ドイツ語教員が教えながら学ぶ日々

熊谷哲哉 ドイツ語教育、ドイツ文学、文学じゃないけどおもしろいものなど。

学期末テストをどうやって作るか

 

十年以上考え続けている問題

1月末は後期の期末テストがあります。この季節になると毎年考えることなのですが、

どういうテスト問題が適切なのでしょうか?

2010年に大学でドイツ語を教え始めて、そろそろ教歴15年になりますが、いまだに試行錯誤が続いています。

今回は、これまでの自分の試みを振り返りながら、いったい何を期末テストで評価すべきなのかを考えてみます。

 

ドイツ語教員養成講座にも取り上げられなかったテスト問題の作り方

ドイツ語は英語と異なり、まだまだ教授法研究は盛んではありません。たしかに一部熱心に研究されている先生はいますが、昨今は履修者が減ったり、教養教育における扱いが小さくなったりして、研究の成果が知られ、生かされる場はよりいっそう少なくなっています。

私自身も大学、大学院ではドイツ語文学を専門として学びましたが、教授法についてはまったく習うことはなく、教員になるまで独学で調べるほかありませんでした。

非常勤講師を始めた頃に、独文学会教育部会およびゲーテ・インスティトゥートのドイツ語教員養成講座を受け、初めてそこで教授法を専門とする先生方から指導を受けました。

ドイツ語教員養成講座は、教授法の知識を得る場所というよりは、現場での試行錯誤を共有できる場として非常に有益でした。

講座の課題として、教案を作ったりシラバスを作ったりするワークはあったのですが、なぜか試験についての課題はありませんでした。受講を終了してから、やはり試験についての専門家のご意見を知りたかったと思いました。

なぜならシラバスなどは非常勤講師の場合、各大学(の教務担当教員)が一括して作成するため個人で考える余地はない一方、テストは(共通問題で実施するところもあるでしょうが)多くの場合、非常勤も専任もそれぞれが自分で問題を作らなければならないからです。

 

 

とにかく大量に問題を作っていた頃

最初は京大の全学共通科目の1年生クラスで初めてドイツ語を教え、その後数年非常勤としていくつかの大学で教えていました。このころはとにかく網羅的にたくさんの問題を出すことを心がけていました。動詞の人称変化、冠詞類の格変化、並べ替え、和文独訳、独文和訳と思いつく限りの問題を作って詰めこんでいました。

紙の大きさはB4やA3で、両面にわたってたくさんの問題を作って採点していました。

当時はまだドイツ語の受講者が多く、各大学で1クラス35〜50人くらいの学生を教えていました。今では多くても12人くらいなので、採点の労力は単純計算で3、4倍だったことになります。

さらに当時は2回に1回くらいの頻度で小テストも実施していました。毎回A4一枚に10問程度、単語や作文の問題を入れていました。これも採点がとてもたいへんでした。

なぜ当時たくさんの問題を作っていたのかといえば、一番の理由は経験不足からくる不安のためでした。何を出題すればいいかよくわからない、それならばなるべく多く問題を作ろうという発想です。当然ながらこのような考え方は自分の仕事を増やすばかりだし、出題ミスもしばしば発生するので、自分の首を締めるだけでした。

 

立ち止まって反省する

教え始めて4年たって専任教員になりました。一つの大学で腰を落ち着けて授業を担当するようになると、これまでのやり方を立ち止まって反省する余裕が生まれました。

やはり闇雲に問題数を増やすのは効率が悪いし、また和訳の問題などはドイツ語を理解していなくても国語力で正解が出せることも多くあります。もうちょっと何を出すべきなのかよく考える必要があると思い始めました。

厳選されたシンプルな出題形式というと、いつも思い出すのが学部時代の恩師である恒川隆男先生のテスト問題です。明治大学で1、2年生のドイツ語を受講していましたが、中間テストも期末テストも毎回和訳10問、独訳10問のみでした。出題される文章はおもに教科書から取られていて、テスト範囲をしっかり復習して重要な例文を覚えておけば解ける問題です。

しかしヒントとして単語や名詞の性が与えられるわけではないので、ドイツ語を専門として学んでいない学生たちを相手に恒川先生と同じ形式のテストを出すのは不可能だろうと思います。

恒川先生のテストはとりあえず頭の片隅に置いておいくとして、まずは何を学生に身につけてほしいのか、そして授業で教えたどんなことを評価すべきなのかを考えながら問題を作ることにしました。

 

会話テストやグループ形式のテストもやってみた

勤務校の学生たちの雰囲気(勉強のでき、得意不得意、授業へのとりくみなど)がわかってくると、どうやったら学生の関心を引き出し、ドイツ語を勉強するようになるのか普段の授業でも考えるようになりました。

