初めての海外学会
5月30日、31日にイギリス、リーズトリニティ大学で行われた国際学会、Science and Spiritualism 1750-1930にて口頭発表を行いました。
Science and Spiritualism, 1750-1930
今回の学会のために、5月後半はずっと準備にかかり、28日に渡英して、6月1日までイギリスに滞在し、6月2日から4日までミュンヘンに立ち寄って、5日に帰国しました。その後すぐに日本独文学会春の研究発表会があったので、週末は東京に出張し、ようやく今週から平常の生活に戻れそうです。*1
恥ずかしながら、私はこれまで日本でドイツ文学を研究してきただけで、一度も海外で研究活動をしたことも、学会発表をしたこともありませんでした。2015年に、南デンマーク大学で、ダヴィット・ヴァーグナーの作品『生命』における臓器移植の問題について、生命倫理の研究会で発表したことがありましたが、これは生命倫理学者の妻にくっついていって、ついでに発表したというもので、学会でもなんでもありませんでした。
2015年に英語で発表して以来、海外の学会で発表するチャンスはないかと探し続けていました。私は独文学を学び、独文学会に所属していますが、普段やっている研究は、いわゆる作家の作品を研究するという文学研究とはズレています。できればもう少し自分の専門分野について新たな知見を得られるような会に出てみたいとずっと願っていたので、科学と心霊主義の国際学会が行われると2018年夏頃に知って、すぐに発表題目の準備を始めました。
研究テーマ:ラファエル・フォン・ケーベルにおける心霊主義と日本哲学への影響
現在科研費プロジェクトで行なっている、ミュンヘンの心霊主義者カール・デュ・プレルとシュレンク=ノッツィングを中心とした、世紀転換期の心霊主義における分身や無意識の概念というテーマがあるので、はじめはデュ・プレルの著作をとりあげようと考えていました。しかし一方で、せっかくなら日本とも関係があるテーマをやりたいと考え、以前から関心を持っていた、日本の哲学教師にしてオカルティスト、ラファエル・フォン・ケーベルをテーマにすることを思いつきました。
ケーベルは、1848年生まれのドイツ系ロシア人で、音楽家を志すも断念し、20代でドイツに渡って、生物学、哲学などを学び、ショーペンハウアー哲学の研究をしました。1893年に、エドゥアルト・フォン・ハルトマンからの要請で、東京帝国大学の外国人教師となり、英語、ドイツ語、哲学をおしえ、さらに東京芸大でもピアノを教えています。ケーベルは当時の帝国大学で学んだ学生たちから大変尊敬され、彼のエッセイ集は岩波文庫にも収められています。
岩波文庫といえば、ケーベルのエッセイ以上に読まれているヒルティの『幸福論』は、ケーベルの愛読書で、彼が日本に紹介したのだと言われます。
ケーベルのエッセイ集を読んで、そこにミュンヘンの代表的なオカルティスト、カール・デュ・プレルに言及していることを発見しました。ケーベルとデュ・プレルはミュンヘンで友人同士であったこと、ケーベルがミュンヘンの心霊主義者たちと近しい関係にあったことが調べていくと分かってきました。
くわしくはあとで論文に書きますが、私の発表では、ミュンヘンの心霊主義的な哲学が、ケーベルを通して日本に伝わり、近代日本哲学、とりわけ姉崎正治の宗教哲学に少なからぬ影響を与えているのではないかという話をしました。
原稿の準備で、みらい翻訳が大活躍
発表の準備で何より大変だったのは、原稿を書くことでした。私の場合、語学教師ではありながら、ふだんは日本語でしか論文を書かず、たまに学会誌に投稿するときにも1ページくらいのドイツ語要旨を書く程度で、英語で文章を書くことなどほとんどありません。英語で文章を書く練習もこの半年ほど、少しはしましたが、なかなか英語で思考し、英語で書き始めるということはできません。
今回は、授業期間中でとにかく時間がなかったので、まずは日本語で原稿を書き、翻訳サイト、みらい翻訳を使って英文を書くことにしました。(みらい翻訳は日・英・中だけでなく、最近フランス語、ロシア語、ドイツ語、イタリア語などにも対応するようになりました。)
そもそもどのくらいの量を書くと、目安である18分から20分程度になるのかよくわかっていなかったので、まずはA4で1ページくらいの日本語文をみらい翻訳で英文に直し、その文章を実際に読んでみて、だいたい1700ワードくらいが自分の読み方だとちょうどいいのかなとあたりをつけました。(もちろん英語に慣れている人の場合、もっとワード数を増やしてもいいでしょうし、ネイティブの人は実際聞いてみると私の倍くらいの量を話していたように思います。)
