ドイツ語教員が教えながら学ぶ日々

熊谷哲哉 ドイツ語教育、ドイツ文学、文学じゃないけどおもしろいものなど。

あまり行く機会がない町、インゴルシュタット に行ってみた

インゴルシュタット に遠足にいく(8月25日)

ネルトリンゲンとローテンブルクを訪れてから一週間。また週末がやってきたので、今回もちょっと近場の町へ出かけてみることにしました。

ミュンヘンからすぐ行ける町で、まだ行ったことがないところとしては、レーゲンスブルクやパッサウ、アウクスブルクやウルムなどがあります。アウクスブルクはやや近いのですが、他はたっぷり二時間かかってしまいます。もう少し近いところで、どこかなかったかな、とグーグルマップを見ていて、インゴルシュタットはどうだろうと思いつきました。

f:id:doukana:20180901181808p:plain

ぎざぎざになった部分がかつての城壁と濠の跡です。フランクフルトやベルリンなども同じように川に面した城壁に囲まれた旧市街を核とした都市ですが、この町のように旧市街と新市街がかなりくっきり分かれているところはわりと珍しいように思います。これは実際に見に行ってみたいと思いました。

 

インゴルシュタットってどんな町?

ミュンヘンからインゴルシュタットは、急行電車で一時間(約70km)とちょうど、東京から栃木市くらい離れたところにあります。

現在では、もっぱらアウディの工場がある町として知られています。

地図を見ると、旧市街と工場の面積がほとんど同じくらい。町の北側には広大な工業地帯が広がっています。

f:id:doukana:20180901181815p:plain

そのため、私も行く前は、工場の町、駅を降りたらアウディしかない町みたいに思っていましたが、旧市街にもさまざまな見所があり、楽しめました。

 

旧市街への道

インゴルシュタット駅から旧市街までは、約2kmほど距離があります。とくに暑い日でもなかったので、歩いてドナウ川に面した旧市街を目指しました。

f:id:doukana:20180826105414j:plain

特に何もない本当に小さな駅です。コンビニとマクドが中にありました。

f:id:doukana:20180826105445j:plain

駅前にはかつてこの町を走っていた蒸気機関車が置かれていました。

f:id:doukana:20180826105715j:plain

駅には出荷を待つアウディさんたちがたくさん積んでありました。やはりこの町で作られているのですね。

ドナウ川沿いの、旧市街の向かいには、かつての城塞を改装したバイエルン軍事博物館があります。

f:id:doukana:20180826111624j:plain

この城塞はReduit Tilly(ティリー要塞)と呼ばれています。30年戦争(1618年からなので、今年は記念の年でたくさんの関連書籍が本屋さんに並んでいました)で活躍し、インゴルシュタットで死んだティリー伯ヨーハン・セルクラエスにちなんで名付けられています。この城塞の中が、博物館となっています。

f:id:doukana:20180826111946j:plain

周辺はドナウ川沿いに広い公園が整備され、市民の憩いの場となっています。

f:id:doukana:20180826112017j:plain

迷路のような庭園も見事でした。

 

バイエルン軍事博物館に入る

f:id:doukana:20180826112131j:plain

裏側に回ると入口がありました。分厚い石の壁と大きな扉、ものすごい威圧感です。この建物は、第一次大戦博物館となっています。ドナウ川の対岸にあるお城(新城)のほうには、もっと古い時代からの展示品もあるそうですが、夏休み期間は回収のため休館となっていました。

f:id:doukana:20180826112317j:plain

初めの部屋は、1870年代。ドイツ帝国が統一された時代から始まります。バイエルン王国の兵士たちがどのように統一に関わったか、そしてその頃の兵士や指揮官たちの軍装、旗などが展示してあります。

f:id:doukana:20180826112557j:plain

このように小さな部屋がいくつも続いていて、少しずつ現代へと進みながら展示を見ることができます。

f:id:doukana:20180826112612j:plain

子供用の制服とおもちゃのサーベルや馬など。

f:id:doukana:20180826112736j:plain

f:id:doukana:20180826112752j:plain

f:id:doukana:20180826112830j:plain

このカードの展示も面白いです。当時実際に使われたハガキが並んでいます。兵士の生活や望郷の思い、家族からの手紙や届いた荷物の嬉しさがイラストで描かれています。

f:id:doukana:20180826112847j:plain

私は考えてみると、ベルリン、ウィーン、ドレスデンとこの種の戦争関係の博物館をよく見に行っています。とくに軍服や武器に興味があるわけではないので、自分でもなんでかなと思っていたのですが、要はこのビアマグやパイプのような、当時生きていた普通の人たちが使っていた物を見るのが好きなんだと気づきました。

