ドイツ語教員が教えながら学ぶ日々

熊谷哲哉 ドイツ語教育、ドイツ文学、文学じゃないけどおもしろいものなど。

オンライン講義で紹介した本

動画による授業は、本や資料を紹介しやすい

これまでカメラを何台も買い足したり、撮影方法をあれこれ試みたり、背景に鹿やウォンバットを走らせたりといった、授業動画についての記事を何回か書いてきました。

schlossbaerental.hatenablog.com

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今回は、これまでのような技術的な話ではなく、授業の内容についてもう少し紹介します。

オンライン授業を始めるにあたって、これまでの対面授業に比べてどんないいところがあるかと考えてみて、すぐに思いついたのが、資料や本を紹介しやすいという点でした。

もちろん、これまでの対面授業でも、文献を持って行ったり、学生に見せたりといったことはできます。スライドに写真を載せたり、あるいは現物を回してみてもらったり(これは私たちの分野だと、研究会などではよくやりますね)するといった方法が考えつきます。しかし、ただでさえあれこれ荷物が多いのに、教室まで本を何冊も持って行ったりするのは骨が折れるし、わざわざ専門分野の違う学生たちに、彼らが関心を持たなそうな本を紹介してもしょうがなかろうと思っていたのでした。(どうせ関心のなさそうな反応しか返ってこないだろうと予想していました)。

しかし、今年は関学大のドイツ近代文学講義を担当しているし、経営学部の講義科目でも、せっかく自宅書斎や研究室で動画を撮影しているのだし、いろいろ身の回りにある本をつかって授業のネタにするのも楽しかろうと考えました。

 

読んだ本の紹介

ドイツ近代文学講義の第1回目の課題として、春休みに読んだ本を紹介してもらいました。学生たちがいろいろな本を取り上げていて非常に興味深かったので、私自身もこの半年くらいで新たに読んだ本をいくつか紹介しました。

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クロスビー:『史上最悪のインフルエンザ』

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フランクル:『夜と霧』。仕事上の必要で改めて読みました。

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『ドイツロマン派全集アイヒェンドルフ』。たぶん学部時代に買ったはずですが、読みにくい本(印刷が凝ってて文字が見づらい)なので、長らく放置していました。

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コルドン:『ベルリン1919赤い水兵』。続編の『ベルリン1933壁を背にして』も買いました。

このときは、たしか自撮りを始めたばかりだったので、本棚が写っているのだし、自宅にあるいろいろな本を紹介してやろうと思ったのでした。こうやって本を紹介しながら授業をするのも楽しいのではないかと思い、その後は趣味で読んだ本、他の講義で必要があって読んだ本などを動画の冒頭で紹介していきました。

 

f:id:doukana:20200708194314p:plainリチャード・エヴァンズ:『力の追求(上)ヨーロッパ史1815~1914』鈍器のような本です。

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サイモン・ジェンキンス:『ヨーロッパ全史』。ギリシア・ローマ時代から、2010年代まで全部カバーする、いってみれば便利ズームレンズみたいな本です。

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鴋澤歩:『鉄道のドイツ史』。19世紀後半というとやはり鉄道の普及というのが社会・経済・文化に絶大な影響力をもっていました。

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ビューヒナー:『ヴォイツェック』。強迫観念にとらわれた素朴な男ヴォイツェックが、妻を手に掛けるという非常に短く、凝縮された劇作品。授業のために久しぶりに読み直し、すごく難しいと改めて思いました。

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Christine Wunnicke: Der Fuchs und Dr. Shimamura.なんどかこのブログでも取り上げていますが、明治期日本の実在の医師、島邨俊一を主人公にした歴史フィクションです。いつか翻訳したいなあと思いながらもう3年くらい過ぎてしまいました。

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ヴァルテール:『西欧言語の歴史』。言語の歴史についてあまり勉強していなかったと思い購入しました。言語学はあまり詳しくない私でも楽しく読めます。各言語ごとの豆知識的エピソードが豊富です。

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Leemannほか:『Grüezi, Moin, Servus! wie wir wo sprechen』。現地の書店で買った本。いろいろな物について、ドイツ語圏各地でどのように言い方が違うのかを紹介しています。『ふらんす』に書いた記事のネタ元です。

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キットラー:『グラモフォン ・フィルム・タイプライター』。学部4年のときに、立ち読みして衝撃を受けて、かなり高かったにもかかわらず、すぐに買って読んだ本です。こういう研究がしたいと憧れ、現在に至るまで刺激を受け続けています。

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アルテミドロス:『夢判断の書』。フロイトの『夢解釈』とはだいぶ方向性が違うものの、夢の百科事典としてそれなりに使えるのではないかと思います。頭を手に持っている夢とか、耳から麦が生える夢など、なかなか見ない夢の意味が解説されています。

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トーマス・メレ:『背後の世界』。関学では、シュレーバーを講義のテーマにしていました。最後の回では、現代文学におけるシュレーバー的なものとしてこの小説を紹介しました。

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そして、最後の一冊は、私自身の著書です。講義の元ネタはこれ、ということで簡単に内容を説明しました。


以上のように、関学のドイツ近代文学講義を中心に、授業動画で紹介した本をまとめました。関学の講義はもう明日が最終回ですが、本務校はまだあと4回、ちょうど一ヶ月もあります。一コマ負担が減るので、よりいっそう授業動画を充実させていければと思います。