ドイツ語教員が教えながら学ぶ日々

熊谷哲哉 ドイツ語教育、ドイツ文学、文学じゃないけどおもしろいものなど。

二年生向けの教科書ができました

新しい教科書ができました!

朝日出版社さんから、新しい教科書『ミニマムドイツ語・レーゼン』を刊行することになりました。

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11月初めに大学の先生方向けに見本をお送りしております。

今回は、この教科書をつくるまでの経緯、どのようなことを考え,どのような内容にしたのか、そしてこだわりのポイントなどについて書きます。

二年生向けの教科書を作りたい

自分の大学で使うための初級用教科書を書いたのが、ちょうど4年前のことでした。

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その後たくさんあった誤字を修正した第2版、動画教材を加えた増補版を出すなど細かなを改訂しながら4年間使い続けてきました。内容的に不十分なところはあるかもしれませんが、使いやすいという評価をいただいています。

↓こちらが改訂版です。

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自分で教科書を作れば毎年の教科書選びは当然楽になります。一年生向けの教科書で悩むことはなくなりましたが、問題は二年生クラスです。多くの教科書は一年で2コマ授業を行うことを前提として作られていますが、私の勤務校では週1コマなので、二年生クラスといってもそれほど高度なことから始めるわけにはいきません。一年生と同じように発音や文法の復習から始めて、徐々に高度な内容や読解、作文までをふくめた教科書となると、なかなかちょうどいい本が見つかりません。

どうしても難しすぎたり、あるいは簡単すぎたりして、年度途中で別の本にしておけばよかったと後悔することもしばしばあります。

私たちは毎年会議で教科書を決めます(専任教員が共通教科書を指定しています)が、選んだ教科書が使いにくかったり、難しすぎたりして後悔するばかりです。それならばやはり自分たちで教科書を書くほかありません。

 

新しい教科書に何が必要か?

一年生向けの教科書を完成してから、すぐに二年生向けとしてどんな教科書が書けるだろうかと考え始めていました。

既存の教科書の問題点として

・読解教材が長すぎる、または難しすぎる

・練習問題が高度すぎる

・ページ数が多すぎる

という点が挙げられます。

私たちの大学で使うためには、

・週1回、前後期30回でだいたい終えられる分量

・高度すぎず、それなりに内容のある文章を含んだ教材

・座学、アクティブラーニング、オンラインとさまざまな授業形態に対応できる

・発音や初歩から復習もできる

という教材が必要です。

さらに共著者の大喜先生と相談し、ドイツやドイツ語圏のさまざまな文化を盛り込んだ読解テクストを入れることが決まりました。

 

締め切りごとに一気に書く

朝日出版社の編集者さんを交えてミーティングをして、全体的な方向性を決定したのが、今年冬ごろのこと。その後春休み中に目次と第一章のサンプルを作りました。

年度が代わり、前期の途中に第5課までの原稿を提出し、ゲラになったページのイメージを確認し、さらに8月の前期終了と同時に、10課までの完成原稿を出しました。ちょうど大学の仕事が忙しさのピークを迎える時期が原稿提出と重なってしまうので、私も共著者もかなりあっぷあっぷしながら原稿を書いていました。

毎回締め切り一週間前になったら必死で作業をして、合間にSlackで共著者とやり取りをして、出版社さんに原稿を送る。終わったら次の締め切りまでの一ヶ月はいっさい教科書のことは忘れて過ごす、というサイクルで原稿を書きました。長い時間少しずつ作業をすすめる、論文を書くプロセスとはだいぶ違っているように思います。

 

Lesetextを書くのがとてもたいへん

全10課のうち、2課から10課に、それぞれ10行程度の、ドイツ語圏のさまざまな文化についてのテクストを収録しました。

目次からの抜粋ですが

Lektion 2 ドイツ語圏の地理

Lektion 3 食べ物・スイーツ

Lektion 4 産業

Lektion 5 旅行

・・・

など、さまざまなテーマを取り上げています。

今回とりわけ難しかったのは、読解教材の文章を書くことでした。

ドイツ語論文を大量生産しているような研究者ではない私は、そもそもドイツ語の文章を書くのが苦手です。もちろん授業で教えるような簡単なドイツ語作文であれば、さらさら書けるのですが、今回は会話文ではなく、読み物を書かなければならないので、とても難しく感じました。

