ドイツ語教員が教えながら学ぶ日々

熊谷哲哉 ドイツ語教育、ドイツ文学、文学じゃないけどおもしろいものなど。

動詞の変化って? 人称変化総まとめ

f:id:doukana:20171213233630p:plain

 

初級ドイツ語文法の2つの中心

大学1年時に学ぶ、初級ドイツ語文法には2つの中心があります。どんな大学で学ぶにせよ、この2点を押さえておけばとりあえずは大丈夫というポイントです。

すなわち、冠詞類の格変化と動詞の人称変化です。この二つのポイントを中心に、他のあれこれの文法事項がちりばめられているようなイメージです。

格変化については、以前の記事に取り上げました。

schlossbaerental.hatenablog.com

今回は、もう一つの中心である、動詞の人称変化についてまとめたいと思います。

 

人称変化とは?

人称代名詞に応じて動詞の形が変わること:人称変化です。

英語でも、I am, you are, he is、とbe動詞は主語ごとに動詞の形が変わっています。他の動詞でも、he, sheなど三人称単数には、he knows, she saysのようにsが動詞の後ろにつきます。これらが人称変化というものです。

ドイツ語の場合は、be動詞にあたるseinだけでなく、全ての動詞が、人称代名詞に応じて形を変えます。ドイツ語の人称代名詞はich, du, er, sie, es, wir, ihr, sie, Sieの9種類です。

f:id:doukana:20171212223830p:plain

たとえばtrinken飲むという動詞であれば

Ich trinke

Du trinkst

Er trinkt/ Sie trinkt/ Es trinkt

Wir trinken

Ihr trinkt

Sie trinken/ sie trinken

と人称変化します。三人称単数er, sie, esのときはみな同じ形です。また、あなた・あなたたちのSieと彼・彼女らのsieは同じ語尾になるので、表などでは同じものとしてまとめられます。

 

変化する部分と変化しない部分

動詞の人称変化は決まった規則にのっとっています。つまり、動詞には変化しない部分(語幹)と変化する部分(語尾)とがあるということです。そして、語尾の変化は、人称代名詞ごとに決まっています。

lernen(習う)の場合はこのように変化します。

ich lerne

du lernst

er/ sie/ es  lernt

wir lernen

ihr lernt

sie/Sie lernen

さきほどのtrinkenの場合と比べると、下線をつけた部分すなわち語尾の形は共通しています。ich のときはtrinke/ lerneと語尾がeになるし、duならばstとなります。ほとんどの動詞は、後ろのenの部分が人称代名詞ごとに決まった形になるわけです。

f:id:doukana:20171214100115p:plain

そして、動詞の変化した形を定形(文の中で役割が定まっている形)、元の形を不定形(不定詞)といいます。

 arbeitenなどの場合—すこし例外的な変化

ほどんどの動詞は規則的に人称変化しますが、いくつか例外的なパターンもあります。

f:id:doukana:20171214094416p:plain

arbeitenの場合、語幹はarbeitなので、du arbeitstと語尾のstをつけるだけでなく、口調を整えるためarbeitestと語尾stのまえにeを入れる必要があります。er arbeitetの場合も同様です。wartenなどの動詞もこのパターンです。

また、heißenやtanzen, reisenのように語幹がß, z, sなどで終わる動詞の場合は、duの時もerのときも語尾はtだけになります。du heißst, du tanzstだと言いにくいからでしょう。

sammeln、ändernのように、不定詞の語尾がenではなくnだけの動詞があります。この場合も他の動詞と同様nがそれぞれの語尾に置き換わるわけですが、-elnで終わる動詞の場合は、ich sammleのように直前のeが脱落します。ändernなどernで終わる動詞は、ich ändereのようにそのまま語尾が付きます。

 

不規則動詞 語幹の音が変わる場合

先ほど人称変化では、変化するのは語尾で、語幹は変化しない部分であると書きましたが、いくつかの動詞では、人称変化の際に語尾だけでなく語幹も変化します。代表的な例をいくつか挙げておきます。 

f:id:doukana:20171213233157p:plain

schlafen, fahren, laufenなどの場合は、du, er/sie/esのとき、語幹の音がaからäに変わります。du schläfst, du fährst, du läufstなどとなるわけです。また、sehen, lesenなどはeがieと変わります。gebenの場合はeがiになります。いずれの場合も、不規則変化になるのは、duのときとer/sie/esの時です

  

本格的な不規則動詞 sein、haben、werdenなど

語幹の音が変わるものの、語尾は規則的だったschlafen, sehenなどと異なり、sein,haben, werdenなどは語尾の部分も不規則に変化します。

f:id:doukana:20171214095338p:plain

sein(英語のbe動詞にあたる)や、habenなどは最も重要な動詞なので、そっくり覚えておく必要があります。

 

