ドイツ語教員が教えながら学ぶ日々

熊谷哲哉 ドイツ語教育、ドイツ文学、文学じゃないけどおもしろいものなど。

世界文学全集を買った

 

『集英社ギャラリー世界の文学』をまとめ買い

少し前に秋草俊一郎さんの『「世界文学」はつくられる:1827-2020』を読み、世界文学全集に関心を持っていました。この本では、かつて日本でたくさん刊行され、売れていた世界文学全集について、ソ連、アメリカと比較しながら、いかにして「世界文学」という概念がつくられていったかが論じられます。今年読んだ研究書のなかでも、もっとも面白かった本の一つに挙げたいと思いました。文学を学ぶすべての人にお勧めしたいです。

 

「世界文学」はつくられる: 1827-2020

「世界文学」はつくられる: 1827-2020

 

 

さて、世界文学全集におけるドイツ文学の地位は、日本におけるドイツ語学習やドイツ文化への関心の低下と同様に、凋落の一途をたどっています。最近の池澤夏樹編の世界文学全集では、カフカ、ヴォルフ、グラスが残っているばかりです。

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日本の読書界ではドイツ文学は、古くさい、前時代的なものと思われてしまっているのでしょう。この問題については、私なんかよりもっとちゃんとした人が研究論文を書いていますので、ここでは深く立ち入りません。

ふと気になって、文学全集のなかでも、そんなのあったっけと記憶の中にはあったものの、じっさいに手に取って読んだことが一度もなかった本である、『集英社ギャラリー世界の文学』を全巻まとめ買いしました。

この本が欲しいと思った理由は、古代ギリシアから現代(戦後世界文学)まで網羅した最後の文学全集であるということ(池澤版は、実質20世紀以降の現代文学全集です)、そしてバブル期の89年〜91年に刊行されていたため、本がとてもきれいでぜいたくな作りになっているということでした。*1

とてもきれいな本なので、箱イラストと内容を紹介したい

どの巻も、山本容子さんの美しいイラストが箱にプリントされ、最初のページには、カラーの口絵と高階秀爾による解説が収録されています。本の天には、各巻ごとに少しずつ色の違う鳥の絵が印刷されています。

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(色違いの鳥のイラスト、とてもきれい)
また、解説の量がとても多いのも特徴といえます。この解説だけをあつめて『名作で学ぶ世界文学史』みたいな本をだしていたらけっこう売れたのではと思います。

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(作品の扉のページには、必ず人物関係図が入っています。2段組ですが、大きい活字でゆったりとしたレイアウトです。また充実した解説、そして収録作以外の作品の紹介など、作品の背景を知ることができます。写真も豊富です。講談社文芸文庫の解説ページみたいです。)

とてもきれいな『世界の文学』をただ書架に並べておくのももったいないので、以下各巻の箱イラストと口絵、そして帯の写真(帯には当時公開されていた映画の一シーンなどが入っています)、さらに各巻の収録作品を紹介していきます。また、箱イラストや収録作品について短めのコメントもつけました。

20巻もあるのでじっくり見ていってください。

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しかし全巻並べるとこれだけのボリュームがあります。狭い書斎がいっぱいになります。子猫も遊ぶ場所がなくて不服そう。

第1巻 古典文学集

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ギリシア悲劇集

・アイスキュロス アガメムノーン  呉茂一訳

・ソポクレース アンティゴネー  呉茂一訳

・エウリーピデース バッコスの信女  松原千秋訳

ダンテ 神曲(地獄・煉獄・天国)  寿岳文章訳

セルバンテス ドン・キホーテ(正篇)  会田由訳

アイスキュロス、ソポクレース、エウリーピデース、ダンテ、セルバンテスについての解説およびギリシア悲劇について。

文学作品キイノート(ホメロス、ソポクレース、アイスキュロス、エウリーピデース、セルバンテスのほかの作品概要)

