海外研究調査=図書館行って文献をコピーすること
私の場合ここ数年毎年夏と春にヨーロッパを訪れています。研究調査が目的ですが、人に会ってインタビューするとか、学会で報告するというのは目的に入っていません。たいてい現地でやることは、噴水の撮影と、文献探し、そしてコピーです。
そんなことは日本にいてもできるのかもしれません。たしかに京大大学院時代は、たいていの文献は大学にあるので、外に出て何かするという発想があまりありませんでした。*1
現在の勤務校は、私の研究分野の蔵書があまり多くはありません。また、日本にいると大学の仕事等でなかなか落ち着いて自分の研究に向き合う時間が取れないこともあるので、海外に行ったときに文献調査をしたり、今後の研究計画を立てたりといったことをしています。
これまで行った7つの図書館
2014年から毎年夏と春にドイツ・オーストリアを訪れています。自分の研究に関係のありそうな場所やぜひとも訪れてみたい場所、文献が多そうな場所などあたりをつけて、訪問しています。
これまで訪れてきた海外図書館は以下の通りです。
1.フランクフルト国立図書館 2014年8月
3.オーストリア国立図書館 2015年8月、2016年2月
5.ドイツ文学資料館 2016年8月
今回の滞在では、前半にフライブルク大学とマールバッハのドイツ文学資料館、後半にミュンヘン大学、バイエルン州立図書館に行きました。南ドイツということで、まとめて回りましたが、けっこう距離は離れていました。(フライブルクからミュンヘンが4時間くらいかかります)
事前申し込みと料金
ドイツの大学図書館、州立・国立図書館というのは、たいていホームページに非常にくわしく使い方が説明されています。事前申し込みはどうしたらいいか、入館のさいに必要なものなどがすぐにわかるようになっています。これまで訪れてきたところは、フライブルク大学とオーストリア国立図書館以外は、事前申し込みが必要(しておくことが望ましい)でした。
フランクフルトとライプツィヒの国立図書館(Die Deutsche Nationalbibliothek=DNB)は、オンラインで申し込むと両館に共通のアカウントが作成できます。
また、バイエルン州立図書館にオンライン申し込みをしてアカウントを取得すれば、そのままミュンヘン大学図書館にも閲覧(資料の館内閲覧)申し込みをすることができます。このように、一つのアカウントで複数の図書館が利用できる制度は大変便利です。
入館証作成の際の料金ですが、DNBとオーストリア国立図書館(Österreichische Nationalbibliothek=ÖNB)は、有料でした。DNBは年間利用証が48ユーロ、一ヶ月で18ユーロ、1日利用証で6ユーロかかります。けっこう高いという印象です。(当然のことながらこのうえに、コピー代・スキャン代も必要なので)また、ÖNBは、年間利用証が10ユーロで、写真入りの非常にりっぱな利用証をくれるので、これなら安いと思いました。
コピーとスキャナ
たいていの図書館は資料を自由にコピーすることができます。しかしDNBは古い資料(1950年代くらいでもダメ)の場合はコピー不可です。また、ドイツ文学資料館は原則的に作家の草稿はコピーしてほしくないようで、コピーは職員さんにお願いしてごく一部のみできます。
ドイツの図書館や大学にあるコピー機は、だいたい日本のものと同じような機能です。これまで行った館はほとんど1枚10セント(約11〜12円)で、大学生協のカードのように、一枚で10ユーロまたは5ユーロのコピーカードを購入して使います。
日本のコピー機と機能は同じ(中には日本語対応のものもあります)ですが、ことなるのが紙の厚さです。ひらひらした軽い紙ではなく、白くてしっかり厚みのある「いい紙」が使われているので、日本でコピーするよりも紙束は厚く、重くなります。かなりの数をコピーするとなると、この紙束の量が大きな問題となります。
そこでスキャナを使うという方法があります。これまでの訪問では、ドイツやオーストリアのスキャナの性能を信用していなかったり、そもそも日本の図書館でスキャナを使う習慣などなかった(私が普段利用する図書館にはほとんどおいてないです)ため、使用をさけてきました。しかし、紙束の重さに毎回なやまされていたので、今回はできるかぎりスキャナをつかうようにしました。
結論から言えば、スキャナはたいへん便利です。コピーよりもスピードは速いし、大きい本や古い本を動かすときに、損壊しないように気を使いますが、そういう必要もありません。また、大学図書館の場合コピーは有料でもスキャナは無料あるいはコピーよりもはるかに安価です。フライブルク大学は、スキャナが1枚で0.01ユーロ(1.1円)、バイエルン州立図書館は、0.05ユーロ(5.6円)です。ミュンヘン大学にいたっては、スキャナは何枚撮ろうと無料です。
どの図書館が使いやすいか?