学生がよく間違える点 

以上のように、sein、haben、werdenなどの例外を除けば、大抵の動詞は、規則的な語尾がつくようにできています。しかし、少なからぬ学生たちは、なかなか人称変化のルールが覚えられません。教えながらよく見るのは、以下のパターンです。

1)語尾を不定形の後ろにくっつける

ich gehene, du gehenst, er gehentのように、不定詞gehenであれば、語尾を変えるのではなく、不定詞のうしろに語尾をくっつけて変化させるというように、間違って覚えている学生がときどきいます。語尾の変化パターンをせっかく覚えたのに、語幹のうしろに語尾が変化してくっつくという原則は理解できていないわけです。

2)すべての動詞の人称変化を辞書・ネットで検索する 

動詞の人称変化について説明した直後などは、練習問題を解いていても、教科書に変化表が載っていない動詞については、すべてネットで変化形を調べようとする学生も一定数います。しかし、辞書でもネット上の独和辞典でも、規則変化動詞については、ほとんどの場合変化表は省略されています。結果、どう変化するのかわからないと言い出すことになります。

1)、2)両方の学生に言えることですが、どうも、初めて見る動詞の場合、どの部分が変化するのかよくわからないようです。はじめに語幹・語尾の区別を説明したように、どの動詞でも後ろのenまたはnの部分が決まった語尾に変化します。ですから、変化表を確認する必要があるのは、不規則変化動詞の場合(ウムラウトがつくのかどうか)くらいです。

なお、どうしても変化表を調べたいという人は、こちらのサイトが便利です。

conjd.cactus2000.de

分離動詞・非分離動詞のような複合動詞も含め、多くの動詞の現在・過去・現在完了から受動や接続法まであらゆる人称変化が調べられます。(arbeitenの場合↓)

f:id:doukana:20171214101651p:plain

一番上の列左側が現在人称変化です。

第二部 助動詞・過去形などの人称変化 動詞と少し違う変化パターン

話法の助動詞の人称変化

können、müssenなどの話法の助動詞も動詞と同様に人称変化をします。しかし、語尾変化のパターンは少し異なります。

f:id:doukana:20171214164710p:plain

太字になっている、ich/du/er,sie,esの変化を見ると、どの助動詞も不規則であることがわかります。また、ich とer/sie/esのときは同じ形になります。語尾の付き方は、どの助動詞でも共通しています。

f:id:doukana:20171214165009p:plain

このように、ichおよびer/sie/esのときは語尾なしになり、du, wir, ihr, sie/Sieのときは、動詞の規則変化と同じ語尾が付きます。

 

過去形の人称変化

話法の助動詞の人称変化パターンは、動詞の規則変化とは少し異なっています。しかし、過去形の人称変化とは似通っています。

ドイツ語では、過去のことは、過去形および現在完了形で表します。両者に、意味的な違いはなく、会話や日記などでは現在完了形、新聞や小説などでは過去形を使うのが一般的です。*もう少し詳しくいうと、現在と連続している過去=現在完了形、現在と切り離された過去=過去形という区別があります。

それはともかく、過去形の文を作るときには、現在形と同様に人称変化が起こります。過去基本形と呼ばれる形に人称変化語尾がくっつきます。

f:id:doukana:20171214170508p:plain

語尾だけを取り出すとこのようにまとめられます。

f:id:doukana:20171214170543p:plain

先ほど説明した助動詞の変化とほぼ共通していることがわかります。ただ、場合によってそれぞれの語尾の前にeが入ることがあります。

 

接続法2式 の人称変化

初級の授業ではほとんど扱わない(本務校では教える機会がないので、だんだん非常勤でも教えなくていいかなと思うようになってしまいました)接続法ですが、人称変化の種類についてのみ、少し触れておきます。*1

非現実な願望や丁寧な依頼の表現(Ich hätte gern eine Tasse Kaffeeコーヒーを一杯おねがいします)などで使う接続法2式は、過去基本形をもとにした接続法2式基本形に語尾がついて変化をします。

f:id:doukana:20171214172314p:plain

lernenのような規則変化動詞(過去形lernte過去分詞gelernt)の場合は、接続法2式は過去人称変化と全く同じ形になります。他の動詞も母音にウムラウトがついて基本形が変わっているものもありますが、語尾の形は、太字の部分を見ると、先ほどの過去人称変化と同じであることがわかりますね。

 

要は、動詞の人称変化には、大きく2つの系統があり、一つは動詞の現在人称変化、もう一つは助動詞、過去形、接続法2式など、ichとer,sie,esのとき語尾がつかない変化ということになります。

 

風邪にはみかん

f:id:doukana:20171214163431j:plain

最後に、この数日苦しめられてきた風邪ですが、だんだんよくなってきました。職場で毎年もらっている和歌山みかんがいいみたいです。

 

*1:たまにしか授業ではとりあげないので、文法書を見ないと、どう説明していたか思い出せなくなってきました