ノイシュヴァンシュタイン城やシャルロッテンブルク宮殿のような、きらびやかな宮廷の食器や調度品を見るのもたしかにおもしろいのですが、やはり戦争博物館に特有の、名もない一般人が生きた痕跡を伝えてくれる物のほうが魅力的です。

 

実物が展示してある

ドイツの博物館の特徴として、どうやって室内に入れたのかと思うような、巨大な実物が置いてあることが挙げられます。

この第一次大戦博物館はひとつひとつの部屋がやや狭いので、あまり巨大なもの(戦車や軍用車両など)はありませんでしたが、大砲や武器などは本物が置いてありました。

f:id:doukana:20180826113140j:plain

f:id:doukana:20180826120148j:plain

f:id:doukana:20180826113144j:plain

f:id:doukana:20180826114749j:plain

武器や大砲を展示するときには、写真やジオラマを使って、実際にどのように使われたのかがわかるようになっていました。

この種の博物館に欠かせないのが、塹壕です。

第一次世界大戦、とくに西部戦線における塹壕戦は、文学作品や映画でも繰り返し取り上げられ、非常によく知られています。ほかの博物館でもほぼ実物の塹壕を再現し、そこに見学者が入れるようになっていたりします。この博物館の場合は、壁や床を丸太で作って、塹壕感を出しています。写真では明るく見えますが、かなり暗くてオートフォーカースが使えないほどでした。

f:id:doukana:20180826115810j:plain

f:id:doukana:20180826115859j:plain

塹壕とそこで見張りに立つ兵士です。この部屋は本当に真っ暗で、だいぶぼんやりとしか写りませんでした。

f:id:doukana:20180826120924j:plain

塹壕戦によって荒廃した大地の写真が床に貼ってあります。壁には毒ガス戦による犠牲者たちの写真やガスマスクなど。

f:id:doukana:20180826120828j:plain

折れた丸太、銃や手榴弾の残骸などが並べられ、周りには積み重なる死体の写真がありました。犠牲者たちの痛ましい最期が想像できます。

日常生活についての展示も興味深い

兵士たちがどのように戦ったかだけでなく、どのように余暇を過ごしたり、捕虜になったり病院に収容されたりした時間を過ごしたかということも展示に含まれていました。

f:id:doukana:20180826121227j:plain

兵士たちが使った楽器です。

f:id:doukana:20180826121042j:plain

これは戦地で発行されていた新聞。驚いたことに、売店で現物が売られていました。貴重なものなのに、いいんだろうかと思いました。

f:id:doukana:20180826121756j:plain

日本でもそうですが、戦争による物資の欠乏は大きな問題でした。ウサギを飼っている人は肉を供出しよう、とか果物の種や栃の実などを集めて学校に持って行こう(油を取るため)などと物資の供出を求めるポスターがありました。

後半は、アルプスからユーゴスラビア方面で戦った、ドイツの山岳部隊についての特別展がありました。

f:id:doukana:20180826122854j:plain

軽い気持ちで足を踏み入れたら、あまりの展示物の量に圧倒され、2時間くらいずっと写真を撮りながら見ていました。

f:id:doukana:20180826130240j:plain

さらに売店で図録二冊(重い!)を買い、袋をサービスでもらいました。

f:id:doukana:20180826130225j:plain

これだけでもうすっかり充実した気分でしたが、まだ町に入ってすらいません。

 