ギリシア文学史年表

イタリア文学史年表

スペイン文学史年表

月報:小川国夫、村上陽一郎

コメント:ダンテとセルバンテスがこの巻に入るのが意外。1巻の古典文学以外は国別にまとめているが、スペイン・イタリアの巻はないのでしょうがなかったのでしょう。

第2巻 イギリス I

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シェイクスピア戯曲集

・ロミオとジューリエット  平井正穂訳

・ヴェニスの商人  小津次郎訳

・夏の夜の夢  高橋康也訳

・ハムレット  永川玲二訳

・オセロー  平井正穂訳

・リア王  平井正穂訳

・マクベス  永川玲二訳

・あらし  工藤昭雄訳

シェイクスピア詩集 ソネット集  高松雄一訳

デフォー ロビンソン・クルーソー  平井正穂訳

スウィフト ガリヴァ旅行記  中野好夫訳

シェイクスピア、デフォー、スウィフトについての解説。

文学作品キイノート (シェイクスピア『リチャード三世』ほか、デフォー『ペスト年代記』ほか、スウィフト『桶物語』など概要)

イギリス文学史年表

月報:河野多恵子、蜷川幸雄、筈見有弘

コメント:シェイクスピア主要作品、さらにロビンソン・クルーソーやガリヴァ旅行記まで一冊にまとまっています。すごい盛りだくさんですね。

 

第3巻 イギリス II

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E・ブロンテ 嵐が丘  永川玲二訳

ディケンズ バーナビー・ラッジ  小池滋訳

ハーディ ダーバヴィル家のテス  井出弘之訳

E・ブロンテ、ディケンズ、ハーディについての解説

文学作品キイノート(C・ブロンテ『ジェイン・エア』、A・ブロンテ『アグネス・グレイ』、ディケンズ『オリヴァー・トゥイスト』ほか、ハーディ『帰郷』ほか概要)

イギリス文学史年表 

月報:飯島耕一、高樹のぶ子、筈見有弘

コメント:箱イラストの横たわる二つの顔をもつ女性は何を意味しているのでしょう。不気味です。また、左側の下にはキジを捕まえる女性もいます。

 

第4巻 イギリス III

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ジェイムズ・ジョイス 若き日の芸術家の肖像  加藤光也訳

ウィンダム・ルイス 愛の報い  中野康司訳

ジューナ・バーンズ 夜の森  河野仲聖訳

D・H・ロレンス 恋する女たち  小川和夫訳

ジョイス、ルイス、バーンズ、ロレンスについての解説  

文学作品キイノート(ジョイス『ユリシーズ』ほか、ルイス『ター』ほか、ロレンス『チャタレー夫人の恋人』ほか概要)

イギリス文学史年表

月報:春山行夫、柳瀬尚紀、井上義夫、筈見有弘

コメント:ジョイスは『若き日の芸術家』が収録されています。『ダブリン市民』のほうがジョイスらしさがあっていいのでは、と思いました。

 

第5巻 イギリスⅣ

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ウィリアム・ゴールディング 蝿の王  平井正穂訳

アラン・シリトー 長距離走者の孤独  河野一郎訳

イーヴリン・ウォー ピンフォールドの試練  吉田健一訳

フラン・オブライエン ドーキー古文書  大沢正佳訳

アイリス・マードック 鐘  丸谷才一訳

ミュリエル・スパーク マンデルバウム・ゲイト  小野寺健訳

イギリス現代短編集 

・ヴィクター・S・プリチェット 聖人  高橋和久訳

・イアン・マンキューアン ポルノグラフィー  富士川義之訳

・カズオ・イシグロ 夕餉  出淵博訳

・ドリス・レッシング アイザック・バベルに敬意を込めて 市川博彬訳

・フランク・オコナー 二人の里子  篠田綾子訳

・ウィリアム・トレヴァー がまんの限界  大熊栄訳

・チヌア・アチュベ タマゴのごくもつ(供物)  土屋哲訳

・ダン・ジェイコブソン リピ・リップマンの話  中川敏訳

・ナディン・ゴーディマー 戦士の抱擁  土屋哲訳

・マーガレット・アットウッド ダンシング・ガール  矢野浩三郎訳

・ルース・P・ジャヴァーラ 娼婦たち  幾野宏訳

・パトリック・ホワイト 五時二十分  越智道雄訳

解説(ゴールディング、シリトー、ウォー、オブライエン、マードック、スパーク、イギリス現代短編集)