同業者のみなさんは、手元にある他の先生方の教科書を見てもらいたいのですが、多くの教科書で、読解教材は複数の登場人物による会話文になっているはずです。

よくあるパターンとしては、日本人留学生のA子とドイツ人学生ダニエルとの会話で、ドイツの食文化や生活文化、歴史などが紹介されるような文章です。

一方、「ドイツの地理的、言語的特徴はこれこれこのような点である…」といった文章や、「ドイツの教育制度とは…」、「ドイツのスポーツの歴史は…」という論説文ふうの文章は、おそらくかなり難易度の高い中・上級向けの教科書に収録されることがほとんどです。

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たとえば私が三年生クラスで使っていたこちらの教科書は、各課に1ページ以上の長く、読み応えのある文章が収録されています。

私たちの教科書は、週1コマで二年目の学生が対象なので、難易度は当然抑えて、かつ長さも10行程度(1ページの3分の1から半分程度)にしなければなりませんでした。

共著者とは半分ずつ担当を分け、それぞれ読解教材を書きましたが、難易度として適切かどうか、やはりいまだ自信が持てません。もっと簡単な内容にしたらよかったのではないかとはいまも少し思います。

 

共著だからできた

非常に困難な執筆作業でしたが、今回何よりもありがたかったのは、共著者がいたことでした。

ドイツ語学(スイスドイツ語研究)を専門とする大喜先生が教科書作成に加わってくださったことで、私の負担は前著の半分以下になりました。

作業の分担としては、文法解説を大喜先生、練習問題を私、読解は半分ずつで、4ページ目の応用的な練習も半分ずつ問題を作っています。

単純に作業を分担できるだけでなく、うまく進まないとき、迷いがあるときなどに気軽に相談できる仲間がいることがどれだけありがたいかようやく分かりました。単著だと誰に気兼ねなく、自分で構成や内容を決めることができます。それはもちろん気楽なことですが、出版後に多くの先生方に使用してもらって、現場からのご意見・ご批判にさらされることになる教科書の場合は、やはり執筆時から複数の人間が関わっていたほうがいいのではないかと思いました。

 

写真にこだわる

表紙や本文にも多くの写真を入れましたが、ほとんどは私がこれまでにドイツやオーストリア、スイス、ルクセンブルクなどで撮ってきた写真です。

各章のテクストにも関連する写真を入れています。

右の2枚は私が2014年にフランクフルトで撮った写真です。

ベルリンの写真は2019年夏の滞在時に撮りました。

この3年間はコロナのためまったく海外調査旅行ができず、新しい写真が撮れませんでしたが、これまでの教科書で使っていないお気に入りの写真などを表紙に載せてもらいました。

表紙と裏表紙です。

どこで撮った写真かはこちらに書いておきます。(拡大して見てください)。

表紙の一番大きい写真は、2019年冬に訪れたルクセンブルクです。

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とても寒かったけど、きれいな風景が撮れて本当に行ってよかったと思います。

 

読書猫の写真を撮る

今回の教科書は、読解教材が売りということで、タイトルにも「レーゼンlesen(読む)」を入れました。それに合わせて本を読むブルーちゃんの写真も表紙に入れてもらえました。ブルーちゃんがカバーを飾っています!

編集者さんから、猫も登場させたらどうかという提案をいただき、せっかくだからそれっぽい写真を撮ってみようかなと思い、本を読むブルーちゃんの「やらせ」写真を撮ることにしました。

これが表紙に採用されたもとの写真です。ほかにもたくさん撮っていました。

ひもを両手でつかんでがじがじ噛んでいます。

夜にテーブルで撮ってみましたが、興奮していて両目が真っ黒なのでボツにしました。

最初に読書しているところを撮ろうと思ってやってみたのがこの写真です。とても自然な雰囲気です。

読書は毎日の日課ニャ!というような賢そうな様子です。

自室の窓辺でも撮ってみました。ひもに夢中です。

じっくりページに目を走らせているように見えますが、視線の先にあるのはひもです。

 

じつはブルーちゃんの写真は一年生向けの『ミニマムドイツ語・ノイ』でも一枚使われています。この教科書を使っていた学生や先生が、二年目向けの『レーゼン』を手にして、ブルーちゃんが大きくなったことに気づいてほっこりしてもらえたらうれしいです。

2020年の8月末に撮っていました。

まだ家に来て一週間しか経っていないころです。いまと比べると本当に小さいです。

 

とりあえず冊子としての教科書は完成しましたが、まだまだやらなければならないことが残っています。

・練習問題の解答解説、補足問題など教授用資料の作成

・オンライン学習用の動画作成

これから春休みまでにこのあたりの仕事もこなしていかなければいけません。

 

仕事はまだ残っていますが、来学期に新しい教科書を使うのが楽しみです。