ドイツ語教員が教えながら学ぶ日々

熊谷哲哉 ドイツ語教育、ドイツ文学、文学じゃないけどおもしろいものなど。

ドイツ語教科書の舞台はどこなのか?

新しい学期、新しいドイツ語教科書

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新学期が始まりました。今年も新しい教科書で授業が始まります。

毎年秋から新学期ごろまで、教員のデスクや本棚には、教科書が山のように積み上がります。

自分の授業で使う教科書も数種類あるし、同学年でも学部ごとに違う本を使ったり、毎年教科書を変えたりしていると、それだけでも年間5冊くらいは使うことになります。

私の授業で今年採用しているのは以下の教科書です。

ドイツ語総合1・2(1年生向け、週1回の授業)

ドイツ語アルファ

ドイツ語アルファ

 

 

ドイツ語総合3・4(2年生以上向け、週1回・文法読解系の授業)

Vier Jahreszeiten―4ステップドイツ語

Vier Jahreszeiten―4ステップドイツ語

 

 

ドイツ語コミュニケーション1・2(2年生以上向け、週1回・作文会話系の授業)

 

ドイツ語+α コミュニケーション

ドイツ語+α コミュニケーション

  • 作者: 田原憲和,飛鳥井雅友,井尻樂,ジャクリーンポルスト
  • 出版社/メーカー: 郁文堂
  • 発売日: 2018/04/01
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以前使っていたお気に入りの教材(部分的にワークなどを使う)や採用していないけど、ネタ本(説明、ワーク、問題練習などを部分的にコピー)にしている本なども含めると、授業で使う教科書は全部で10冊くらいになってしまいます。

このうえ、新刊の見本が毎年5社くらいから各5〜10冊とどくので、毎年冬から春ごろは教科書が自宅にも研究室にも溢れることになります。

膨大の見本の中から取捨選択して、(本学では11月末ごろに)自分で使う教科書を決定し、そのほかに使えそうな本を手元に残して、不要なサンプルは処分します。

 

新刊書は毎年たくさん出るが、使いたい本はなかなか見つからない。

毎年こんなに新刊書が必要だろうか?似たような本ばかり出ているのではないかと思わないではないし、そういう意見もよく耳にします。とはいえ、こんな本があればいいのに、という要望はあるし、毎年いい本が出たなあと感心することも多くあります。

これから出て欲しい本、あるいは自分で書くならこんな教科書がいいのに、という要素をいくつか挙げてみます。

1)週1コマ授業に対応した教材

私の大学は週1コマ、たいていの学生は1年次のみ履修という形式なので、通常の週2コマを前提とした教材や、2年間学習することを前提とした教材だと量が多すぎたり、レベルが高すぎるといったことがあります。

ドイツ語総合1・2で使っている『ドイツ語アルファ』は、非常にバランスがよくて使いやすい教科書ですが、週2コマ以上履修する学生を対象にしているらしく、かなり高度な内容が含まれていて、そのまま全てを教えるわけにはいかないと思っています。

2)中堅大学での授業にちょうどいい難易度の教材

『ドイツ語アルファ』は早稲田大学、『ドイツ語+アルファコミュニケーション』は立命館大学の先生が書かれた教科書です。そのため、やはり難易度が高く、量も多いです。

見本誌のなかには、あまりレベルが高くない大学や、本学のように週1コマ授業のための本もあります。しかし、学生の低学力に合わせた優しすぎる内容は、学生たちも退屈してしまうし、教える側の士気も下がり兼ねません。

英語が得意で学習意欲がある学生、週2コマ2年間履修する学生以外の、そこそこのレベルの学生に向けた週1コマ授業でも使いやすい教科書があればと思います。

3)アクティブラーニングあるいは座学どちらでも授業がしやすい教材

毎年本学の場合は、専任教員が意見を出し合って教科書を選びます。本学の場合は語学センターのような形態ではなく、各学部に分属しているので、基本的に自分がいる学部の学生にあった教科書を選ぼうとします。学部ごとに、学生のカラーは大きく異なっています。外交的でグループワークなどが得意な学生が多かったり、あるいは大人しくて知らないクラスメイトと話したがらない学生ばかりの学部もあります。