文学作品キイノート(ゴールディング『後継者たち』ほか、シリトー『土曜の夜と日曜の朝』ほか、ウォー『一握の塵』、オブライエン『スウィム・トゥー・バーズにて』ほか、マードック『黒衣の王子』ほか、スパーク『死を忘れるな』ほか概要)

イギリス文学史年表

月報:森瑤子、高山宏、筈見有弘

コメント:この巻はイギリス現代文学ということで、今日も話題になるような多くの作家が取り上げられています。カズオ・イシグロやアットウッド、ゴーディマーなど、イギリス本国以外に背景を持つ作家も少なくありません。

 

第6巻 フランス I

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ラ・ファイエット夫人 クレーヴの奥方 川村克己訳

プレヴォ マノン・レスコー 滝田文彦訳

コンスタン  アドルフ  安藤元雄訳

スタンダール  赤と黒  佐藤朔訳

バルザック  谷間の百合  平岡篤頼訳

解説(ラ・ファイエット夫人、プレヴォ、コンスタン、スタンダール、バルザック)

文学作品キイノート(ラ・ファイエット夫人『モンパンシエ公爵の奥方』ほか、プレフォ『隠遁したある貴族の回想と冒険』ほか、コンスタン『赤い手帖』ほか、スタンダール『パルムの僧院』ほか、バルザック『ゴリオ爺さん』ほか概要)

フランス文学史年表

月報:清水邦夫、若桑みどり、筈見有弘

コメント:フランス文学の一冊目。これぞ仏文学という作家たちが並んでいます。

 

第7巻 フランス II

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フロベール  ボヴァリー夫人  菅野昭正訳

ゾラ  居酒屋  清水徹訳

モーパッサン  女の一生  斉藤昌三訳

十九世紀フランス短編集

・メリメ  マテオ・ファルコーネ  冨永明夫訳

      イールのヴィーナス  冨永明夫訳

・ネルヴァル  シルヴィ  入沢康男訳

・ドーデ  アルルの女  滝田文彦訳

      スガンさんの山羊  滝田文彦訳

      最後の授業   滝田文彦訳

・ヴィリエ・ド・リラダン  ヴェラ  菅野昭正訳

              霊的前兆  菅野昭正訳

・モーパッサン  首飾り  小佐井伸二訳

         オルラ  小佐井伸二訳

・ボードレール  悪の華  安藤元雄訳

         禁断詩篇  安藤元雄訳

         新・悪の華  安藤元雄訳

         拾遺詩篇  安藤元雄訳

解説(フロベール、ゾラ、モーパッサン、ボードレール、十九世紀フランス短編集)

文学作品キイノート(フロベール『感情教育』ほか、ゾラ《ルーゴン=マッカール一族》、モーパッサン『ベラミ』ほか、ボードレール『パリの憂鬱』ほか概要)

フランス文学史年表

月報:大庭みな子、吉増剛造、筈見有弘

コメント:『居酒屋』も『ボヴァリー夫人』も文庫本だとボリュームのある作品のはずですが、一冊に収まっています。さらに短編集やボードレールの詩も入っています。すごい一冊です。

 

第8巻 フランス III

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プルースト  スワン家の方へ  鈴木道彦訳

ジッド  贋金つかい  若林真訳

モーリヤック  テレーズ・デスケルー  遠藤周作訳

マルロー  王道  松崎芳隆訳

サン=テグジュペリ  夜間飛行  山崎庸一郎訳

二十世紀フランス短編集

・アポリネール  ヒルデスハイムの薔薇  菅野昭正訳

         オノレ・シュブラックの失踪  菅野昭正訳

・ラルボー  包丁  岩崎力訳

・ラディゲ  ドニーズ  菅野昭正訳

       愛の島  菅野昭正訳

・マルタン・デュ・ガール  アフリカ秘話  渡辺一民訳

・コクトー  マルセーユの幻影  佐藤朔訳

・エーメ  壁を抜ける男  山崎庸一郎訳

解説(プルースト、ジッド、モーリヤック、マルロー、サン=テグジュペリ、二十世紀フランス短編集)

