ドイツ語教員が教えながら学ぶ日々

熊谷哲哉 ドイツ語教育、ドイツ文学、文学じゃないけどおもしろいものなど。

超少人数クラスで教えています

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超少人数クラスでの授業のイメージ

教務委員の4月はたいへん

新学期が始まって2週目が終わりました(木曜日スタートなので、19日から3週目です)。この時期、私たち各言語の教務委員は、あちこち教室を回ったり、事務室や講師控え室に行ったりと、忙しく過ごしています。私も、今年は神戸大の非常勤をやめて、月曜日を授業なし日にしたにも関わらず、この二週間は月曜から金曜まで早朝から大学に来ています。

私たちがバタバタ過ごしているのは、勤務先の場合、第二外国語の選択をするのが、入学手続き時ではなく、1回目の授業が終わってから、という事情によります。かつて教えていた他の大学の場合は、1回目からすでに受講者名簿ができていて、受講者数の増減などは起こり得ませんでした。どこの大学もそうだろうと思っていたのですが、本学では、他の選択科目と同様、1、2週目に希望する授業に出たあとで、履修を決定することができるようになっています。

この制度があるために、当然現場は毎年混乱します。英語の場合は入学式後のプレイスメントテストでクラスを振り分けますが、第二外国語は学部学科で指定された時間(何曜日何時間目が決まっている)であれば、どの言語も選べます。そのため、クラスによっては希望者が殺到したり、逆に誰も来なくて不開講になってしまうこともあります。

私は着任2年目から5年目の今年まで、ずっと教務委員を担当しています。ドイツ語教員は5人いるので持ち回りで担当すればいいのかもしれませんが、それぞれ先生方には別の仕事があるので、今後もしばらくは(おそらく2、3年後に新人が入るまでは)私が担当し続ける見込みです。(クラバートの水車小屋みたいな職場です)。

今年は韓国語が大人気、ドイツ語はいよいよ虫の息!

本学では、独・仏・中・韓の4言語の教員(イタリア語、スペイン語もありますが専任教員がいません)はチームで仕事をする機会が多く、4月末には全体会議も行われ、毎年新入生がどの言語に集まったかが確認されます。やはり毎年中国語が一番人気で、経営学部の場合は7、8割の学生が中国語を選択します。ドイツ語は1割ちょっとです。

しかし、今年は中国語の履修者がそれほど多くないらしく、代わりに韓国語が増えているそうです。本学の場合、一クラス50名を越えると、クラスを分割するというルールがあります。韓国語クラスでは、超過するクラスが多発し、いくつかクラスを増設しないといけなくなったそうです。(教室、教員の確保がたいへんです)

経営学部のクラスというと、私のイメージでは男子7、8割で女子はごくわずかというのがふつうかと思っていましたが、韓国語のクラスはほとんど女子学生だそうです。ぜんぜん知らなかったのですが、韓国アイドルの人気はすごいのですね。

一方ドイツ語は、毎年あまり受講者は集まらず、教室に入りきらないなんてことはめったにありません。それどころかここ2年ほどは、とくに経営学部で履修者の減少が目立つようになってきました。かつては1クラス平均30名ほどいましたが、今年は10名以下が普通です。理由は分かりませんが、次にドイツ語履修者の変化を見てみます。

どうしてこうなった?ドイツ語履修者数の変化

自分のPCに保存してあるデータをもとに、私が着任して以後5年間の、水曜日クラスの履修者数をまとめました。私一人で長期のデータを蓄積しておけるのも、クラバート的に教務委員を務めてきたことの効用ですね。

経営学部の初級ドイツ語は、火曜、水曜、金曜に開講されていますが、私がこれまでずっと担当していたのはおもに水曜のクラスだったので、水曜日だけでまとめておきます。(正確な数字がわからないところはだいたいの数に直しています)

*ちなみに経営学部は1学年1300人〜1400人くらいいます。学科ごとに時間帯が分かれ、現在は1年生向けドイツ語は7クラス開講されています。

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 私が着任した2014年ごろは、経営学部の各クラス(金曜日の再履クラス以外は)はだいたい20人から30人程度の履修者が集まっていました。16年に私の担当する2限のキャリア・マネジメント学科クラスが8名と急に減り、また17年には1限の経営学科も減少してしまいました。一方で3限の会計学科O田先生クラスには30名近く学生が来ていました。

2016年にはじめて10人以下のクラスができてしまいましたが、それまではわりと大人数が集まっていたことがわかります。去年も今年もおもにゼミ室のような小教室ばかり使っていますが、14年、15年ごろは定員50人程度の教室をつかって、ちょうどいい散らばりぐらいに学生が座って、わいわい賑やかに授業をするというスタイルだったと思います。

 

超少人数クラスで何が問題か 

こういう経緯をたどって、私のドイツ語の授業は金曜日の中級クラスが20名程度登録している他は、すべて10名以下となってしまいました。

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語学の授業は一般に、少人数であるほどいいと言われていますが、大学で、しかも初習外国語ではなかなか10人以下の超少人数クラスというのはないのではないかと思います。なかでも火曜日の3時限目は3名、水曜日2時限目は2名と、村の学校のような規模です。

