先日、ツイッターで私が過去に書いた辞書選びについての記事を、フォロワーの方に紹介していただきました。
この記事を書いたのは、2013年。まだ週に13コマの非常勤でドイツ語を教えていた頃です。あれから6年が過ぎ、ドイツ語辞書の世界も少し様子が変わりましたので、最新の情報を加えつつ、書き直したいと思います。
この記事では、おもに私が使ってきた辞書や持っている辞書を紹介していきます。
1)学習辞典
ドイツ語を学び始める時に最初に買うのが学習辞典です。5万語から7万語くらい収録している辞書が一般的です。ここでは、一般的なサイズの代表的な学習独和辞典を紹介します。
- 作者: 戸川敬一,人見宏,木村直司,佐々木直之輔,榎本久彦,石村喬,Franz Anton Neyer
- 出版社/メーカー: 大修館書店
- 発売日: 1991/12
- メディア: 単行本
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マイスター独和辞典 (大修館)(絶版)
受験英語のジーニアス英和辞典がとても気に入っていたので、同じ大修館つながりで最初に買いました。自動詞・他動詞の区別がないと当時から批判されていましたが、派生語や複合語(分離動詞など)も掲載されていて便利でした。大学院進学後に同級生にあげました。
- 作者: 根本道也,吉中幸平,成田克史,恒吉良隆,重竹芳江,福元圭太
- 出版社/メーカー: 同学社
- 発売日: 2010/02/01
- メディア: 単行本
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アポロン独和辞典(同学社):見やすいレイアウト、的確でこだわりのある訳語、そして巻末の付録も充実していて使いやすい辞書です。
アクセス独和辞典(三修社):三修社の教科書や参考書と同様、くっきり・はっきりした文字とレイアウトが特徴です。ややページ数が多いので分厚いです。
クラウン独和辞典(三省堂):クラウン仏和などとともに昔からあるロングセラーの辞書です。他の辞書にくらべて判型が少し小さいので持ち運びに便利です。第5版にはCDもついています。
郁文堂独和辞典(郁文堂):ドイツ語教科書の出版社、郁文堂の昔からある辞書です。収録語数の多さや説明の充実度から、ドイツ語を専門的に学びたい人にオススメの辞書です。京大では、初級の授業でかならず郁文堂独和を買わなければならないと指導している先生もいました。しかし白黒印刷で、古臭い見た目なので、少しとっつきにくい感じもあります。
フロイデ独和辞典(白水社)(絶版):白水社らしいきらきらした臙脂色のカバーと目にやさしい上品な雰囲気の文字とレイアウトが特徴です。京都の先生方が作った辞書で、研究者からは評価が高かったはずなのですが、なぜか絶版です。私は古書で購入し、今も愛用しています。
ここまでが私が持っている辞書ですが、持っていないものとして以下の本があります。
新現代独和辞典 (三修社):私が学生の頃はそこそこ人気があった辞書です。著者のシンチンゲル先生というのは伝説的なドイツ人教師で、私も教科書でお世話になっていました。収録語数は多いものの、当時からやや古そうな印象でした。
2)コンパクト辞典
一般的な学習辞典はやはり少しかさばるので、よほど真面目に勉強したい学生でもない限り、毎日持ち歩くことはありません。そのため買ってそれっきりということになりがちです。私としては辞書はできるだけ使って欲しいので、軽いものがよければ、ぜひコンパクト版の辞典を使ってもいいと思っています。
デイリー・コンサイス独和・和独辞典(三省堂):独和だけでなく、和独も入っていて、新書二冊分くらいのサイズです。訳語はいいのですが、文法説明は少なめです。大学院時代によく使っていました。とても字が小さいので、久しぶりに使うと目が拒絶します。
初級者に優しい独和辞典(朝日出版社):私の教科書でもお世話になっている朝日出版社さんの辞書です。デイリー・コンサイスより少し大きいものの、新書程度のサイズで、文字もくっきりと見やすく組まれています。ペーパーバックの装丁もかさばらず使いやすいです。大学1、2年生が教科書等を読むために作られているので、基本的な単語や変化形などの説明は詳しく載っています。
ベーシッククラウン独和・和独辞典(三省堂):人気のクラウン独和を半分くらいの厚さにまとめたコンパクト版辞典です。朝日の『初級者に優しい』と同様に、持ち運びしやすく、中身も学習辞典と遜色ないので、学生たちに勧めています。
- 作者: 戸川敬一,人見宏,木村直司,佐々木直之輔,榎本久彦,石村喬,Franz‐Anton Neyer,新倉真矢子
- 出版社/メーカー: 大修館書店
- 発売日: 1997/03
- メディア: 新書
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ハンディ・マイスター独和辞典(大修館、絶版):大修館のマイスター独和をそのままコンパクト化した辞典です。デイリー・コンサイスよりは少し厚みがありますが、ポケットに入る大きさです。私は大学2年時に買って愛用していましたが、現在は絶版です。(古書だとすっごく安いですね)
新コンサイス独和辞典(三省堂):かつてデイリー・コンサイスと間違えて購入したものの、気に入ってしばらく使っていました。ベーシッククラウンと同じくらいのサイズですが、文字は小さいので少し見辛いです。付録として経済用語集と簡易な和独がついています。
3)大辞典、和独辞典、専門辞典など
独和大辞典コンパクト版[第2版](小学館):学習辞典の1.5倍くらいの厚さがある大辞典です。1997年に出た、大辞典第二版のコンパクト版として1999年に出ました。私はちょうど卒論執筆時にこの辞書を使い始め、現在も使っています。ドイツ語人気が凋落の一途をたどっているので、今後新しい版は出ないかもしれません。現時点では、独和でいちばん充実している大辞典はこれ一冊なので、大学院進学等をめざすなら、やはり持っておきたい一冊です。