旧市街を歩く

博物館からすぐ橋を渡ると対岸にお城が見えます。

f:id:doukana:20180826125134j:plain

歩行者用の橋です。

f:id:doukana:20180826125218j:plain

ドナウ川は川幅は広く、ゆったりと流れていました。

f:id:doukana:20180826125529j:plain

こちらがバイエルン戦争博物館の本館にあたりますが、工事中でなかには入れませんでした。

お城の裏側に進むと、旧市街が広がっています。

f:id:doukana:20180826131341j:plain

f:id:doukana:20180826131649j:plain

黄色い建物は市役所です。

f:id:doukana:20180826143355j:plain

f:id:doukana:20180826143423j:plain

あざやかな色と装飾が目を引く教会です。ミュンヘンなどの多くの教会の装飾を手がけたアーザム兄弟による物件の一つです。中の写真は別の記事でまとめて紹介します。

f:id:doukana:20180826142753j:plain

きれいな街並みにふさわしいドイツ料理店を見つけたので入ってみました。

f:id:doukana:20180826132346j:plain

ビール醸造用の樽や麦などをかたどった看板が掲げられています。

町にはあまり人が歩いていなくて、地元の栃木市のようだと思ったのですが、レストランは休日だからか非常に混雑していました。

f:id:doukana:20180826135955j:plain

ここでは豚スネ肉を食べました。たまに食べると非常に美味しい料理です。ビールにも良く合います。

f:id:doukana:20180826142936j:plain

美味しいビールが作れる=美味しい水の町ということで、この近くにはビール作りに使われたという井戸がありました。

f:id:doukana:20180826143012j:plain

このハシビロコウみたいな鳥のついた泉も美味しい水が出ていました。

 

アウディ博物館(Audi Forum)へ

インゴルシュタットに来たもう一つの目的はアウディでした。2年前に訪れたBMW博物館が非常に見応えがあったし、私自身アウディに乗ってるので、一度くらい見ておきたいと思ったのでした。

旧市街からAudi Forumまでは2kmほど離れています。市バスでも行けるのでしょうが、お昼を食べた直後だったので、歩いて行きました。

f:id:doukana:20180826145203j:plain

どの路線もアウディ行き。日曜日なのでほとんど走っていませんでしたが。

f:id:doukana:20180826144741j:plain

交差点にぞくぞくと止まるアウディさんたち。ご当地ならではです。

f:id:doukana:20180826145859j:plain

工場周辺の案内板です。アウディ書体で書かれていますね。

f:id:doukana:20180826150000j:plain

旧市街から20分くらい歩くと、アウディフォーラムに到着します。ここには博物館と現行モデルのショールームがあります。そしてこの周辺はすべてアウディの工場です。

f:id:doukana:20180826154837j:plain

この丸い建物が博物館です。

f:id:doukana:20180826151600j:plain

吹き抜けの空間の周りに古い車がたくさん展示されています。

f:id:doukana:20180826151007j:plain

アウディは戦後にインゴルシュタットに移って来たのですが、ここにはそれ以前の第一次大戦前にツヴィッカウで作られていた旧アウディや戦中戦後のアウトユニオン時代のモデルも保存されています。

おもしろいのは、昔の車両です。

f:id:doukana:20180826152355j:plain

f:id:doukana:20180826151245j:plain

昔(第一次大戦・第二次大戦ごろ)の人ってたぶん現代人よりはるかに小さかったと思っていたのですが、これら古い車はずいぶん大きかったです。タイヤも20インチ以上ありました。

f:id:doukana:20180826151023j:plain

f:id:doukana:20180826151501j:plain

アウディの歴代のレーシングカーも展示してありました。

やはり、ほかの人のレビューで見ていた通り、BMW-Weltに比べるとだいぶこじんまりした印象でしたが、それでもいろいろな車を見ることができて楽しめました。

 

再び旧市街へ

また来た道を引き返して、今度は旧市街西側の門を見てから帰りました。

f:id:doukana:20180826163517j:plain

リープフラウエン教会です。

f:id:doukana:20180826163746j:plain

そのすぐ近くにクロイツ門がありました。門の外側には緑地が広がっていて、グラウンドや学校などがありました。

f:id:doukana:20180826165211j:plain

旧市街から伸びる通りを進むとコンラート・アデナウアー橋。ここでドナウを超えます。

f:id:doukana:20180826165243j:plain

水面に鏡のように空が写っています。ドナウ川はゆったりと流れていました。

 

思いのほか見どころいっぱいのインゴルシュタット

あまり期待せずに、なんとなく行ってみた遠足でしたが、第一次大戦博物館や旧市街、アウディフォーラムと見どころがいろいろあり、たいへん充実した滞在でした。さらにバイエルン警察博物館や、医学史博物館などもあり、こちらは次回来ることがあればぜひ行ってみたいと思いました。