ドイツ語教員が教えながら学ぶ日々

熊谷哲哉 ドイツ語教育、ドイツ文学、文学じゃないけどおもしろいものなど。

ドイツ語の前置詞について

 

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ドイツ語初級文法後半のもう一つの難所、前置詞

後期には、本務校でも非常勤先でも、前置詞について教えました。前置詞は、たいていの初級ドイツ語の教科書では、後半に入っています。一年で初級文法を終えるクラスの場合は、後期の主要な学習内容に数えることができるでしょう(ほかには形容詞、現在完了形などが重要ですね)。

 

前置詞の難しさ

前置詞がわからないという学生は非常に多いです。以前教えていたクラスでは、期末テストに、当てはまる前置詞を答えさせる穴埋め問題を、教科書を参考にして出題しましたが、正解率が半分くらいしかなかったことがありました。*1

学生が前置詞を苦手とする理由はすぐにいくつか思いつくことができます。

1)教科書で一度に何種類も出てきて覚えられない。

けっこう種類が多いのに、一度に学ばなけれならないというのはやっかいです。まとめて学んだ方が理解しやすいと教える側は思いますが、当然学ぶ方の思惑は違いますね。

2) 英語と対応しているようで対応していない

fürとfor、inなど英語と同じものや似ているものもあるのですが、英語だと区別しない概念が別の前置詞になっていたりすることもあります。英語と似ているようで違うというのは、前置詞に限らずドイツ語全般の特徴ですね。

3)例外的な用法、一義的な規則で理解できない用法が多い

これはまったく、初学者でも私のような教員でも同じことです。ネイティブでないとなかなか正確に前置詞を使うことは難しいと思います。もちろん、検定試験やドイツ語圏の大学入学レベルのドイツ語試験などでは、前置詞の使い方に関する問題もよく出ているので、問題集などで対策をすることは可能です。

 

今回は、上級者向けの難しい話はおいておいて、これがわかればまずは十分という最低限度の内容を説明したいと思います。

ドイツ語の前置詞の使い方と特徴

前置詞とは、どのような場面で使われるものでしょうか。まずは例文をいくつか挙げてみます。

Daniel kommt aus Deutschland und wohnt jetzt in Osaka.

ダニエルはドイツ出身で、現在は大阪住んでいます。

An diesem Wochenende fährt er mit seiner japanischen Freundin nach Kobe, um diesen Weihnachtsbaum zu sehen.

今週末、彼は日本人のガールフレンド神戸、例のクリスマスツリーを見に出かけます。

上記の文で下線をつけた箇所、aus, in, an, mit, nachなどが前置詞です。名詞の前に置かれて、文の中での役割を明示するのが前置詞の役割です。(英語の前置詞、日本語の助詞と同じですね)

 

前置詞の特徴:格支配

英語とドイツ語の前置詞が大きく異なるのは、格支配があることです。格支配とは、前置詞の種類ごとに、後ろに続く名詞の格が決まっているということです。

つまり、前置詞の後の名詞については、「〜に」だから3格、「〜を」だから4格のような格の考え方とは別のルールがあると理解してください。

außerhalb(〜の外に), statt(代わりに), während(〜の間に)などは、後ろに必ず2格の名詞(代名詞)が続きます。これを2格支配の前置詞といいます。

同様に、zu(〜へ), nach(〜へ・〜の後で), von(〜から), aus(〜から), bei(〜で、〜のもとで), seit(〜以来), mit(〜を使って、伴って)などは3格支配です。

für,(〜のために) ohne(〜なしで), durch(〜を通り抜けて), gegen(〜に逆らって), um(〜の周り、〜時に)などは4格支配です。

やっかいなのは、用法によって3格支配または4格支配となる、3、4格支配の前置詞です。an, neben, in, über, auf, vor, hinter, unter, zwischenなどがそうです。(↓私がかつて授業で板書した概念図です)

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前置詞をイラストで図式的に理解するというのは多くの教科書にも取り入れられていますが、おそらく元ネタはこの本の表紙ではないかと思います。

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(*現在は新版となって、表紙デザインは変わってしまいましたが、やはり不朽の名著です。)

 

必携ドイツ文法総まとめ

必携ドイツ文法総まとめ

 

 

3、4格支配の前置詞は、物や人の位置や状態を表すときは、3格支配動作の方向を表すときは4格支配となります。

3格支配の例

Er lernt heute in der Bibliothek. 彼は今日図書館で勉強する。

Die Katze schläft auf dem Sofa.猫はソファの上で眠っている。

4格支配の例

Er geht auch morgen in die Bibliothek. 彼は明日もまた図書館にいく。

Die Katze springt auf den Stuhl.猫はイスの上へと飛び上がる。

 