アクセス和独辞典(三修社):辞書の付録ではない、専門の和独辞典です。教員になってから、学生の作文を添削するときなどに参照していました。分厚くてさまざまな表現が載っています。
郁文堂和独辞典(郁文堂):私たちが学生の頃はこの辞書ほぼ一択でした。(厳密に言うと三修社からも『現代和独辞典』というのが出ていましたが、見出しがなぜかローマ字で非常に使いにくい辞書でした。郁文堂和独は薄いので調べやすいのですが、見出し語はあまり多くないので、他の辞書の付録についてる和独でも代用できるかと思います。
ドイツ語副詞辞典(白水社):岩崎英二郎先生の大著です。私たちがどう訳したらいいか戸惑うドイツ語の代表的な副詞について、膨大な数の例文を使って説明しています。古典的名著から取られた例文を見るだけでもおもしろいです。
ドイツ語不変化詞辞典(白水社):こちらも岩崎先生の辞書で、副詞辞典の姉妹編のような本です。使用頻度は高くありませんが、開くと発見があります。
4)ドイツ語で書かれた辞典
ドイツ語で書かれた辞典(独独辞典っていう名前は毒々モンスターみたいで気持ち悪いので使いません)のなかから、学部生や修士の院生でも使いやすいものをいくつか挙げておきます。
Dtv-Worterbuch Der Deutschen Sprache
- 作者: Gerhard Wahrig
- 出版社/メーカー: Deutscher Taschenbuch Verlag
- 発売日: 1999/01
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Wahrig Wörterbuch der deutschen Sprache (dtv):2回目にドイツに行った時に買ったのがこの辞書でした。この表紙とは少し違っていますが、見出し語2万語でほぼ日本の辞書サイズです。日本で買う辞書に比べると収録語数がかなり限られているので、語のニュアンスを調べるときなどに使いました。
Langenscheidts Grossworterbuch Deutsch als Fremdsprache: Langenscheidts Gros
- 作者: Dieter Goetz,Redaktion Langenscheidt
- 出版社/メーカー: R Oldenbourg Verlag GmbH
- 発売日: 2019/01/01
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Langenscheidt Großwörterbuch Deutsch für Fremdsprache. (Langenscheidt): 外国語としてドイツ語を学ぶ人用の学習辞典です。Goethe Institutなどにいくと必ず使う辞書だと思います。語義の説明等はわかりやすく、使いやすいのですが、日本の辞書よりやや大きいのが欠点です。
Duden Deutsches Universalwörterbuch (Duden): 見出し語が多い辞書というと、これが一番手頃でしょう。B5くらいとかなり大きな判型ですが、なれれば使いやすいと思います。
また、Langenscheidtの学習辞典と同様、ドイツでは人気のPONSを使うのもいいでしょう。
Pons Grossworterbuch Deutsch als Fremdsprache: PONS Gro]worterbuch Deutsch
- 出版社/メーカー: Klett (Ernst) Verlag,Stuttgart
- 発売日: 2018/07/09
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その他、DudenのStilwörterbuchやHerkunftswörterbuch、Synonymwörterbuchなどのシリーズもいくつか持っておくと便利ですが、まああまり使わないので大学の図書館などでときどき調べるくらいで十分でしょう。
5)辞書アプリ
私はもはや電子辞書はつかっておりません。10年くらい前にカシオエクスワードを買ってしばらく使っていましたが、操作性の良さから4年くらい前にタブレットをメインとしました。昨今はiPhoneやiPadで使える辞書アプリがたくさん出ています。
アクセス独和・和独辞典
独和大辞典
クラウン独和辞典
Langenscheidt 学習独和
授業でドイツ語を学ぶのであれば、アクセス独和・和独がちょうどいいかと思います。アクセスや独和大辞典はiOS対応のみだそうですが、クラウンはアンドロイド版もあります。これらの辞書が代表的なアプリです。英語の辞書と違って、だれもが使うものではないので、やや高いように思えますが、紙の辞書とちがって、スマホでもタブレットでも使えるし、まったく重さを伴いません。また、検索のスピードも非常に早いので、資料を読む速度が上がります。しかし一方で、初めから電子辞書やアプリしか使わないと、文法的な知識を前提とした辞書の引き方を身につけられないという弊害もあります。
フリーで使えるアプリ
残念ながら実用に耐えるものはほとんどありません。かろうじて使えるのが、Google翻訳、イミワ、和独.deくらいです。
ドイツ語から日本語に翻訳するように設定するとドイツ語の意味を調べられます。しかしかなりの確率で間違った訳になります。
さまざまな言語を母語とする人のための日本語学習アプリです。
なぜフリーのアプリはダメなのか
辞書は語義が一つ見つかればいいというものでありません。冠詞、動詞などの変化が調べられないと初学者には役に立たないからです。ドイツ語動詞の変化表アプリはフリーソフトですが、やはり課金しないと実用に耐えるアプリは手に入りません。
また、数多く売られているドイツ語単語集もダメです。単語集はそもそも語彙を増やす、試験問題を解くといった目的に基づいて使うものです。初学者が言語の仕組みを知るのには向いていません。もちろん検定受験者や中級者が単語集やフレーズ集を参照して、知識を整理するのにはとても有用です。
6)では何を選べばいいのか?
