ドイツ語教員が教えながら学ぶ日々

熊谷哲哉 ドイツ語教育、ドイツ文学、文学じゃないけどおもしろいものなど。

名詞の性って何だろう?

名詞の性とは?

f:id:doukana:20180111180640p:plain

ドイツ語の大きな特徴の一つに、これまでに記事で解説してきた、動詞の人称変化や冠詞・代名詞などの格変化があります。しかし、もっと単純で、日本語や英語にはない特徴としては、男性・女性・中性という三つの名詞の性があります。

名詞の性の区別は、ドイツ語の場合冠詞や形容詞、その名詞を言い換える時の代名詞の区別として文章や会話の中に現れます。ここでは、例に挙げる名詞に、定冠詞(der男性、die女性、das中性)をつけておきます。

何が名詞の性を決めるのか?

名詞の性とは、もちろん実際の性の区別を意味します。つまりお父さんder Vaterは男性名詞、お母さんdie Mutterは女性名詞です。また、両親die Elternの場合は男性・女性とはちがう、複数形という別のカテゴリ扱いになります。

しかし、実際の性などなさそうな名詞であっても、かならず名詞の性はあります。本das Buchは中性、太陽die Sonneは女性、コーヒーder Kaffeeは男性名詞です。太陽は女性的?コーヒーは男性的?ということなのでしょうか?

私が参照した本では、たしかに、男性的なイメージ(あるいは神話などで男性の神に象徴される)がある概念や物は男性名詞となり、女性的であれば女性名詞という区別はあるそうです。

先ほどの例で言えば、太陽は、暗く寒いドイツ語圏では、月にくらべて弱々しいイメージなので、月は男性名詞der Mond、太陽が女性名詞die Sonneとされたと考えられています。

しかし、そのような性のイメージすらない概念など(たとえば、暑さ・寒さ、美しさ・みにくさ、喜び・悲しみなど)の場合は、どのように名詞の性が決定されているのでしょうか?さまざまなパターンがあるので、なかなか一言で簡単には説明できませんが、一つの傾向として、同じような成り立ちの語や同じような接尾辞で終わる語などは、同じ性となるといえます。

 

ドイツ語名詞の性のはなし

ドイツ語名詞の性のはなし

 

この文献は、ドイツ語名詞の性について書かれた専門書です。今回の記事を書くにあたり、参照しました。名詞の性というテーマだけで一冊の本なのですよ。すごいですね、専門書って。

また、前回の前置詞の話でも言及した、『必携ドイツ文法総まとめ』でも、名詞の性の法則についてまとめてありました。こちらはページ数が少なく、大まかな法則を理解するにはちょうどいいかと思いました。

 

必携ドイツ文法総まとめ

必携ドイツ文法総まとめ

 

 

名詞の性は覚えるべきか?

ドイツ語を学ぶ学生たちから、しばしば質問を受けるのが、「名詞の性まで覚えなければならないのか?」ということです。性を覚えるかどうかは、ドイツ語の学び方や学ぶ目的によって答えが変わってくると思います。

私自身は、ドイツ文学を専攻し、文章を読むためにドイツ語を勉強してきました。だから、名詞の性のように、辞書に書いてあることは、あまり必死になって覚えようとはしてきませんでした。

しかし、現地で会話をするときなどは、名詞の性がわからないと正確に冠詞や形容詞をつけることができませんから、少なくともよく使う名詞(本、大学、ビール、水、コーヒー、パン、ケーキなど)については、実際に会話で使いながら、性も含めて単語を覚えるのがいいでしょう。

では、どうやって名詞の性を覚えればいいのでしょうか?手っ取り早い見分け方などはあるのでしょうか?

 

名詞の性は即座に判定できるのか?

このことも、ドイツ語を学ぶ学生からよく質問されます。やる気のある学生であれば、それだけいっそう、効率よく勉強するすべを工夫しようとするのはすばらしいことです。しかし、私は答えます。即座に判定できるものもあるにはあるけど、統一的なルールというには例外が多すぎると。

上述の橋本先生の本でも、冒頭部分に、「eに終わらない限り男性名詞」というものすごいざっくりした判別法*1が提示されていますが、これはあまりに極端な方法で、これが当たるのは、半分くらいかもしれません。

では、ある程度名詞の性を覚えたり、見分けたりするのに役立つ基準をいくつか紹介していきます。

*男性名詞

・実際の性と一致する場合。-erで終わる職業名。〜する人を表す名詞:der Bruder(男の兄弟), der Lehrer(教師), der Fußballspieler(サッカー選手)、der Arbeiter(労働者)など