また、教員の教え方もいろいろだし、本学ではとくに「初級文法を最後まで終えること」などといったノルマはないので、進度や教え方は教員の裁量に任せられています。座学、アクティブラーニングどちらにも対応できる教材でないと、先生方から不満の声が上がってしまいます。

むりに先進的な教材を選んでしまうと、あとで後悔します↓

schlossbaerental.hatenablog.com

 

第二外国語の教科書といえば、定番は現地人との出会いや現地での生活

さて、今日の本題ですが、大学で使うドイツ語教材といえば、だいたい内容的な傾向は似ています。よくあるのが、日本人学生がドイツに行き、ベルリンやミュンヘンの街に暮らして、現地の大学生や先生と出会い、観光や学生生活を送るというストーリーです。

出会い、買い物、乗り物での移動、夏休み、クリスマス、帰国などの場面ごとに文法事項を学べる会話文がついているというのが定番です。

なぜ、ドイツへの留学や旅行のストーリー仕立てになっているのかといえば、やはり会話とりわけ旅行会話を学びたいという学生側の要望があるからでしょう。旅行に役立つ会話から、初級文法を教えていくというのが、語学の授業では一般的な形になっています。

また舞台になる地域を設定するのは、現地の観光地や名物料理などを通じて、ドイツ語圏の文化、とりわけ地域的な差異や多様性を知ってほしいという意図も含まれています。

今でもよく覚えていますが、私も学部1年生のドイツ語で使っていたのも、『それいけ明子』という日本人女子学生がドイツに行って友達ができたり、いろんな場所に出かけたりするという教科書でした。

もちろんどの教科書でも、必ず日本人とドイツ人の交流が描かれるのかといえばそういうわけではありません。登場人物などは決まっておらず、ひたすら例文で文法事項を学ぶという教科書も割合としては半分くらいはあるでしょう。

また、特定の場所を定めずに、ドイツの名所・名物を紹介する教科書や、童話などで初級文法が学べる教科書などもあります。私が昨年使っていたのは、ドイツで親しまれているキャラクターを紹介する本でした。

Wir kommen aus Deutschland―ドイツから来たよ!

Wir kommen aus Deutschland―ドイツから来たよ!

 

 神戸大の1年生の授業でしたが、文章がけっこう難しくて、学生たちは苦労したと思います。私にとっては、ザントマンやザラマンダーなど、おなじみのキャラについて詳しく知ることができ、楽しく勉強になりました。

 

教科書の主人公はどの街に滞在するのか?

教科書の会話文では、さまざまな街が舞台になっています。代表的な教科書をあげながら、どの街がよく取り上げられるのかをみてみましょう。

やはり人気はベルリン

 

ベルリンに夢中―DVD付

ベルリンに夢中―DVD付

 

4年前に理工学部で使用した教科書です。やや使いにくく不評でした。

 

パノラマ初級ドイツ語ゼミナール

パノラマ初級ドイツ語ゼミナール

 

 神戸大でも近畿大でも使っていた定番の教科書です。文法書よりの内容ですが、会話文ではベルリンの壁なども出てきます。

 他にもいくつかの教科書がベルリンを舞台にしていました。

昔から多いミュンヘン

近畿大のコミュニケーション1で4年間使っていたのがこの教科書です。 

ドイツ語の時間<ときめきミュンヘン>コミュニカティブ版

ドイツ語の時間<ときめきミュンヘン>コミュニカティブ版

 

ミュンヘンの映像などDVD教材がついていたそうですが、私が使っている教室の設備が悪く、ほとんど使用しませんでした。代わりに自分で撮ってきた写真や動画をPCで見せました。

 

ミュンヒェンに夢中

ミュンヒェンに夢中

 

 ヴァイスヴルスト、ビール祭りなどの名物や、バイエルン州立図書館、BMW博物館など私も行った観光地なども取り上げられています。写真がきれいです。

 

ハロー・ミュンヒェン・ノイ

ハロー・ミュンヒェン・ノイ

 