では、これまでに訪れた7つの図書館で、どこが一番良かったかを総合的に判断してならべてみましょう。
1.バイエルン州立図書館 Die Bayerische Staatsbibliothek
閲覧室入り口。
設備が立派で、蔵書も豊富。職員さんが非常に親切。また、スキャナは有料ですが、たいへん使いやすく、早い機械が何台も入っているので、待たされることはありません。電子化された資料が多くあるので、今後も日本からよく利用することになりそうです。一方、唯一の欠点は、 本が出てくるのが遅い(3営業日)ことです。カフェテリアもきれいだったし、この点以外は文句はありません。
使いやすいスキャナ
2.オーストリア国立図書館 Die Österreichische Nationalbibliothek
たいへん立派な建物です。
ÖNBといえばペットボトル置き場。休憩所には、ペットボトルやお弁当を置くための棚があります。
利用料が年間10ユーロ必要ですが、建物はたいへん美しく(かつての王宮を使っています)食堂も立派です。所蔵文献は多く、電子化された論文や書籍をダウンロードすることもできます。古い文献もコピー禁止等はなく、気前よく見せてもらえます。また、貸し出し申し込みをしてから本が出てくるのが非常に早いです。(3時間程度)
3.ミュンヘン大学図書館 Universitätsbibliothek der Ludwig Maximilian Universität München
ショル兄妹広場に面したLMUの図書館。
Universitätsbibliothek der LMU - LMU München
こちらは利用料は無料です。バイエルン州立図書館と共通のアカウントが使えるのも便利です。訪れた当時は工事中で、閲覧室がほとんど使用できませんでしたが、コンピューター室にあるスキャナが無料で使えました。スキャナが一台しかなく、順番待ちがありましたが、おそらく通常の閲覧室には、もっと多くのコピー機やスキャナが置いてあるのでしょう。
4.フライブルク大学図書館 Universitätsbibliothek Freiburg
あたらしい図書館本館。一面ガラス張りでギラギラしています。そとにいると照り返しであついけど、館内は快適でした。
カフェテリア。サンドイッチがおいしかったです。
開架式の地下書庫。京大文学部閲覧室を思い出しました。
たまたま見つけたリヒテンシュタイン文学の本。リヒテンシュタインにも国民文学があったことに驚きました。
料金が安いスキャナ。しかし、スキャンした画像は行やページがガタガタになって読みにくいです。
Universitätsbibliothek Freiburg: Universitätsbibliothek Freiburg
事前にちゃんと確認してこなかった私が悪いのですが、完全な学外者だと、利用できる範囲がかなり限られます。開架書庫の本しか利用できませんでした。いっぽうスキャナが安く助かりました(しかしかなり性能が悪い)。図書館内には、カフェテリアがあり、コピーカードと共通のメンザカードで食事やコーヒーが買えます。この大学全体に言えることですが、学籍がある、あるいはこの地域に住んでいる人にとっては非常に使いやすい図書館だと思いました。
5.フランクフルト国立図書館 Deutsche Nationalbibliothek Frankfurt am Main
Deutsche Nationalbibliothek - Home
フランクフルト大学近くにある、大きな図書館です。フランクフルトというと、駅前の猥雑な大阪っぽい雰囲気ばかりが印象に残りがちですが、大学や図書館がある地域は、自然が豊かで静かな住宅街です。図書館の設備はあたらしく、利用しやすい雰囲気です。しかし、カフェテリアの値段は高めです。気を抜いてあれもこれもと注文すると、あっという間に、10ユーロくらいかかってしまいます。
6.ドイツ文学資料館 Deutsches Literaturarchiv
前回の記事で紹介したDLAです。
図書館としては、すこし特殊な館なので、低い順位となってしまいますが、作家の草稿や書簡などを所蔵している貴重な図書館です。職員さんは非常に親切で、利用者の相談に乗ってくれます。しかし、ここに置いてあるものは、手書きの原稿やメモ、手紙などが多く含まれているので、事前に相当な準備をしてこないと、今回の私のようにほとんど何もできずに帰ってくることにもなりかねません。
7.ライプツィヒ国立図書館 Deutsche Bücherei
ここを最下位と位置づけるのは心苦しいのですが、やはり他に比べるとなんだかな、という面が目立ちました。フランクフルトが20世紀以降の図書を多数所蔵しているのに対し、ライプツィヒ館は19世紀まで、そして東独時代の資料が豊富です。しかし、多くの資料がコピー不可です。1950年代くらいの、ふつうに館外貸し出しをしてもおかしくないほど状態のいい本も、コピー不可となっているのはまったく納得がいきませんでした。怒られても困るので、数ページしかないものは、その場でPCで書き写しました。
しかし、建物は古くて居心地がよく、食堂も程よい値段で使いやすかったです。
今後の展望
まだ現時点でドイツに多数ある大学図書館や州立図書館の一部を見ただけにすぎませんが、それぞれの館ごとに違いがあってたいへん興味深いです。国立図書館、ÖNB, BSBなどのメジャーどころには行きましたが、まだ、ベルリンの州立図書館(Stabi)には行ったことがありません。ここも日本から多くの研究者が訪ねるところなので、来年はぜひとも行ってみたいです。