文学作品キイノート(プルースト『失われた時を求めて』ほか、ジッド『背徳者』ほか、モーリヤック『愛の砂漠』ほか、マルロー『人間の条件』ほか、サン=テグジュペリ『南方郵便機』ほか概要)

フランス文学史年表

月報:岸恵子、大岡玲、 筈見有弘

コメント:箱イラストがすばらしいですね。 もちろんサン=テグジュペリの夜間飛行がモチーフでしょう。

第9巻 フランス Ⅳ

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カミュ  異邦人  窪田啓作訳

サルトル  壁  伊吹武彦訳

      水いらず  伊吹武彦訳

ジュネ  泥棒日記  朝吹三吉訳

セリーヌ  なしくずしの死  滝田文彦訳

シモン  ル・パラス  平岡篤頼訳

ロブ=グリエ  ジン  平岡篤頼訳

解説(カミュ、サルトル、ジュネ、セリーヌ、シモン、ロブ=グリエ)

文学作品キイノート(カミュ『ペスト』ほか、サルトル『嘔吐』ほか、ジュネ『花のノートルダム』ほか、セリーヌ『夜の果てへの旅』ほか、シモン『フランドルへの道』ほか、ロブ=グリエ『消しゴム』ほか概要)

フランス文学史年表

月報:中上健次、松浦久輝、筈見有弘

コメント:8巻も20世紀フランス文学でしたが、9巻は20世紀後半の現代フランス文学を収録しています。月報の執筆者もすごいですね。

 

第10巻 ドイツ I

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ゲーテ  若きヴェルテルの悩み  柴田翔

     ファウスト  井上正蔵

ヘルダーリン  ヒュペーリオン  神子博昭訳

ホフマン  ブランビラ王女  種村季弘訳

      砂男  種村季弘訳

      蚤の親方  池内紀訳

アイヒェンドルフ  のらくら者日記  川村二郎訳

グリム兄弟  グリム童話集  池内紀訳

十九世紀ドイツ短編集 

・クライスト  拾い子  中田美喜訳

・ビューヒナー  レンツ  手塚富雄訳

・シュティフター  水晶  須永恒雄訳

・シュトルム  雨姫  藤川芳朗訳

解説(ゲーテ、ヘルダーリン、ホフマン、アイヒェンドルフ、グリム兄弟、十九世紀ドイツ短編集)

文学作品キイノート(ゲーテ『親和力』ほか、ヘルダーリン『エムペドクレス』ほか、ホフマン『悪魔の霊薬』ほか、アイヒェンドルフ『大理石像』ほか、グリム兄弟『ドイツ伝説集』ほか概要)

ドイツ文学史年表

月報:遠山一行、阿部謹也、筈見有弘

コメント:牛、豚、いぬなどのかわいいイラストですが、これはもちろんグリム童話を題材にしているのでしょう。19世紀ドイツ短編ということで、クライスト、ビューヒナーなどの短編が収録されています。一方で、かつてドイツを代表した文豪シラーは入っていません。劇作家としてのシラーは、もうこのころには人気がなくなっていたのでしょうか。(現在は研究者の中でも美学、哲学者としてしか読まれていないように思います。)

第11巻 ドイツ II

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リルケ  マルテの手記  川村二郎訳

ホフマンスタール  影のない女  高橋英夫訳

トーマス・マン  トーニオ・クレーガー  圓子修平訳

         ヴェネツィア客死  圓子修平訳

ヘッセ  車輪の下  井上正蔵

グラス  ブリキの太鼓  高本研一訳

二十世紀ドイツ短編集

シュニッツラー  死人に口無し  岩淵達治訳

ロート  駅長ファルメライアー  渡辺健訳

ノサック  カサンドラ  小栗浩訳

解説(リルケ、ホフマンスタール、トーマス・マン、ヘッセ、グラス)