教科書には会話文やペアワークがよく出てくるので、会話文を使った口述テストをしたこともありました。

また、授業の中で自由作文を何度も練習したクラスでは、作文やグループによるドイツ語プレゼンのテストをしたこともありました。

ただ、グループ形式のデメリットとして、受講者個人の学力が測れない場合もあるということがあります。要するに親友が優等生で、いつも一緒にグループを組んでいたりすると、自分が何もせず、何もできずとも高得点を取ることが可能になってしまうわけです。かといって毎回ランダムにグループ分けをするのは学生にとってストレスです。

ということで、会話形式やグループでのプレゼンテーションのテストはその後はやらなくなっています。現在行っているのは、個人でのプレゼンテーションの小テストです。

 

オープンな問題を出すのも良い

ペーパーテストというと決まった質問に決まった答えを返す問題がイメージされがちでしょうが、開かれた問題を出すことも当然可能だし、十分意義があります。

しばしば作文問題として、「助動詞müssen(〜しなければならない)を使った質問の文と答えの文を作りなさい」という具合に自由作文の問題を出すことがあります。

学生が勉強したことを理解し、使いこなせるかを判断するにはやはり自由作文がいちばんいいのではないかと思います。しかしこれもどのクラスでもうまくいくとは限りません。日頃の授業で作文練習をしっかりやっておくなど下地がないとほとんどの学生が全く手をつけない「捨て問題」になってしまうことだってありえます

 

辞書なしで読解問題は出しにくい

「捨て問題」といえば、期末テストで出題しにくいのは読解の問題です。ゲーテ・インスティテュートの教科書や試験問題では、しばしば長文の穴埋めや正誤問題が出題されます。しかし週一コマの授業で期末試験に初見の読解問題を出すことは不可能でしょう。しかたなく教科書に出てきた文章をちょっと作り変えて出題することになります。

しかしこれも辞書持ち込みなしのクラスでは、「捨て問題」扱いされることが多々あります。それなら辞書持ち込み可とすれば解決ではないか、というとそうとも言い切れません。最近の学生はふだんの学習でまったく紙の辞書を使わないので、中間テストや期末テストで辞書持ち込み可とすると、そもそも辞書を引くのにものすごく時間がかかってしまうし、せっかく辞書があるのだからと何から何まで(seinを調べたり、istやsindを引いたりといった具合に)調べようとして時間が足りなくなったり、できるはずの問題まで間違えてしまうこともあります。

日頃の授業で辞書を使う経験をもっと積んでおいてもらいたかったし、そのためのワークを何かやっておければよかったのでしょうが、これもいい方法が思いつきません。

しかたなく、語彙集とセットで読解問題を作りますが、すでに教科書で読んだことがあるはずの文章を語彙集に頼って読み解くのでは、あまり意味がないようにも思います。

 

できる、できないの判定ではなく、到達度を測る出題を

このようにドイツ語を教えるようになって10年以上過ぎてもまだ私はわからないことだらけだし、テストに何を出すべきなのか明確な答えを見出せていません。

しかし初期の頃と違うのは、テストの目的だけはおおよそ見えてきたという点です。それはすなわち、できるかできないかを判定するのではなく、到達度を測るための問題を作るべきだし、学生にもそのような学習観を持ってほしいということです。つまり、大学受験までのマークシート方式のような、マルかバツか、できるかできないか何点取れたかという狭い視野ではなく、ここまでは身についた、これはできるようになったということが測れるような試験を通じて、受講者としても、自分はこういう表現はできるし、こういうことは言えるようになったなという手応えが得られるような授業やテストを作れればと思っています。

このような考え方は当然ドイツ語教授法の議論の中では当たり前のように言われていることなのでしょうが、私は10年くらい自分で教える経験を積んでようやく自分の問題として見えてきたように思いました。

 

今作ってる試験問題は?

理念については先ほど述べたとおりですが、ではそれを踏まえてどのような試験問題を作ればいいのでしょうか。

ここ数年心掛けているのは以下の点です。

・基本的な知識を問う問題も出す

・作文など部分点で評価する問題を出す

・なんでも出題するのではなく、問題数を抑えて採点の負担を減らす

・どのようなテストを行うか(授業における終着点)から逆に日々の授業で教えることを考える

 

ということで、今学期は1年生クラスから2年生以上のクラスまで、どのクラスでもA4一枚で60〜70点満点の問題を作りました。いい問題ができたとは言い切れないのですが、こちらの意図が少しでも受講者のみなさんに伝わればと願っています。