ドイツ語教員が教えながら学ぶ日々

熊谷哲哉 ドイツ語教育、ドイツ文学、文学じゃないけどおもしろいものなど。

飛騨高山ウルトラマラソンを振り返る

飛騨高山市ウルトラマラソンに出場しました

6月12日に、岐阜県高山市で飛騨高山ウルトラマラソン71kmの部に参加してきました。

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ウルトラマラソンとは42kmのフルマラソンよりも長い距離を走る大会のことを総称してそのように呼んでいます。100kmの大会もあれば、71km、60km、88kmと大会ごとにさまざまな距離があります。

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飛騨高山ウルトラマラソンがすごいのは、100kmでも71kmでも、スタートからゴールまで、同じ高山市の中から一歩も出ていないという点です。100kmものコースを作ろうとしたら、複数の自治体にまたがるのが普通です。四万十川マラソン、丹後ウルトラマラソンなども大きな自治体で行われますが、2つ以上の町にコースがかかっています。

 

カフカの『隣り村』

コース図を見ながら、前回紹介したカフカの短編『隣り村』を思い出しました。

私の祖父は、いつもこういっていたものだった。「人間の一生なんぞ、驚くほど短いものじゃ。いまとなってはわしの記憶のなかで、 それはもうすべて、ひと塊になってしもうておって、それで、わしはほとんど理解に苦しんでおる始末じゃ。たとえば、若い者なら、隣り村へ馬を走らせようなどと、平気で決断することができて、それでいて——不運な事故は、まあ、別にしても——幸せに過ぎていく普通の人生の時間をもってしても、その短い旅にとても足りぬかもしれぬということを、若者は恐れもせんのじゃから」(平野嘉彦編訳『カフカ・セレクション1』10ページ)

カフカ・セレクション〈1〉時空/認知 (ちくま文庫)

カフカ・セレクション〈1〉時空/認知 (ちくま文庫)

 おじいさんが語る隣り村の遠さ、それはちょうど高山市のようです。大昔の人にとっては、本当に隣り村に行くだけで人生が終わってしまうくらい、この町は広いです。

走っている最中も、えらい遠いところまで来てしまったと思っていたのに、市内から一歩も出ていないというのは本当に驚きでした。

 

71km、約10時間をどう過ごしたか

ウルトラマラソン について走らない人に説明するのはなかなか難しいです。全部走っているのかとよく聞かれますが、71kmずっと走るのは無理です。今回のコースの場合は、30kmから40kmあたりがずっとかなり急な登り坂だったので、歩いていました。また、最後の10kmくらいももう疲れてしまってほとんど走れませんでした。だから全体で言うと、走ったのは50〜55kmくらいでしょうか。

走っている間は、いろんなことを考えています。高山はとにかく景色がすばらしかったので、景色を楽しみましたが、その間も仕事のこととか家族のこととか、帰り道のこととか、翌日からの授業のことなどを考えていました。銭湯や温泉で長くお湯につかるのと同じで、いろいろなことを考えながら過ごしているはずなのに、終わってみるとたいてい何も覚えていません。適当にどのあたりでどんな感じだったのかというのを思い出してみます。

スタートから30kmあたり

早朝5時15分にスタートしました。この大会は、100キロの部、71キロの部と二つの部門に分かれており、100キロは4時45分と5時、71キロは5時15分がスタートです。6月とはいえ、早朝5時だとまだまだ暗いし、かなり涼しいです。

はじめは、高山市の中心街を走ります。私が泊まった田邊旅館の前も通りました。メインストリートには、ホテルや旅館の方々、観光客などがたくさん応援に来ていました。10キロ程度走ると、コースは市内を離れ、完全な田舎道になります。スタートしてわずか1時間しか経っていないのに、ものすごく風光明媚な山奥の景色が広がります。やはりここは飛騨なのだな、と実感します。

15キロくらいから少しずつ上り坂になっていき、徐々に山に入っていきます。17kmあたりで、最初のピーク、美女高原キャンプ場に着きます。この登りだけでも、普通のマラソン大会だと難所なのでしょうが、この大会だとちょっとした起伏でしかありません。まだまだ元気な時間帯なので、誰もが走って坂を登ります。

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美女高原から降りると22km地点の第一関門、道の駅ひだ朝日村に着きます。ここで飲み物や食べ物を補給します。ちなみにこのエイドで去年おにぎりが腐敗していたという不祥事が起こっています。誰もお腹を壊す人はいなかったので良かったのですが、去年のことがあるのに、今年もおにぎりが提供されていて少し驚きました。私はまだお腹は空いていなかったのでパスしました。

30km〜57kmスキー場までの登り坂と長い下り

第一関門を越えると、少しずつ上り坂がきつくなってきます。特に、30km以降は完全な山道になります。この後39km地点の飛騨高山スキー場まではずっと登りです。そのため、私も含めて多くの人が歩いていました。ロードバイクで登るのも厳しいくらいきつい坂なので、もう歩くしかないでしょう。それでも景色は素晴らしく、ここまで来て良かったとしみじみ思いました。

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コースで一番高い、飛騨高山スキー場は標高約1300m、六甲山よりもはるかに高いです。上の写真に見えるように、リフトがあります。ここで第二関門を通過し、一休みしました。大会前から少し痛みがあった、足の裏が本格的に痛くなってきたので、靴を脱いで足を休め、ロキソニンを1錠飲みました。