文学作品キイノート(リルケ『オルフォイスへのソネット』ほか、ホフマンスタール『アンドレアス』ほか、トーマス・マン『魔の山』ほか、ヘッセ『デーミアン』ほか、グラス『犬の年』ほか概要)

ドイツ文学史年表

月報:関根弘、中沢新一、筈見有弘

コメント:イラストはヴェネツィアのゴンドラがモチーフでしょうが、上の尻を出した美男子はだれなのでしょう。この巻は世紀転換期以降のドイツ文学。日本の読者、研究者に人気があるのはだいたいこの時代です。しかし1880年生まれのムージルが次の巻、1927年生まれのグラスがこの巻というのは時代順ではなくなっています。ボリュームの関係で入れ替えたのかも知れません。

 

第12巻 ドイツ III 

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カフカ

  変身  城山良彦訳

  流刑地にて  柏原兵三訳

  田舎医者  城山良彦訳

  断食芸人  城山良彦訳

  巣穴  城山良彦訳

  判決  柏原兵三訳

ムージル  三人の女  川村二郎訳

ゴンブローヴィッチ  フェルディドゥルケ  米川和夫訳

シュルツ  肉桂色の店  工藤幸雄訳

クンデラ  存在の耐えられない軽さ  千野栄一訳

モラヴィア  侮蔑  池田廉訳

パヴェーゼ 短編集  河島英昭訳

解説( カフカ、ムージル、ゴンブローヴィッチ、シュルツ、クンデラ、モラヴィア、パヴェーゼ)

文学作品キイノート(カフカ『アメリカ』ほか、ムージル『特性のない男』ほか、ゴンブローヴィッチ『トランス・アトランティック』ほか、シュルツ『クレシプドラ・サナトリウム』ほか、クンデラ『微笑を誘う愛の物語』ほか、モラヴィア『無関心な人々』ほか、パヴェーゼ『美しい夏』三部作ほか概要)

ドイツ文学史年表

東欧文学史年表

イタリア文学史年表

月報:島田雅彦、木村浩、筈見有弘

コメント:ドイツ文学の三冊目は、カフカ、ムージルの他はポーランド、チェコ、イタリアの現代作家を取り上げています。集英社としては、『世界の文学』に翻訳がある、ヘルマン・ブロッホも入れるべきだったのでは。箱の絵は、中央にまっくろな何かが横たわっていて、男女が怖がるような身振りを見せています。逃げさる男たち、おびえる少女、虫の脚も見えるし、カフカの『変身』がモチーフだとすぐ分かります。なお、クンデラの『存在の耐えられない軽さ』はこの全集版が初訳で、その後単行本、文庫化されて90年代の大ヒット作となったのはちょうど私が学生時代だったのでよく覚えています。

 

第13巻 ロシア I

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プーシキン  エヴゲーニイ・オネーギン  木村浩訳

ゴーゴリ 死せる魂  川崎隆司訳

     鼻  原卓也訳

     外套  原卓也訳

レールモントフ  現代の英雄  江川卓訳

ツルゲーネフ  初恋  工藤精一郎訳

レスコフ  ムツェンスク郡のマクベス夫人  中村喜和訳

ガルシン  赤い花  原卓也訳

      四日間  原卓也訳

チェーホフ  戯曲集  原卓也訳

       かもめ  

       桜の園  

チェーホフ  短編集  原卓也訳

       六号室

       黒衣の僧

       ケースに入った男

       すぐり

       恋について

       イオーヌイチ

       往診時の出来事

       可愛い女

       犬を連れた奥さん

       いいなずけ

解説(プーシキン、ゴーゴリ、レールモントフ、ツルゲーネフ、レスコフ、ガルシン、チェーホフ)

文学作品キイノート(プーシキン『大尉の娘』ほか、ゴーゴリ『狂人日記』ほか、レールモントフ『悪魔』ほか、ツルゲーネフ『父と子』ほか、レスコフ『僧院の人々』ほか、ガルシン『信号』ほか、チェーホフ『ワーニャ伯父さん』ほか概要)

ロシア文学史年表

月報:畑山博、佐藤陽子、筈見有弘

コメント:この巻はおもに短編・中編小説が多数収録されています。とはいえ、『死せる魂』などは、岩波文庫でも3巻本です。口絵の引っ立てられる女性の絵は、

 

