ドイツ語教員が教えながら学ぶ日々

熊谷哲哉 ドイツ語教育、ドイツ文学、文学じゃないけどおもしろいものなど。

カール・デュ・プレルの本

科研費交付内定!

四月になりました。春休み中は、旅行に行ったり、研究会に出たり、野球を見に行ったりで、それなりに充実した時間を過ごしていたものの、あまり研究は進みませんでした。

四月に入ると、まずは科研費申請の結果が出ます。どうせ不採択だろうと思って、大学に出勤しても、科研費のページは見ないようにしていました。すると、お昼頃職場の補助金事務課からメールで、採用内定の連絡をもらいました。じつは昨年の秋は、学会発表の準備に追われていて、申請書を書く時間はほとんどありませんでした。それで一昨年の申請書をほんの少し直しただけで、提出していたのでした。まさかそれで採択になるとは思ってなかったので、驚きました。

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科研費電子申請のページで確認したところ、ちゃんと自分の研究課題が出てきました。これから研究費の交付申請手続きをします。

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上の画像にあるように、ここ最近取り組んできた、世紀転換期ドイツの心霊主義(カール・デュ・プレルとシュレンク=ノッツィングを中心として)について、研究計画を書きました。無事採択されたので、これからしっかり研究に取り組みます。

 

カール・デュ・プレルの本がとどく

春休み中に注文していた、カール・デュ・プレルの小説『Das Kreuz am Ferner(氷河の十字架)』が届きました。ドイツの古書店に頼んだのですが、10日くらいしかかかっていません。(このタイミングで注文していたのは、参加している別の科研プロジェクトで、夏休みにデュ・プレルとドイツ心霊主義について発表することになったからです)

ドイツの心霊主義者・哲学者として活躍したカール・デュ・プレル(1839−1899)は、生涯に10冊以上の著作を残しましたが、彼の唯一の小説が、この本です。デュ・プレルについては、近年ドイツや日本でも少しずつ知られ、研究も進んできましたが、非常にマイナーな人物です。そのため、古書もたいへん安価に売られていて、院生時代から金銭的な負担を感じるほどでもなく、100年前の古書を買い集めることができました。

10年以上前、デュ・プレルに着目した私は、古書数冊を手にいれて読み始めました。そのときにもこのDas Kreuz am Fernerも購入していました。しかし、本の状態がかなり悪いため、自分で修理をしたり、当時バイトしていた京大総人図書館の職員さんに修復をお願いしたりしました。職員さんは、ガーゼや和紙、和糊で直してくれました(化学合成された接着剤やテープは良くないらしいので)が、表紙が剥がれかかっていて、やはり持ち運んだり、ひんぱんにページをめくることは危険そうでした。そのため、10年経ったいまでも、最後まで本を読み通してはいませんでした。*1

デュ・プレルの他の著作は、多くがコピー版として、あらたに刊行されています。

f:id:doukana:20170403185259j:plainコピー本。

ドイツの本で多く出回っているコピー版は、非常に安価なので助かりますが、中身は出版された当時そのままです(当然ながら)。

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紙は新しいけど、印刷は元の本のままです。

しかし、Kreuz am Fernerだけは、コピー本が見つからなかったので、古書サイトでさがして、一番状態が良さそうなものということで、1928年の版を購入しました。

 

美しい古本を眺める

さて、私がもっている古書を見比べて見ましょう。

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はじめに買ったのが、彼の代表作『Entwicklungsgeschichte des Weltalls 宇宙の発達史』です。この本は、エルンスト・ヘッケルに影響されて、自然科学に関してはアマチュアだったデュ・プレルが、最新の知識とファンタジーとで、宇宙の歴史、そしてこれからの展望を書いた本です。火星や他の惑星の居住可能性について書かれていたり、地球に届く光には、その光源で起きた出来事が紙芝居的に写し出されている、という面白い考えもあります。

買った時から背表紙の皮が痛んでいたので、京大生協でもらったブックカバーをかけていました。しかしなぜ、筆ペンでタイトルを書いているのでしょう。1882年の本ですが、本文の字は現在と同じ書体です。

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そして、デュ・プレルが詩人における創作と無意識について書いているのが、こちらの『Psychologie der Lyrik 抒情詩の心理学』(1880年)です。この本は、フロイトの夢研究と比較して読むと面白いです。10年くらい前にそのような論文を書きました。これもまた、古い本ですが、装丁はしっかりしています。

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また、レアだったので値段は張りました(たしか150ユーロくらい)が、状態が非常に悪いのが、こちらの本『Die Magie als Naturwissenschaft 自然科学としての魔術』(1912年)です。もともと2冊にわけて刊行された本を、一冊にくっつけて背表紙を付け直したようです。上巻と下巻で紙の傷み具合が全く違っています。

それから、以前買ったもの(左)と今回届いた(右)Kreuz am Fernerです。

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以前買った本は、1905年のもの、今回買ったのは1928年の版です。デュ・プレルがこの作品を発表したのは、1890年ですから、非常に長いことベストセラーだったことがわかります。去年訪れたマールバッハの文書館にも、この本について、デュ・プレルとコッタ出版、彼の死後には遺族と出版社の書簡が残っていました。

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表紙がぶらぶらしてるので、こうやって本を開くと怖い。

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フルダのエルンスト・マイアーという人の蔵書票が押してあります。どんな人だったのでしょう。

古い本のほうは、買った時すでに表紙がとれかかっていたので、図書館に持って行って、和紙とガーゼで修復してもらいましたが、今も危険な状態です。

新しい本は、もう90年も前のものなのに、表紙・背表紙は非常にきれいです。装丁も凝っていて、美しいですね。

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当然同じ出版社から出ている同じ本なので、ページを開くと同じです。フラクトゥーアなので、ちょっと読みづらいです。

 

この作品については、先行研究である程度わかってはいるものの、自分では最後まで読み通していないので、これから夏休みの研究発表までに、ちゃんと読んでおくつもりです。

 

*1:トーリーですが、アルプス近くの美しい町で、父の遺産である心霊主義についての文献を研究する青年が、村の娘と知り合い恋に落ちるが、娘は不慮の事故で亡くなる。落胆した青年は心霊主義の知をつかって、彼女そしてふたりの間の子供と巡り合おうとする、というような話です。なにぶん500ページのうち100ページ程度しか読んでいないのでよくわかりません。