ドイツ語教員が教えながら学ぶ日々

熊谷哲哉 ドイツ語教育、ドイツ文学、文学じゃないけどおもしろいものなど。

泣き落としは絶対にダメ

f:id:doukana:20180217213852p:plain

日頃学生に対して怒ることはありません

大学で教えるようになってそろそろ10年くらいになります。

どの大学でも、いろいろな学生がいますが、基本的に学生を叱りとばしたり、怒鳴りつけたりすることはありません。大学院生の頃の塾講師バイトでは、「子供を甘やかしすぎ」と言われることが多く、人を効果的に叱る方法がよくわかっていないというのもあるのですが、正直なところそれほど腹をたてるようなことがこれまでなかったからかもしれません。

しかし、ときどき、こればかりは許せないなと思うことがあります。今回は、試験の時期にはどこの大学でも見られる、泣き落としメールを送って来る学生について、なぜ私が腹立たしく思うのかを書いておきます。

 

試験の時期はやはり難しい問題が起こる

毎学期、どの大学でも試験の際にはいろいろな問題が起こります。問題というか学生による不正行為です。カンニングペーパーを隠し持っていた、とかトイレに行くついでにスマホカンニングをしたなどというのはどの授業でも聞く話です。私の授業では、一人3年生の学生が、試験前に机に鉛筆でメモを書いていたことがありました。始まる前に見つけたのですぐに消させました。

カンニングなどの不正行為は、いうなれば試験という約束事を壊す行為なので許せません。カンニングのように、明確に大学でやってはいけない行為とされていないけれど、やはり許せないのが、試験後のメールです。

 

試験後にメールで配慮を求めるのはやめてほしい

今回私が非常に腹立たしく思ったのが、試験が終わった後に、合格点を取る自信がないので、追加課題等で単位をもらえないかというメールを送ってきた学生です。

私の本務校のような大規模私立大学の場合は、さまざまな背景(一般入試、付属出身、指定校・商業高校からの推薦入学、スポーツ推薦等)をもった学生が来ているので、教員に配慮をもとめるというケースがなくはないようです(実際に自分のところにきた学生はいないのでわかりませんが)。ですから、そういった配慮してもらった学生の噂を聞いた別の学生が教員にメールを送って来るということはありうるだろうと思います。

しかし、去年も今年もメールを送ってきたのは、非常勤先の神戸大の学生たちでした。彼らは難関国立大に合格できるくらい、本来は勉強が得意なはずです。泣き落としや追加課題でお目こぼしなんていう手段をとらなくても、ドイツ語の勉強くらいできるはずです。

それに第4クオーターの始まりから、試験当日までは短いとはいえ1ヶ月半もありました。勉強についていけないなら途中でわかっていたでしょう。なのになぜ試験勉強をちゃんとやらないで、あとになってメールで相談などするのかと理解に苦しみます。

 

なぜ試験後のメールがダメなのか

メールを送ってくること自体は、不正行為でもなんでもない。たしかにそうでしょう。配慮を求めること自体は勝手にやってればいいという先生もいるでしょう。

私が問題だと思うのは、試験後のメールとその後のやりとりで単位が取れてしまえば、試験や普段の授業の意味がなくなってしまうという点です。私たちは、学生との関係(仲がいいとか信頼しているとか)のなかで単位を出しているわけではありません。自分たちが教えている分野について、理解できたかできていないか、知識が身についたか否かが私たちの単位を出す尺度です。そのためにレポートがあり、小テストがあり、期末試験があるわけです。それなのに、一番最後の試験ができなくて、すべて済んだ後で、配慮を求めるというのは、これまでの授業や試験、そしてシラバスという教員・学生間の契約を完全に無視することと等しいからです。

授業にちゃんと出ないとか、授業中にいねむりをするとか、そういったことは私はどうでもいいと思っています。しかし、成績評価をどうするかという、大学の制度の根幹にあたる部分をないがしろにするような行為については、厳しく対応しないといけないと思っています。

また、解答用紙の余白に「単位ください」とか「単位bitte!」とか「先生好き」とか「死ねばいいのに」とかあれこれ書いてくる学生については、欄外のぼやきなのだから好きにすればいいでしょう。成績評価には関係ないので、授業アンケートで事務職員さんの目に触れるコメントよりも、自由に書いてもらって構わないとすら思います。

単位が取れるかどうか不安な学生のみなさんへ

単位なんて教員とのコミュニケーションでなんとかなると思うのであれば、試験より1ヶ月前ごろには相談をしたほうがいいでしょう。

単位くれるよう配慮してほしいではなく、単位が取れるようにどんな勉強をすればいいかを聞くことは大いに結構です。試験まで一週間しかないけどどうしたらいいか、という相談もときどきあるけど、それだってもちろんウェルカムです。試験ができるかどうかは本人次第ですが、私としてもできる限りのことは教えます。

すくなくとも私も、学生たちには何かあれば事前に連絡して欲しいと言ってきました。そしてそのためにメールアドレスをシラバス等で公開してきました。

 

メール出して来る学生が発生した理由は?

今回よくわからないなと思っていたのは、毎年神戸大の学生ばかりが、試験後に配慮を求めるメールを出してくるという点でした。

いろいろ考えて気づいたのですが、おそらく国立大の場合は、成績開示や異議申立て制度があるためかもしれません。

本務校にはおそらくそのような制度はないと思います。今のところ一度も聞いたことはありません。

他の国立でも考えてみると、似たようなことがありました。5年くらい前ですが、京大で非常勤をしていた時には、自分と同じくらい試験ができていない友人は単位を取れているのに、なぜ自分が不合格なのか、本当は合格点がとれているのではないか、と異議申し立てをしてきた学生がいました。

異議申し立てや成績開示という制度はあってもいいと思っています。もちろんそれに反対するわけではありません。しかし、このような制度が、学生に、いざとなったら先生にメールすれば単位とれるんじゃないか?と安易な行動をさせるきっかけになっているとしたら残念です。

 

試験で何が見られているのか?

そもそもなんでドイツ語のような、たいして専門の勉強にも役立たない科目までちゃんと試験勉強をしないといけないのか、と思っている学生は多いでしょう。

たしかに、ドイツ語はかつてのように学問をする上でどうしても必要な言語ではなくなって(とは言えないけど、世の中全体が、英語でいいじゃんって雰囲気になっているだけです)しまっているのは事実です。

しょせん趣味の語学程度なんだから、合格の基準なんて適当でいいのではという考えもあるでしょうが、大学で単位を出す科目である以上、他の科目と同様、試験や課題で評価することは当然です。

そして、単に大学という制度を維持するために、ドイツ語の試験があるわけではありません。ドイツ語でも他の科目でも、大学のテストで問われているのは、授業で習得した知識をもとに、それを運用する能力です。どのようにわからないことを調べ、理解し、自分のものにしていくのか、それを学ぶのが大学だと私は思っています。ドイツ語が将来役に立たないとはいえ、学び方については、いくらでも応用が利くのでしっかり身につけてほしいと思います。

語学のような周辺的な科目だって、やはり学び方を学ぶ機会としておろそかにしてもらいたくはないと願っています。