第14巻 ロシア II

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ドストエフスキー  罪と罰  小泉猛訳

トルストイ  アンナ・カレーニナ  工藤精一郎訳

解説(ドストエフスキー、トルストイ)

文学作品キイノート(ドストエフスキー『白痴』ほか、トルストイ『戦争と平和』ほか概要)

ロシア文学史年表

月報:辻邦生、原尞、筈見有弘

コメント:この巻は2作品しか入っていません。しかし13巻よりも明らかに分厚くて重いです。ドストエフスキー、トルストイはともに代表作がいずれも長編だからしかたないのでしょう。せっかくの全集なのに、『白夜』や『地下室の手記』のような短編・中編ではもったいない気がしますしね。

 

第15巻 ロシア III

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ゴーリキー  イタリア物語  工藤幸雄・長與容訳

ザミャーチン  われら  小笠原豊樹訳

ブルガーコフ  巨匠とマルガリータ  水野忠夫訳

プラトーノフ  ジャン  原卓也訳

ソルジェニーツィン  イワン・デニーソヴィチの一日  江川卓訳

二十世紀ロシア短編集

・アンドレーエフ  霧の中  原卓也訳

・ザミャーチン  洪水  小笠原豊樹訳

・ブーニン  日射病  小泉猛訳

・ショーロホフ  ドン物語(抄)  小野理子訳

・レオーノフ  ブルイガ  米川正夫訳

・エレンブルグ  農場主のパイプ  小笠原豊樹訳

・プラトーノフ  疑惑を抱いたマカール  安岡治子訳

二十世紀ロシア詩集

・ブローク  美しの淑女(抄)  小平武訳

・フレーブニコフ  鶴/ひもじい  小笠原豊樹訳

・アフマートワ  ヒーローのいない叙事詩  江川卓訳

・ツヴェターエワ  愛のしるし/狼よ/庭/望郷  工藤精一郎訳

・マンデリシュターム  石(抄)/TRISTIA/無名兵士の詩  中平耀訳

・パステルナーク  わが妹人生ー1917年夏(抄)  工藤正広訳

解説

文学作品キイノート(ゴーリキー『どん底』ほか、ザミャーチン『島の人々』ほか、ブルガーコフ『犬の心臓』ほか、プラトーノフ『土台穴』ほか、ソルジェニーツィン『ガン病棟』ほか概要)

ロシア文学史年表

月報:三木卓、沼野充義、筈見有弘

コメント:タイトルの少ない前巻に比べて、盛りだくさんの巻となっています。ゴーリキーの『イタリア物語』は初めて知った作品。ザミャーチンやソルジェニーツィンは今日も人気のある作家ですね。後者は特に好きで、『イワン・デニーソヴィチの一日』はコンビニ夜勤の合間に読んだ思い出ある作品です。

 

第16巻 アメリカ I

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メルヴィル  白鯨  幾野宏訳

エドガー・アラン・ポー 短編集 

    ウィリアム・ウィルソン

    黄金虫

    盗まれた手紙

ホーソーン  緋文字  小津次郎訳

マーク・トウェイン  ハックルベリー・フィンの冒険  渡辺利雄訳

ヘンリー・ジェイムズ  オウエン・ウィングレイヴの悲劇  林節雄訳

            密林の獣  大原千代子訳

解説

文学作品キイノート(メルヴィル『タイピー』ほか、ポー『ナンタケット生まれのアーサー・ゴードン・ピムの冒険』ほか、ホーソーン『七破風の屋敷』ほか、マーク・トウェイン『無邪気な外遊記』ほか、ヘンリー・ジェイムズ『鳩の翼』ほか概要)

アメリカ文学史年表

月報:青野聰、久間十義、筈見有弘

コメント:トルストイと同様、こんな長い作品を収録して大丈夫なのかと思いましたが、『白鯨』の長さですら、この巻の四割程度です。いずれもアメリカ文学を代表する人気のある作家ばかりです。ポーの作品はどれも短いのだし、もっと多く収録してもいいのに、と思ってしまいます。

