ドイツ語教員が教えながら学ぶ日々

熊谷哲哉 ドイツ語教育、ドイツ文学、文学じゃないけどおもしろいものなど。

バイエルン州立図書館での過ごし方

f:id:doukana:20180821145508j:plain

昨年、一昨年につづき、今年もミュンヘンのBSB(バイエルン州立図書館)で資料収集の作業をしています。図書館の特徴や、スキャナ等については、これまでの滞在時に書きました。

www.bsb-muenchen.de

schlossbaerental.hatenablog.com

schlossbaerental.hatenablog.com

これまでは、他の大学図書館国立図書館などもセットで回っていたのですが、今回の旅程では、ミュンヘンだけで二週間を過ごします。あれこれ考え合わせると、滞在先の街としても、図書館の使い勝手としてもミュンヘンが一番いいと気づいたからです。(もちろんミュンヘンにも問題はあります。夏のこの時期はホテルやアパートメントがかなり高くなります。ウィーンの方が安くて便利な宿がたくさんあります。)

今回は、これまでの記事であまり触れてこなかった、BSB館内の様子、アカウント作成の方法、貸し出し手続き、コピー(スキャン)代金の支払いなどの仕組みを解説し、この図書館がどのような意味で画期的なのかを紹介していきます。

 

BSBの構造、どこで過ごすか

BSBの建物に入ると、吹き抜けの大きな階段が目に入ります。

f:id:doukana:20180816135539j:plain

この美しい階段をとことこ登ると、まっすぐに閲覧室(Allgemeiner Lesesaal)に行けます。しかし、初めて訪れる人の場合は、入館証などを発行する必要があるので、横の小さい通路から、まっすぐ1階のInformationのカウンターに向かいます。1階には、インフォメーションのほか、雑誌や新聞の閲覧室があります。

また、1階への通路の途中で少し下に降りると、B1階のカフェテリアに出ます。カフェテリアにはテラスもあり、風に当たりながら気持ちよくお茶を飲んだりできます。

f:id:doukana:20180821103836j:plain

f:id:doukana:20180817133627j:plain

(お昼には日替わり定食のようなものも食べられます。シュニッツェルとポテトサラダです。)

ロッカーは、各階の階段と入り口の間に多数設置されており、1ユーロまたは2ユーロコインを入れる形式です。ドイツ・オーストリアの図書館では、基本的にカバンを持ち込むことは認められていません(ミュンヘン大学図書館も同様。本の持ち出しを警戒しているからです)。そのため、ロッカーにリュックやバッグをあずけ、PCやスマホ、ノートや財布などだけを持って中に入ることになります。

館内を移動する際に、荷物だけ持ち歩くと不便なので、透明なビニール袋を使うことができます。これはウィーンの国立図書館などでも、ロッカー室にいっぱい置いてありました。ミュンヘンの場合は、インフォメーションカウンターで係りの人に頼めばすぐに出してもらえます。美術館のミュージアムショップみたいな透明なビニール袋ですが、あまり頑丈にできていないので、ノートPCを入れると持ち手がびろびろに伸びてしまい危険です。余分なところをたたんでクラッチバッグのように持つのがよさそうです。

f:id:doukana:20180816162347j:plain

(館内では、この透明袋にいれてPCや財布等を持ち歩きます。しかし周りを見ると、けっこう無造作にPCをおいたまま出かけてる人がいます。MacBookではなく、2kgくらいありそうなでかいPCなら持って行く人はいないだろうということなのでしょうか)

コインロッカーが各フロアにありますが、私はいつも地下一階のカフェテリア前を使っています。トイレやカフェが近くて便利だからです。ここに荷物を置いて、中の階段で2階の一般閲覧室に入ります。

 

閲覧室と貸し出しの仕組み

ドイツに住所がある人や、ミュンヘン大学の学生などの場合は館外に本を持ち出すことが可能です。しかし、私のように一時的に滞在している旅行者の場合は、館内のみ利用可能となります。まあ、この辺はどこの図書館でも同じなのでとくに不満はありません。

f:id:doukana:20180823201144p:plain

(一般閲覧室の様子。このように大きなガラス窓がある天井の高い部屋です。暑そうですが、暑い日にはちゃんとエアコンが入りますし、日差しが強い場合はシェードを降ろします)