超少人数クラスになってしまったことは、少なからずショックでした。そして、これまでのような授業ができなくなってしまうのではと不安でした。しかし、登録期間が終わってしまえばもう履修者数は変わりません。何人であろうと授業をしないわけにはいきません。

そうして実際に超少人数クラスで授業をやってみましたが、非常に充実した時間がすごせたように思います。早く進み過ぎてしまうのではないか、あるいは、間が持たなくなってしまうのではないかといった心配は必要ありませんでした。学生たちの状況をよくみて、彼らそれぞれのペースに合わせて進めれば、大きいクラスよりもずっと学習効果は高いという当たり前のことに気づきました。(学生自身も、集中して勉強できていい、と言っていました)

私が不安だったのは、これまで10年近いキャリアで自分が確立してきたと思い込んでいた方法論が通用しなくなるかもしれないということでした。確立したと言っても、それは30人から50人程度のクラスに最適化した方法にすぎません。

ある程度人数が多いクラスでは、ペアでの会話練習やグループでの話し合いにどれだけ時間をかけるかが授業進行の大きなポイントになります。しかし人数があまりに少なすぎると会話練習も口頭発表や口述試験もあっという間に終わってしまいます。同じドイツ語総合1のクラスを3つ担当しているけど、その中で進度や学習内容に差が出てしまうかもしれない、そう危惧していたのでした。

 

超少人数クラスでいいじゃないか

たしかに同じ名前の授業である以上、進度や内容が違ってしまうことは問題です。クラスごとにドイツ語の理解度が違うのであれば不公平だ、とも言われかねません。*1

もちろんテストの難易度や成績評価は、同じ授業である以上揃えるべきです。しかし、学習者はそれぞれ違うので、当然どんなクラスサイズであれ、何もかも同じく揃えることは不可能です。

同じ授業科目で複数クラスを担当する場合、授業内容を揃えることは、これまでの私にとっては当たり前のことでした。1時限目も2時限目も同じ話をして、同じところまで教科書を進める。そうやって機械的に進めたほうが当然楽です。とはいえどのクラスだって、学力ややる気に差があるでしょうし、学部学科ごとに雰囲気も異なっています。それならば、一つ一つちがう授業をすればいいのです。人数が少ないのであれば、グループワークの内容を増やせばいいし、発音練習も繰り返しやればいいでしょう。小テストや期末テストで同じくらいできるようになれば、それぞれの授業では違う方法をとってもかまわないのです。

よく考えるとほんとうに当たり前のことなのに、私はこんなことにも気付かずに教えていた、経験によりかかって、楽をすることばかり考えていたんだと痛感しました。そもそも経験を頼りにするのであれば、もっと過去のこと、大学で教える前のことを思い出すべきでした。

博士課程に上って初めてドイツ語を教えたのは、某家電メーカーの社員さんへの短期集中講座でした。マンツーマンで1日4時間ドイツ語会話を教えました。その後もドイツ語で医学部を受験したいという高校生に半年間「受験ドイツ語」を教えたりもしました。あのころは、一対一の授業が当たり前でした。今回のことで、10年以上前の、もう忘れかけていた経験を思い出すことができました。

 

 

ドイツ語はこのまま超少人数でいいのか?

いくら超少人数クラスで充実した学びを!と言ったところで、来年度の履修者がゼロになってしまっては困ります。 

今のところ超少人数クラスになっているのは、もっぱら経営学部のみだといいます。(他学部にもいくつか少ないところはありますが、これほどではありません)

学生たちは一般に少人数の授業を嫌うので、どうしても先輩からのアドバイスを聞いた次の年の学生たちは、少人数になるドイツ語を避けようとしてしまうのでしょう。このままでは本当にゼロになることも考えられます。

本学の場合は、もう中国語や韓国語のようにドイツ語人気が回復することは今後はないでしょう。私たちが学生だった頃のように、いまはもう誰もがドイツ語を学ぶ時代ではないからしかたないのかもしれません。だから私としては、これだけ中国語を誰もが履修したがるのであれば、中国語か英語を第一外国語にして、その上でドイツ語や別の言語を学べるようにしてはどうかと思います。あるいは第二外国語だけでなく、第三外国語も学べる制度をもっと充実させる必要があるとも思います。*2

 

 

*1:じっさいにある学部では、同一時間に開講されている複数クラスのあいだで、テストや課題、進度が違っていると学生からクレームがあったそうです。

*2:さまざまな言語の初級クラスばかりを履修する学生の存在は、しばしば問題になっています。つまり、ドイツ語総合1(半期)1単位を取得し、翌年に中国語総合1、さらにその次の年に韓国語総合1と、1単位ずつ取得して、必修の語学の単位を取るというケースがあります。こういう学生は中国語、韓国語の2年生以上のクラスに多くいます。学習意欲が低い学生にありがちな行動ということで問題視されています。通常は半期1単位ずつ通年で履修するよう指導していますが、抜け道があるので、こういう学生が出てきます。もちろん語学が好きで、様々な言語を一年ごとに学びたいという学生もいるはずなので、ちょっと難しい問題です。