✴︎英語における格支配

参考文献に、英語にも前置詞の格支配があるという記述を見つけました。

たとえば、for me, to him, with meなど前置詞が前にある場合は代名詞は目的格になります。これはドイツ語前置詞の格支配に相当するものです。

↓こちらの本に書いてありました。

英語と一緒に学ぶドイツ語

英語と一緒に学ぶドイツ語

 

 

 

ややこしい使い分け

「in=中に」のような一対一の説明だけではわかりにくい区別がたくさんあるのが、前置詞の厄介なところです。以下、いくつか紛らわしいもの、一言で違いを区別しにくいものなどを挙げておきます。

währendとzwischen

教科書では(〜のあいだに)と書いてあるので、混同してしまう学生が時々います。しかし、辞書で調べれば、意味はまったく違います。

währendは英語のduringやwhileに近い意味です。要は時間的に〜をしている間、〜の期間という意味です。例を挙げれば

Er ist während der Sommerferien zu Hause geblieben.彼は夏休みの間、家にこもっていた。

いっぽうzwischenは、物と物、人と人との間を意味します。教科書のグループワークなどで、建物の位置を説明する表現がよく出てきます。

Die Buchhandlung ist zwischen der Post und dem Café. 本屋さんは郵便局とカフェの間にある。

この二つの助動詞の区別という問題だけに限らず、日本語とドイツ語を一対一で対応させて暗記しようとするのはやはり危険ですね。

 

on(上に)にあたるanとauf

英語やフランス語とドイツ語はよく似ていますが、ちがう言語なので、当然前置詞も一対一で対応しているわけではありません。英語では一語で表現される概念がドイツ語では分節化されていることも時々あります。anとaufはそれぞれ、面に接している・乗っかっている状態を指します。英語だとonに当たるものですが、anは垂直の面、aufは水平の面と方向が異なります。

Er steht an dem Fenster.彼は窓辺に立っている。

Er hängt das Bild an die Wand.彼はその絵を壁にかける。

Er sitzt auf dem Sofa. 彼はソファに座っている。

Er legt das Buch auf den Tisch.彼はテーブルの上にその本を置く。

 

〜からのvonとaus

彼は東京から大阪へ行った、葉っぱが木から落ちる、などの「〜から」にあたるのが、vonおよびausです。

vonは出発点(移動の起点)を意味します。

Sie fährt mit dem Zug von Osaka nach Okayama.彼女は電車で大阪から岡山へいく。

またausは、「中から外側へ」を意味します。

Er kommt aus Tochigi. 彼は栃木出身です。

Er nimmt das Buch aus dem Regal. 彼は本棚からその本を取り出す。

 

〜へのnach, in, zu

行き先を言うときの「〜へ」はおもにnach, in, zuのどれかを使います。

大阪へ、難波へ、など具体的な地名が続く場合はnachです。

Er fliegt nach Berlin. Sie fährt nach Kobe. 彼はベルリンへ飛んだ。彼女は神戸へ行く。

劇場、映画、教会、図書館、博物館、街など中に入って何かすることが前提となる場所へ行く場合は、inをつかいます。

Er geht in die Kirche. 彼は教会へ行く。Sie geht in die Stadt. 彼女は街へ行く。

街へ行くのに、「中に入る」と言う意味のinが使われるのは変な感じがしますが、かつてドイツの都市は、壁に囲まれていて、外の世界とはっきりと区別されていたので、その名残と考えられます。(↓イメージ図)

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また、「叔父さんのところ」のような人の家、公共の場所(駅、大学、郵便局)などの場合はzuを使います。

Ich gehe heute zu dir. 君のところへ行くよ。Er geht zum Bahnhof. 彼は駅へ行く。

通常授業では、「〜へ」というときこの三つの区別を教えていますが、本を見ているとaufもzuと同じ意味で使われるようです。Er geht auf die Post.彼は郵便局へ行く。

↓この本に詳しく書いてありました。

冠詞・前置詞・格 (ドイツ語文法シリーズ)

冠詞・前置詞・格 (ドイツ語文法シリーズ)

 

 

前置詞が難しいのは、特定の動詞と結びつく場合

上記のように、大まかな意味と使いかたを理解すれば、前置詞の基本を押さえることはそれほど難しいことではありません。しかし、難しいのは、特定の動詞と結びつく前置詞です。たとえば、

sich4格über4格freuen 〜を喜ぶ

sich4格auf4格 freuen〜を楽しみにする。

sich4格an4格erinnern〜を思い出す。

auf4格warten〜を待つ。

an3格teilnehmen〜に参加する。

代表的なものとしては、上記のものが挙げられますが、たくさんあるので、検定試験などを受ける場合には、問題集などで練習する必要があるでしょう。

 

 

*1:教科書付属の問題集に穴埋め問題が入っていたので、授業で使い、同じような形式で出題したのですが、知識が定着していない様子でした。むしろ前置詞を使った作文などを出題した方が正答率は高いと思いました