図書館の本は、これも他の大きな図書館と同様に、ほぼ閉架式です。閲覧室の棚に並んでいるのは、ドイツ語辞典や各分野の百科事典などです。日本の大学と同様に、OPAC検索をして、蔵書を探します。閲覧したい本がある場合は、Ausleihenのボタンを押し、貸し出し申し込みをします。アカウントがないと、貸し出し申し込みはできません。BSBのアカウントは、ウェブ上から作成できます。証明書の提示や料金などはとくに必要なく、すぐにID番号がもらえます。BSBのIDとパスワードは、ミュンヘン大学図書館とも共通です。

f:id:doukana:20180823140148j:plain

コピーカードと入館証です。バーコードの下の番号がIDとなります)

貸し出しを申し込むと、早くて約1日、おそくて3日以内に本が利用可能になります。(オーストリア国立図書館の場合は、およそ3時間程度で本が出てくるので、BSBは少し遅い方でしょう。滞在期間が短い場合には、作業を始める日よりも数日前に図書の請求をしておかなければいけません)貸し出し請求をした本は、Allgemeiner Lesesaalの隣の「書庫から取り出した図書を置いておく部屋」にお取り置きしてもらえます。

利用者は、Mein Kontoから、自分が何冊貸し出し請求をしているか(Bestellung)、そして何冊がすでに利用可能か(Ausleihen)がわかります。Ausleihenのリストに、本が表示されていれば、それは閉架図書を置いておく部屋にあるということです。

本を置いておく部屋には、各自が勝手に入ることができ、セルフサービスで、自分の請求した本を閲覧室に持ってくることができます。自分の請求した本は、自分のID番号が振られた(ID番号の下から5桁・6桁の数字)本棚に積んであります。この本棚には、他の利用者の本もたくさん置いてあります。自分の借り出した本の近くにある別の人の本を眺めるのは非常に面白いです。

f:id:doukana:20180821130351j:plain

f:id:doukana:20180821130327j:plain

私の場所は17番の書架です。

f:id:doukana:20180817135919j:plain

本にはさまってる紙片に名前が書いてあります。この紙を見て、利用者は自分が請求した本を探します。

オーストリア国立図書館ドイツ国立図書館の場合は、請求した本はカウンターで係りの人に出してもらう必要がありました。(そのさい、旅行者である私は、パスポートを預けないといけません)混雑している時などは、けっこう待たされるので、ミュンヘンのようにセルフで本を取ってこれるのは非常に便利です。

借り出した本を閲覧室で利用した後、まだ次に来るときも使いたいという場合は、「置いておく部屋」の自分の書架に戻しておけばいいし、もう必要ないという場合には、閲覧室外にある、使用済み図書置き場(と書いてあるブックトラック)に載せておけばOKです。非常にシンプルなしくみです。

 

コピーカードでスキャナを利用する

BSBで一番便利なのが、何よりこのスキャナです。昨年の記事にも書きましたが、機械自体はそれほど高性能ではなく、ÖNBのタッチパネル式スキャナのほうが、日本語にも対応しておりスピードも速いです。しかし、BSBスキャナが優れているのは、料金の支払い方法です。

料金はあらかじめ作っておくコピーカードで払います。機械にコピーカードを入れ、いくらチャージするかを選択し、お金を入れるという仕組みです。スキャン1回5セント(6〜7円)なので、100ページ分でも5ユーロです。 私の場合は、財布に入ってる紙幣の数に応じて、毎回20または50ユーロチャージしておきます。

コピーカードとUSBを挿して、スキャナを動かしますが、チャージした料金が引かれるのは、一連の作業を終えたあとです。つまり、本の必要な部分をスキャンし、まとめたPDFファイルに名前を書いてUSBにデータを保存する、そのタイミングで初めて枚数が数えられ、料金が引かれます。ということは、もし途中で失敗してしまっても、料金はかからないことになります。スタンドスキャナというのは、どうしても正しい位置を読み取ってくれなかったり、あるいは間違って本をずらしてしまって画像がブレたりすることがよくあります。そういったエラーが起きたら、画面に表示されたデータを一枚ぶん破棄して、もう一度やり直すことができます。

f:id:doukana:20170814161857j:plain

(正面のモニタにスキャンした画像が表示されます。うまくいかなかったら破棄できます)

