ドイツ語教員が教えながら学ぶ日々

熊谷哲哉 ドイツ語教育、ドイツ文学、文学じゃないけどおもしろいものなど。

ミュンヘンは輝いていた、この街の印象について

ミュンヘンに来るのは、1998年の春以来なので、およそ18年ぶりでした。18年前はたしか一泊だけしてすぐ帰ったのだと思います。そのため、どんな場所に行ったのか、市内をどのように観光したのかなどは全く覚えていません。ただ、そのときに「ミュンヘンは輝いていた」というマンの一節が心に刻まれました。*1

今回18年ぶりにミュンヘンに来てみて、つくづくいい街だと感じました。チューリヒと同様、人が褒める場所にはやはり来てみるものだと思いました。

 

がっかり中央駅

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しかし、こんなミュンヘンでも旅行者がはじめに降り立つ中央駅は、とっても見すぼらしい建物です。外観だけみると、日本の地方都市みたいです。チューリヒバーゼル、フランクフルトやライプツィヒなどドイツの大都市において中央駅は、その街の顔であり、近代以降において大聖堂と同じくらいシンボリックな役割を担ってきました。つい10年前に作られたベルリン中央駅もこんなに立派です。

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戦争のためにミュンヘン中央駅は大打撃を受け、1960年に現在の建物が造られたそうです。長距離列車のホームが並ぶコンコースだけみると、他の大都市の駅と全く変わらない堂々とした立派な駅舎なのですが。

 

ひろびろ地下鉄

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開放的なデザインの新型車両。

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青いLED証明で照らされた駅舎。

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ベルリンの狭くてくさくてこわい地下鉄のイメージが強くて、ドイツで地下鉄に乗るのは正直あまり好きではなかったのですが、ミュンヘンに来ておどろきました。こんなにきれいな地下鉄があるとは。そして車両がとても広々しています。たくさんの人が乗っているのでちゃんと写真に撮れなかったのですが、新型車両も、旧型車両も、非常にゆとりあるデザインです。はじめに地下トンネルを掘った時に、広い規格を作ったのでしょうね。日本だと、古い地下鉄(銀座線)も、新しい地下鉄(大江戸線)も同じように狭いので困ります。

追記)

上の新しい車両も、下の旧型車両も、色味は違えど水色と白の組み合わせです。これは、バイエルン州の旗(もともとはバイエルンヴィッテルスバッハ家の紋章)の色に基づいています。ミュンヘン市内にはあちこちに、この水色と白のモチーフが見られます。

バスとトラムも便利

地下鉄だけでなく、バスやトラム、そしてSバーンの路線もたくさんあり、非常に便利です。しかし一つ欠点を挙げるとすれば、ミュンヘン交通局のシステムは、非常に難解です。市内とその周辺が10以上のリングに分かれていて、いくつのリングをまたいで移動するかによって、運賃が変わってきます。

結局滞在中は、この料金体系がほとんど理解できていなかったのですが、後になってわかったのは、とりあえず市内中心部のゾーンで通用するチケットを買えばいいようです。

MVV - Tarifpläne

 

 

タクシーがでかい

ついでにタクシーも紹介しておきます。ホテル近くのアウグスティーナー・ケラーのビアガーデンの前には、毎日たくさんのタクシーが停まっていました。ドイツに初めて来た頃タクシーがみんなメルセデスだったことに驚きましたが、よく見ると車種もいろいろあります。驚くのは、メルセデスならEクラス、BMWなら5シリーズなど、日本の感覚だとかなり幅が大きい車(もう立体駐車場に入らない)が多く使われていることです。中には、BMWでもっとも車幅が大きく、値段も高い7シリーズのタクシーもありました。こんなに大きい車じゃ、狭い住宅街には入ってもらえないと思いますが、ミュンヘンでは問題ないのでしょうか?

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緑が多い街

あまり起伏のない平地でかつ、豊かな緑地が街のいたるところにあります。そして充実した交通網もあります。ちょうどライプツィヒを都会にしたような感じかもしれません。ミュンヘンは、ベルリン、ハンブルクに次ぐドイツ第3の都市ですが、ベルリンのような巨大都市ではありませんし、フランクフルトのような高層ビル街もありません。おもに中心部の旧市街周辺で過ごしていましたが、そこだけを見ても、交通量や人の多さを比べると、ウィーンよりもこじんまりとしているように思いました。日本の都市(これも多くの街を知っているわけではありませんが)と比べると、神戸や京都と変わらない程度という感じがしました。ちょうど人口の上では、両都市と近いようです。

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市内を流れるイザール川。川の両岸には緑地が広がっています。f:id:doukana:20160826171859j:plain

暑い時期だったので、日光浴をしたり泳いだりする人がたくさんいました。

自然環境

ドイツの都市は、どこにいっても公園が整備されていて緑豊かで美しいです。ミュンヘンもまた、エングリッシャーガルテンをはじめ、市内に大きな公園や宮殿の庭園などがあり、緑地に恵まれた街でした。