さて、結論ということで、どの辞書を選んだらいいか、ドイツ語への取り組み方に応じてまとめます。
1 お手軽コース
授業は週一で半期あるいは一年だけ履修する、とりあえず単位を揃えたい、という人。コンパクト版の辞書を古書店で買いましょう。あるいは朝日出版社の『初心者に優しい独和辞典』であれば安くてかさばりません。
2 標準コース
真面目に勉強したいけど、二年生まで続けるかわからないという人。また、週2回の授業でそれなりにドイツ語を勉強しなくてはならない人。クラウンあるいはアクセスのアプリを購入するか、アポロン、クラウン、アクセスなどの学習辞典を買いましょう。学習辞典は古書店に行けばかなり安価に手に入ります。
3 文学部、外国語学部コース
専門課程でもドイツ語を読む必要がある、またはドイツ語を使えるようになりたい、という人。郁文堂独和、アクセス、独和大辞典を紙で購入し、さらに必要があればアプリやドイツ語辞典も用意しましょう。とはいえ、一度に全て揃える必要はありません。学んでいく中でステップアップしましょう。
4いきなりドイツコース
初心者だけど今からドイツに行って学ぶという人もけっこういます。日本で勉強した語学は役に立たないとは言われますが、やはりゼロの状態で現地で習うよりは、日本語で文法を理解しておくと上達が早くなります。現地の語学学校に通うとしても、日本語の学習辞典はぜひ持っておくといいでしょう。語学学校などで困った時にすぐ引けるように、アプリかコンパクト辞典を用意しておくといいと思います。あるいは文法書もあった方がいいという人の場合は、学習辞典の巻末にある文法補足などを活用しましょう。
7)辞書をどうやって使うのか
最近の学生を見ていると、英和辞典をあまり使う機会がなかったのか、辞書を引けない学生が少なからずいます。*1あるいはめんどくさくて辞書よりも粗悪な翻訳ソフトに頼ってしまうのかもしれません。いくつか辞書を引く上でのコツを挙げておきます。
1.動詞、冠詞類は元の形から調べる
Ich habe Hunger.という文が出てきた場合、habeってなにかな?と調べても、人称変化した形なので見つからない場合もあります。そのときは元の形habenを調べないといけません。
冠詞の場合もdenやIhrerを調べるのではなく、der/dieまたはIhrを調べないといけません。つまり、教科書に載っている基本的な文法事項も理解しておく必要があります。
2.多義語はじっくり用例を読む
haben, gehen, nehmenなどの動詞は非常に様々な意味があります。紙の辞書で何ページもあったり、辞書アプリでスクロールしても終わりまでなかなかたどり着かない場合があります。紙の辞書の場合は用例をじっくり読む必要がありますが、アプリの場合は用例検索を使うこともできます。
たとえば、es gibt...という表現を調べる場合、esやgebenを引くよりも(es gibt)で用例検索をした方がわかりやすいでしょう。
物書堂アプリで独和大辞典を使った例です。ほかに、前方一致や後方一致検索も、中・上級になると役立ちます。
3.調べるときはゆっくり時間をかけて
最近の学生が、辞書を手渡しても使いたがらない理由の一つに、すぐに調べられないということがあるのかなと思っています。私が学部生の頃は、自宅であらかじめ辞書を引いてわからない単語を調べてから授業にのぞむのは当然でした。調べていないと授業中に忙しくて先生の話がわからなくなってしまうからです。辞書で単語をひきながら文章を読むのはどうしても時間がかかります。しかし、時間をかけて調べていく中で、徐々に語学の知識が磨かれていくのだと思います。焦る気持ちはわかりますが、安易に翻訳ソフトや単語帳で一致する訳語を探すのではなく、辞書で多くの訳語をみながら、じっくり考えていく過程がとても重要です。
*1:私の担当クラスは超少人数なので、作文の練習をする際に、人数分辞書を持って授業に行くことがありますが、学生たちはほとんど手に取りません。スマホで調べたほうがいいという学生が大半です。