作業終了時に料金がかかると先ほど書きましたが、もし自分のカードに入っている金額が残り少なく、使った金額を払いきれない場合はどうしたらいいでしょうか。そのときは、料金がたりませんよ!と表示が出て、コピーカードが機械から出てきます。利用者はチャージする機械に持って行き、必要な金額をチャージして、あらためてコピー機にカードを入れると、料金を払うことができます。つまり、一旦コピー機を離れても、お金を払うまで待ってくれるわけです。この機能が非常に便利だと毎度感心します。

f:id:doukana:20170814161900j:plain

(指除去や色合いなどの調整ができます。スキャンデータをPDFに保存し終わるまで設定は保持されます)

というのも、日本の大学図書館や、ウィーンの国立図書館などの場合は、プリペイドコピーカード(だいたい500円か1000円くらい)を買い、スキャン1回ごとに料金が引かれ、0になったらたとえ作業が途中であろうとも、カードが出てきて、それまでに自分がやってきた設定はすべてリセットされてしまうからです。一回でスキャンするページ数が多い場合には、何度もカードを入れ直したり、出来上がったPDFファイルをあとで結合したりする手間がかかります。

また、一ページごとに、色合いや白黒・カラーを切り替えることもできます。データを軽くするため、文字だけのページは白黒(左)にしていますが、写真が入る場合はグレースケール(Grau stufen)を選ぶときれいに読み取ってくれます(右)。

f:id:doukana:20180823212609p:plainf:id:doukana:20180823212614p:plain

ホーム図書館として活用したい

私はこれまでの記事に書いたように、ドイツ・オーストリアのいくつかの図書館で資料収集を行ってきました。歴史学ではなく、文学専攻なので、図書を探すだけなら、東京の大きい大学などでもできるのかもしれません。しかし、こうしてミュンヘンのような充実した図書館がある街にいると、本を探しながら、新たな着想を得たり、これまでの理解を改めたりする機会が得られます。本を探すこと以上に、自分の研究に向き合うことが、海外での調査の目的とも言えます。

私は長期留学をせずに教員になったので、自分の決まったホーム都市、ホーム大学のようなものがありません。*1それで、この数年、いろいろな街で文献探しをしてきました。しかし、BSBの仕組みに慣れてくると、やはりここを拠点にじっくり作業をするのが一番いいかなと思えてきました。

日本から近いフランクフルト(関西からだとフランクフルトしか直行できないため)、宿泊施設が充実しているウィーンなども魅力的ですが、やはり図書館が便利で、住みやすいミュンヘンが自分にはいちばん合っています。(ミュンヘンで気に入っている場所、いいところなどについてはまた別の機会にまとめます)

 

おまけ 蔵書票がおもしろい

f:id:doukana:20180821113015j:plain

「1943年、戦争での火災のさいに、火と水から救い出された本」とあります。私が読む20世紀初めの本には、よくこの票が貼ってあります。

f:id:doukana:20180821114024j:plain

人から寄付された本、元の持ち主のサインなども興味深いのですが、驚いたことにこの本には、日本語のスタンプが押してありました。ヨセフ・シェーデルってだれ?と思って調べたところ、バイエルン出身の薬剤師で、1880年代から1900年ごろに横浜に滞在していた人だそうです。(この本自体は文学研究書です)日本、そして中国に滞在し、ありとあらゆるものを収集したと書いてあります。どんな人だったのでしょうね。

www.nordbayern.de

 

*1:留学経験者の多くは、自分の滞在した大学のある都市に繰り返し行きます。ドイツは連邦制なので首都ベルリンだけに固まらず、いろいろな都市に日本人研究者が出かけていきます。そのため、イメージするドイツ・ドイツ語圏というのが、人それぞれに全然違うということが起こります。