緑地だけでなく、きれいな川もこの街の特色でしょう。フランクフルトのマイン川、ドレスデンエルベ川、ウィーンのドナウ川など、大都市の中心には川が流れているものですが、この街のイザール川のように、市民が水浴びをしたりできるほど美しい川は、あまりないのではないかと思いました。

 

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 ルートヴィヒ二世が生まれ育ったというニュンフェンブルク城。現在も宮殿と広大な庭園が市民に親しまれています。

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宮殿の周辺だけでも広いのに、さらに広大な公園があります。うかつに足を踏み入れてしまったために、公園から出るのに2時間ほど歩き回りました。

 

食べ物、物価

ミュンヘンは高い、とはよく言われることです。ドイツで一番豊かなバイエルン州の州都ですから、お金持ちもたくさんいます。全体的に街が豊かな印象もうけます。しかし、物価は思ったよりも高くはありませんでした。ホテルの値段も、そもそもの数が多いこともあり、安いところから高いところまでありました。食べ物の値段ですが、カフェやレストランの食事は、チューリヒはもちろん、ウィーンよりも安いと思いました。ケバブが3.8ユーロ、中華インビスが4ユーロくらいから、ビールは500mlで3.8ユーロが平均くらいだったと思います。

ミュンヘンはビールの街なので、どこにいっても美味しいビールが安く飲めます。アウグスティーナー・ケラーのビアガーデンがホテルの近くにあったので行ってみましたが、セルフサービス席だとビール1リットルが7ユーロくらいでした。

しかし、ビールとともに食べる料理はやはりそれなりに高いです。

 

宿泊

大都市のホテルは高い。そういうものだと思っていましたが、ここ数回ドイツに旅行して、どうもそうとも言い切れないのではないかと思っています。一昨年に1週間近く滞在したフランクフルトは、ドイツの空の玄関口ですが、中央駅周辺には、かなり安価な(しかしあまり快適でもない)ビジネスホテルが数多くあります。14年に泊まったのは、そこそこいいホテルでしたが、それでも一泊7000円〜8000円程度でした。

同じようにミュンヘンの場合も、高いホテルはたくさんありますが、安く泊まれるところも多くあります。今回選んだのは、アパートメントホテルでした。ウィーンには、アパートメントホテルのチェーンがあり、安価で広い部屋に泊まれるのですが、ミュンヘンでは、非常に安いところとかなり高いところに二極分化していて、現実的な値段(一泊5000円から8000円くらい)のアパートメントがなかなか見つかりませんでした。最終的に、パリやベルリンなどにもある、シタディーヌに泊まりました。これが思いの外良い部屋で、大変快適に1週間過ごすことができました。

ホテルシタディーヌがあるのは、中央駅北口から西にまっすぐ1.5kmほどのところで、バスで5分程度(本当はトラムが通っているが、工事中のため乗れなかった)でした。同じエリアに、アイビスやノボテルなど大手チェーンのホテルが並んでいました。

Citadines Arnulfpark Munich

 

博物館・美術館

毎日図書館に通っていたので、むしろ余った時間まで、建物のなかで観光したくはない、と思ってしまって、1週間も滞在したのに、あまり多くの美術館博物館を回れませんでした。最後の週末に、悔いが残らないようにと訪れたのが以下の場所です。

1)BMWミュージアム

 ミュンヘンBMWのお膝元です。本社社屋のすぐ近くに、大きな博物館とショールームがありました。博物館では、会社設立時に作っていた飛行機やオートバイのエンジンや、歴代のモデルが並べられていました。特に面白かったのが、50年代に製造していたこの小さな自動車です。運転席に入るためのハンドルがどこにあるのか探したら、なんと車のフロント部分を開けて乗る仕組みのようです。

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BMW Welt内部。ショールーム、試乗コーナー、カフェ、ショップなどがあり、1日楽しめます。

 

2)アルテ・ピナコテーク

 工事中だったアルテピナコテーク。ピナコテークとは絵画館のことで、アルテ=alt+女性名詞の語尾e で、古い方の絵画館ということです。こちらには、近代の名作の数々が収められていました。有名どころだとデューラーの自画像やブリューゲルの絵画がありました。

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3)ノイエ・ピナコテーク

アルテピナコテークのすぐ後ろにあるのが、新しい方の絵画館ノイエピナコテークです。 こちらはクリムトやシーレ、ホドラーなどがありました。

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4)ドイツ博物館

自然科学系の展示が見応えがあるというので期待した訪れたドイツ博物館ですが、地下に広がる、鉱業系の展示がすばらしかったです。日本でも足尾銅山(栃木の子供達にトラウマを植え付ける場所です)や佐渡金山を見学して、鉱山の展示が好きなので、ここでもたくさん写真を撮って楽しむことができました。

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岩塩鉱山のようす。

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こちらは炭鉱での作業の様子。石炭や褐炭はドイツにおける重要な資源で、現在も採掘が行われています。

 

 

*1:トーマス・マンの短編小説『神の剣』の冒頭部分にこの言葉が出てきます。