スキー場を過ぎると今度は10km以上下り坂が続きます。この下り坂が太ももや足裏には大変過酷で、下り始めは痛くて歩いていました。徐々にロキソニンが効いてくると、嘘のように痛みがなくなり、日頃の練習と同じように、急坂を駆け下ることができるようになりました。

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50km地点のトンネル。この崖が見事です。

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坂道から平坦な道路に出たところで、57km地点の第三関門の丹生川支所です。このちょっと後で100kmコースと71kmコースが分かれます。100キロの部は8時間以内にここを通過しないと時間切れ失格です。 私は7時間半くらいで通過しましたが、実際に100キロに出るならもう少し余裕がないと心配です。

57km〜ゴールまで、疲れが内臓に来る

第三関門で3分ほど座って休んだ後、ゆっくりと走り始めました。ここまでくれば大体ゴールは見える距離ですが、やはり実際に走り出すとなかなか距離が縮みません。このあたりから山ではなく、平地の住宅と農地が混ざった田舎町の風景になります。61kmすぎで、飛騨牛が食べられる休憩所がありました。美味しそうな匂いにつられて数切れ食べましたが、脂身の旨味が体に染み渡りました。

飛騨牛は美味しく食べたものの、だんだん気分が悪くなってきました。脚の痛みをごまかすために飲んでいたロキソニンが胃を傷つけているようでした。ただでさえ私は、フルマラソンを走ると毎回ゴール後に腹痛に見舞われていました。ウルトラマラソンだと途中で水を飲むたび吐き気がするようになります。水分を摂りすぎると気持ち悪くなりますが、大量に汗をかいているので、絶えず水分を取る必要があります。エイドを通過するたび、少しずつ水を飲んで休んでを繰り返して少しずつ前に進みました。

ゴール手前5kmの地点で最後の休憩をしました。あと5km。普段の練習ならば30分もかからない距離ですが、途方もなく遠く感じられました。早歩きで残り2kmまできて、信号で足の筋を伸ばして、なんとかあと2kmを走ってゴールできました。

 

ゴール後

ゴール地点でしばらく休んだのちに、シャトルバスで高山駅まで行き、それから旅館にいったん戻りました。旅館に置いていた車で帰る前に、宿の女将さんに頼んだところ、お風呂に入れました。風呂から上がり、車の中で冷房に当たりながら少し横になると、ようやく吐き気がおさまり、ジュースや焼きそばをとることができました。

夕方4時ごろ車で出発し、時々休憩しながら、なんとか夜10時ごろ西宮の自宅にたどり着きました。翌日月曜は1時限目から3コマ授業が入っていますから、やはり100キロではなく71キロの部に出場するのが限度でしょう。

7時間くらい眠りましたが、翌日はだいぶ疲れが残っていて、体が重く感じました。フルマラソンの場合、翌日から普通に歩いたり走ったりできますが、ウルトラの場合、筋肉がだいぶ壊れてしまっているので一週間くらいかけて回復する必要があります。今は足裏のじんわりした痛みが残っていますが、脚の筋肉はすっかりよくなっています。

今回の装備と結果

自分の備忘録として、今回の装備とその結果をまとめておきます。

今回選んだシューズは、アディダスのアディゼロジャパンブースト3です。

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4月に走った香住マラソン(42km)で履いていたアディゼロ匠挑がとても気に入ったので、同じアディダスでより反発力が強そうなこのシューズを選んだわけです。これまで主にアシックスとミズノを選んできた私は、少し足幅が広いので、アディゼロジャパンがやや窮屈に感じられました。

走り終わってみると、予想はできていましたが、両足の小指の爪を傷めていました。しかし、いつもできる左足小指の水疱や足裏の水疱は全くできていませんでした。

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靴の中で指が圧迫されることが水疱の原因だと思っていましたが、きつい目のこのシューズを履いたら逆にできなくなったというのは、どういうことなのでしょうか。靴の中での遊びが少ない方が足指にはいいということなのかもしれません。これは全く意外なことでした。

距離とスピードを見るために、マラソンの時はGPSウォッチを使います。2年前から使ってきた、スントの時計ですが、バッテリーの持ちが今ひとつです。

 

 

フルマラソンならば問題ありませんが、ウルトラには不向きです。今回は、50kmを超える200m手前あたりで、ピーっと鳴って電源が落ちました。50kmを超えたら、もうペースがどうとかいうレベルではなく、走れたら走る、ダメなら歩く、という進み方になっているので、GPSウォッチなどいらないのかもしれませんが、100kmレースの場合、チェックポイントの制限時間があるので、どうしても時計が必要です。次の丹後ウルトラまでに、何か用意しておかないといけません。

最近は、スントAMBIT2に比べてバッテリーの持ちがいいGPSウォッチがいろいろ出てきています。エプソンの脈拍を手首で測れるものが人気のようですが、あまりかっこよくないのでどうも買う気になりません。私としては、これが今の所一番かな、と思うのですが、若干高いです。海外通販だと少し安いので注文してしまうかも。

 

 

丹後ウルトラマラソンに向けての課題

次の大会は9月の丹後ウルトラです。昨年は72kmあたりで時間切れでリタイヤしています。今年こそは100km完走を目指したいところです。夏休みはどうしても研究や調査旅行で練習が不足しがちです。暑い時間に長く走る練習を少しでも積んでおかなければと思っています。