日本語文を仕上げて、みらい翻訳で英文を作っていきますが、出てくるのはだいたい80点くらいの文章です。ネイティブチェックを受ける前に、自分ですぐにいくつかおかしい点が見つかります。それらを修正して、ネイティブの友人にチェックしてもらうという作業を何回かくりかえし、原稿を作りました。
今回の作業で、初めて機械翻訳を使いましたが、外国語の知識はある程度あっても、あまり書くことに慣れていない私には、非常に使い勝手がいいものだと感じました。もちろん機械翻訳など使わずともすらすら文章が書ける語学力があるに越したことはないのですが、こういう技術を使うことで、外国語での発表や論文執筆が身近になるというのは素晴らしいことではないかと思います。
リーズトリニティ大学での「科学とスピリチュアリズム」学会
5月28日に日本を経って、30日、31日の二日間、リーズトリニティ大学で「科学とスピリチュアリズム」学会に参加しました。以下、当日の様子をまとめます。
大学は、リーズ駅からバスで40分くらいかかる郊外の丘陵地にありました。
こじんまりとした、県立大学のような雰囲気です。目の前に見えるのがメイン会場の入っている建物。
こちらが図書館とラーニングコモンズで、この建物の二階がサブ会場でした。
受付で、大学グッズと名札を受け取ります。学会参加費は事前払込でした。
まあ、だいたいあってるのでいいのでは。
プログラムはこちらです。
http://www.leedstrinity.ac.uk/Documents/Science_and_Spirituality_Conference_Programme.pdf
スクショ
私の出番は、1日目午前中2つ目のセッション2Bでした。出番が早いのは緊張するけど、終わってしまえば残り1日半のんびり過ごせるので良かったと思います。
メイン会場での開会挨拶です。およそ100人程度の発表者、来聴者がいたと思います。
ケンブリッジ大学研究員のアンドレアス・ゾンマー氏によるシュレンク=ノッツィングらのスピリチュアリズムから発展した超心理学についての発表でした。今回の学会の大きな目的は、彼と直接会うことでした。ゾンマー氏は、すでに英語でドイツの心霊主義について多くの論文を残しており、彼の2009年に発表されたデュ・プレル論には、多くを教えられました。
また、ゾンマー氏は主催しているウェブサイトで、今回の学会について印象をまとめています。大変ありがたいことに、私の発表についても好意的にとりあげてくださっています。
最初のセッションでゾンマー氏の発表を聞き、次は私の出番でした。
セッション2Bはインターナショナルなパネルで、私の他はスウェーデンのスピリチュアリズムや、ハンガリーの霊媒についての話で、非常に興味深い内容でした。私は普段の講義のときと同じように、iPhoneからMacBookを操作し、iPhone上に読み上げ原稿を表示して読むという形で発表をしました。
英語での発表やディスカッションはとても不安でしたが、なんとか聞いている人には伝わったようでした。
学会会場が町外れの大学なので、食事などはどうするのだろうと心配でしたが、二日間とも、ケータリングの軽食が用意されていました。一日目はサブウェイふうのサンド。いろいろな種類がありどれも非常に美味しかったです。
一日目夕方には、ワインも出ました。ワインを飲んで小一時間歓談をする時間が設けられ、ここで多くの人に話しかけてもらえました。英語でのやり取りは難しかったのですが、少なくともゆっくりであれば自分の言いたいことは伝えられたかと思います。
夕方に学会を終え、ヘトヘトに疲れたので、ホテルの敷地内にあるパブでビールを飲みました。
地ビールなど10種類くらいのビールが楽しめる素晴らしい店でした。ひとりでじっくり飲んでいると、一人の男性から、「あんたもうちらと一緒に飲もうよ」と声をかけられました?何で?と聞くと、「あなたの昼間のプレゼンが面白そうだったからね」と。考えてみれば当たり前ですが、学会参加者の多くが同じホテルに泊まっていたのでした。
英会話もう嫌じゃよ、と思ったいたのですが、結局1日目、2日目と夜遅くまで、他の参加者と英語であれこれ話しました。
美味しいビールや食事を楽しみ、それからこれまでほとんど使ってこなかった英語でしたが、何とか多くの人と話すことができました。
英語をあまり日頃は使わず、海外学会も初めての私でしたが、発表者となることで、多くの人に自分の研究に関心を持ってもらえたし、他の人たちの発表から、日本ではあまり見ない心霊主義やオカルティズムについての研究動向を知ることができました。非常に充実した滞在となりました。
この学会は、リーズトリニティ大学主催の、一度きりのイベントなので、毎年参加するというわけには行きませんが、今後は別の学会などで積極的に海外で発表したいと強く思いました。
*1:しかし8日間出張をしていたので、休んだ期間の10コマ分の補講をしないといけません