私は使ったことはありませんが、このシリーズは非常に有名です。 

留学生に人気のハイデルベルク

小さな街ですが、古くから大学があり、留学先として(もちろん観光地としても)人気なのがハイデルベルクです。私がかつて使っていた教科書はハイデルベルクが舞台でした。

ウニ・プラッツ―大学広場

ウニ・プラッツ―大学広場

 

 京大の授業で2年ほど使いました。マインツライン川地域への遠足の話が印象的だったので、後日自分でもう一度教科書に出てきた場所に行ってみました。

 

やや地味だけど、いい街、ライプツィヒ

旧東側の街を舞台にした教科書はほとんどないのですが、今年の授業で使う教科書はライプツィヒへの留学生が出てきます。

 

ドイツ語+α コミュニケーション

ドイツ語+α コミュニケーション

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ウィーンもときどきある 

ウィーンを舞台にした本は、他にもあったような気がしますが、とりあえず一冊見つけました。やはりウィーン=音楽というイメージが強いですね。音大などの授業で使われているのでしょう。

 

ようこそヴィーンへ!(解答なし)

ようこそヴィーンへ!(解答なし)

 

 

ビジネスの街だけど、留学先としてもおすすめのフランクフルト

 

初級ドイツ語フランクフルト四重奏

初級ドイツ語フランクフルト四重奏

 

日本からの直行便がつくところですが、観光地としてはそれほどでもなく、ビジネスの街として知られるのがフランクフルトです。しかし、大学があるのは非常にきれいな住宅街で、留学するには良さそうな街です。

地方都市も教科書の舞台に:ヴィッテンベルク

非常に珍しいのがこの教科書です。ベルリン、フランクフルトなどの大都市ではなく、一応有名な街ですが、ヴィッテンベルクのような地方都市が出てくると、ちょっと驚きます。著者の先生の出身大学あるいは勤務校の提携先なのかもしれません。 

 

ヴィッテンベルクでドイツ語・文法

ヴィッテンベルクでドイツ語・文法

 
日本にドイツ人が来るという設定も

数としては多くはありませんが、日本に来た留学生とドイツ語で話す、という設定の教科書もあります。

冒頭に挙げた『ドイツ語アルファ』は東京が舞台です。

 

ヴェスト 初級ドイツ語クラス

ヴェスト 初級ドイツ語クラス

 

また、こちらの本は、京大出身の著者たちによって書かれ、関西(主に京都)が舞台となっています。

 

このへんまだなさそうなので今後の開拓が待たれる

ドイツ北部:デュッセルドルフ、ケルン、ハンブルクなどは旅行や留学先としても人気ですが、あまり教科書には出てきません。

オーストリア:ウィーン以外のオーストリアの街もあまり教科書には登場しません。言語や文化の多様性の話で取り上げても面白そうです。

旧東ドイツ:今の所、ライプツィヒ以外は出てきません。ドレスデンは音大もあるし、観光客にも人気です。 ドレスデンを舞台にした本、ありました!

スイス:やはり多言語地域なので、初級ドイツ語の教科書には登場させにくいのかもしれませんが、ベルンやチューリヒは大学の街なので、教科書に出しても面白いと思います。

 

追記:2018年4月10日 

こちらの本がドレスデンを舞台にしています。以前、見本誌で見て、ドレスデンか、ほぉーっと驚いたのですが、使う機会がなく忘れていました。

ダンケ・シェーン、ドレスデン! - 白水社

 

ドイツ語教科書の特徴としての舞台の多様性

フランス語を以前教えていた妻と、教科書の見本誌を見比べたことがありました。フランス語教科書の場合、ほとんどは日本人の学生(たいていは女性)がパリに留学するというストーリーになっているそうです。ドイツ語のように、首都以外の都市が舞台になることは考えにくいといいます。

今回は、以上のように、たくさんの教科書を挙げて、どの街が舞台になっているのかをみてみました。いろいろな街や地方が教科書に取り上げられています。それは、やはりドイツ語教員が、ドイツ語圏に属するさまざまな地域の魅力をアピールしたいからに他なりません。地味で実用的でなく不人気になりつつあるドイツ語ですが、ステレオタイプにおさまらない多様性を教科書を通じて学生の皆さんに理解してもらえればと願っています。