。

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あまり開いていませんでしたが、ちょうどペーター・ハントケのノーベル賞受賞で、第17巻『最新劇』に収められた「観客罵倒 Publikumsbeschimpfung」を読みました。

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また、先日の消費税増税の直前には、駆け込み消費ということで、国書刊行会のドイツロマン派シリーズを揃い(ドイツロマン派画集のみ欠)で買っていました。このシリーズも大学院時代に何度も図書館で読んでいたので、せっかくなので手元に置いておくことにしました。