 

第17巻 アメリカ II

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フィッツジェラルド  偉大なるギャッツビー  野崎孝訳

フォークナー  アブサロム、アブサロム  篠田一士訳

ヘミングウェイ  日はまた昇る  佐伯彰一訳

ヘンリー・ミラー  南回帰線  幾野宏訳

フィリップ・ロス  狂信者イーライ  宮本陽吉訳

アメリカ短編集

・S・アンダーソン  つかなかった嘘  金関寿夫訳

・ヘミングウェイ  殺し屋達  沼津洽治訳

・ヘミングウェイ  白い象に似た山々  沼津洽治訳

・バーナード・マラマッド  銀の冠  小島信夫訳

・ウィリアム・ゴーイエン  白い雄鶏  石田安弘訳

・ポール・ボールズ  遠い国の出来事  杉浦銀策訳

・ジョン・ホークス  旅人  志村正雄訳

・ガイ・ダヴェンポート  リチャード・ニクソン 魔弾の射手のラグタイム 富士川義之訳

・トルーマン・カポーティ  誕生日の子供たち  楢崎寛訳

・シンシア・オジック  空中浮揚  井上謙治訳

・ドナルド・バーセルミ  戦争の絵物語  邦高忠二訳

・ボビー・アン・メイソン  シャイロー  千石英世訳

・L・S・シュウォーツ  激闘  福田立明訳

解説

文学作品キイノート(フィッツジェラルド『夜はやさし』ほか、フォークナー『響きと怒り』ほか、ヘミングウェイ『武器よさらば』ほか、ヘンリー・ミラー『北回帰線』ほか、フィリップ・ロス『さようなら コロンバス』ほか概要)

アメリカ文学史年表

月報:池澤夏樹、沢木耕太郎、筈見有弘

コメント:この巻は、アメリカ文学というとイメージするような有名な作家作品の長編から短編までもりだくさんです。長編小説については、フィッツジェラルドやフォークナーなどだいたい読んでいますが、フィリップ・ロスの作品は初めて知りました。

 

 

第18巻 アメリカ III

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ベロー  その日をつかめ  宮本陽吉訳

ボールドウィン  ビール・ストリートに口あらば  沼津洽治訳

バース  酔いどれ草の仲買人  野崎孝訳

解説

文学作品キイノート(ベロー『オーギー・マーチの冒険』ほか、ボールドウィン『ジョヴァンニの部屋』ほか、バース『フローティング・オペラ』ほか概要)

アメリカ文学史年表

月報:高橋源一郎、常盤新平、筈見有弘

コメント:ベロー、ボールドウィンは名前は知っているけど未読でした。この巻の大部分を占める(ものすごく長いです!)バースの作品ですが、恥ずかしながら初めて知りました。

 

第19巻 ラテンアメリカ

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ボルヘス  伝奇集  篠田一士訳

      エル・アレフ  篠田一士訳

      砂の本  篠田一士訳

アストゥリアス  大統領閣下  内田吉彦訳

ドノソ  ブルジョア社会  木村榮一訳

プイグ  赤い唇  野谷文昭訳

ガルシア=マルケス  族長の秋  鼓直訳

ラテンアメリカ短編集

・M・バルガス=リョサ  ある虐殺の真相  桑名一博訳

・А・ウスラル=ピエトリ  太鼓に踊る  荻内勝之訳

・シルビーナ・オカンポ  イレーネの自伝  安藤哲行訳

・M・L・ボンバル  樹  土岐恒二訳

・А・ロア=バストス  裏切り者との出会い  吉田秀太郎訳

・ファン・ルルフォ  ルビーナ  桑名一博訳

・マリオ・ベネデッティ  モーツァルトを聴く  内田吉彦訳

・ホルヘ・エドワーズ  痩せるための規定食  高見英一訳

・А・O・アタナシウ  時間  野谷文昭訳

・А・ブライス=エチェニケ  パラカスでジミーと  野谷文昭訳

・ホセ・レブエルタス  顕現祭の夜  木村榮一訳

・ムリロ・ルビアン  魔術師顛末記  武井ナヲエ訳

・ムリロ・ルビアン  ゴドフレードの三つの名前  武井ナヲエ訳

解説

文学作品キイノート(ボルヘス『伝奇集』ほか、アストゥリアス《バナナ小説三部作》ほか、ドノソ『夜のみだらな鳥』ほか、プイグ『蜘蛛女のキス』ほか、ガルシア=マルケス『百年の孤独』ほか概要)

ラテンアメリカ文学史年表

月報:四方田犬彦、黒沼ユリ子、筈見有弘

コメント:私にとってはぜんぜん身近でないラテンアメリカ文学ですが、この全集では一冊にまとめられ、さまざま作品が読めます。これはたいへんありがたい一冊です。

 

第20巻 中国 アジア・アフリカ

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朝鮮短編集       安宇植訳

・李孝石  薔薇が病む  
・金東仁  明文

・崔曙海  脱出記

・玄鎮健  火

・羅稲香  水車

・蔡万植  レディーメイド人生

・兪鎮午  金講師とT教授

魯迅  狂人日記  駒田信二訳

    孔乙己

    阿Q正伝

    藤野先生

    野草

巴金  憩園  立間祥介訳

    寒い夜

茅盾  子夜  松井博光訳

クッツェー  夷狄を待ちながら  土岐恒二訳

ナーラーヤン  マルグディに来た虎  神山榮眞訳

イドリース  黒い警官  奴田原睦明訳

       肉の家

マハフーズ  花婿  高野晶弘訳

       手品師が皿を奪った

解説

文学作品キイノート(巴金『家』ほか、茅盾『蝕』三部作ほか、クッツェー『ダスクランド』ほか、ナーラーヤン『マルグディの日々』ほか、イドリース『禁忌(ハラーム)』ほか概要)

中国文学史年表

朝鮮文学史年表

アフリカ文学史年表

月報:立松和平、福島富士男、筈見有弘

コメント:最終巻は、東西アジア、アフリカの現代文学集です。これまたぜんぜん詳しくない分野ですが、中国の魯迅、巴金などは文庫にもなっているし、クッツェーは現在非常に人気のある作家ですね。ほかにインドのナーラーヤン、エジプトのイドリース、マハフーズらもいます。初めて知りましたが、マハフーズは1988年にアラブ世界初のノーベル文学賞を受賞していて、この全集が出た当時は非常に話題になっていたのでしょう。

 

実際のところ、買って10日くらいたちますが、毎日少しずつ箱から出しては眺めているばかりで、なかなか作品を読めていません。これでは置き物になるだけではと少し心配ですが、好きなところからじっくり読みたいと思います。

昨年増税前に駆け込み購入ということで、国書刊行会の「ドイツロマン派全集」をまとめ買いしましたが、やはり全集っていいものですね。私はあまり物としての本へのこだわりはない(カバーなどは正直どうでもいいし、線を引いたり書き込んだりもします)ほうですが、この全集はひさしぶりに所有欲を満たせる本だと感じています。

 

おまけ:新刊案内がおもしろい

ありがたいことに月報とともに、当時の新刊案内がすべての巻について入っています。

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当時どんな作家がどんな本を出していたのか、本はいくらぐらいだったのかなど興味深く読みました。それから、集英社といえば、当時はイミダスという毎年ごとに刊行されている百科事典がありました。中学生だった私は、自分で近所の書店に買いに行って、端から端までじっくり読んでいました。ああいう本が各社から出ていた(朝日新聞の『知恵蔵』、自由国民社の『現代用語の基礎知識』など)のに、いつの間にか消えてしまいました。調べたら2006年以後休刊となっているそうです。まあ、いまやウィキペディアでだいたい調べられますから仕方がないでしょう。

 

 

*1:あとで気付いたのですが、もう一つ同じ集英社から『ポケットマスターピースシリーズ』というのが2015年〜16年に出ていました。カフカ、ゲーテ、バルザック、ポーなど欧米の名作が文庫サイズで全13巻。知人が翻訳していることもあり、何冊か買いました。