・-erで終わる機械装置の名前(〜する道具、装置):CD Spieler(CDプレーヤー)、 Computer(コンピュータ), Kugelschreiber(ボールで書くもの=ボールペン), Taschenrechner(ポケットに入る計算するもの=電卓), Wecker(起こすもの=目覚まし時計)

・四季・月・曜日:Winter冬, Frühling春, Januar一月, Februar二月, März三月, Montag月曜日, Dienstag火曜日, Mittwoch水曜日などなど。

・方角:Norden北、Osten東、Süden南、Westen西。

・-lingで終わる名詞:Schmetterling蝶、Säugling乳児、Flüchtling難民など。

・-ismusで終わる名詞:Sozialismus社会主義、Okkultismusオカルティズム、Spiritismus心霊主義など。

・-enで終わる名詞の大半:Boden土地、Bogen弧、Wagen自動車、Brunnen泉・噴水など。→これは参考書で見てなるほど、と思ったのですが、ドイツ語の名詞の場合、複数形で-enとなるものFrauen女性たち, Augen両目や、動詞を名詞化したもの(中性名詞)Essen食事、Leben生命などが多く、紛らわしいのでこれまでen=男性名詞とは考えたことがありませんでした。

 

*女性名詞

・自然の性、実際の性と一致するもの:Frau女性、妻、Schwester姉・妹、Tante叔母など。

・-inで終わる、人や動物を表す名詞:Lehrerin教師、Japanerin日本人、Französinフランス人、Königin女王、Löwin雌ライオン。 →〜人や職業名は、原則的に男性名詞のうしろにinをくっつけて女性の形をつくります。der Japaner→die Japanerin

・樹木・花をあらわす大半の名詞:Lilieゆり、Roseバラ、Eicheナラ・カシ、Fichteトウヒ、Kiefer松など。

・-eで終わる名詞の大半。Kirche教会、Liebe愛、Straße通り、Schule学校、Familie家族、Tascheカバンなど。

→非常にわかりやすいので、わりと早くに覚えるのがこの法則です。しかしこの法則はけっこう例外が多いです。der Name名前、der Käseチーズ、das Ende終わりなど。

・-ei, -heit, -keit, -shaft, -ungなどで終わる名詞:日本語でいうと〜性のように概念を名詞化したものです。Wirklichkeit真実, Schönheit美, Wissenschaft知識, Bildung教養など。

・-ion, -tät, -urに終わる外国語由来の名詞:Universität大学, Situation状況, Station停車場, Kultur文化など。

 

*中性名詞

・人間や動物の子供:Baby赤ちゃん, Kind子供, Kalb子牛, Lamm子羊など。

・金属・元素の名前:Gold金, Silber銀, Blei鉛, Eisen鉄など。

・名詞化された動詞:Essen食事、Leben生命、Denken思考など。

・Ge〜と集合的にいう名詞:Gebäude建物、Gebirge山脈、Gehäuse容器、Gemälde絵画など。

・-chen, -leinのような縮小辞で終わる名詞:Mädchen娘さん、Büchlein小冊子など。

・-tumで終わる名詞:Bürgertum市民精神、Heldentum英雄精神など。しかしよく使われるReichtum財産とIrrtum誤り・錯誤は男性名詞。

・大部分の地名、都市名や国名:ほとんどの地名は中性・無冠詞で使われます。Japan日本、Deutschlandドイツなど。

*例外は、der Irakイラク, der Iranイラン, die Schweizスイス, die Türkeiトルコ, die USAアメリカ(複数), die Philipinenフィリピン(複数)これらの国名は必ず定冠詞付きで使われます。

 

*場合によって男性・女性が分かれる名詞

・川の名前:der Rheinライン川、der Mainマイン川などは男性ですが、die Donauドナウ川、die Elbeエルベ川などは女性です。

気になったので、他の川はどうだろうかと調べました。der Nilナイル川, der Gelber Fluss黄河、der Tone利根川, der Shimanto四万十川など、外国の川はだいたい男性名詞のようです。

 

*男性・中性・女性どの場合もある名詞

Joghurtヨーグルトは、たいてい男性名詞扱いですが、スイス・オーストリアなどでは、中性名詞、オーストリアの一部では女性名詞とされているところもあるようです。

 

新語の性はどう決まる?

ドイツ語をある程度学んでふと気になったのが、新しく登場した道具や技術などはいつ性が決まるのだろうか、ということでした。ドイツ語学を専門とする先生に聞いて教えてもらいましたが、多くの場合は、既存の物からの類推で決まってくるようです。

わかりやすい例として、iPhoneApple Watchのような新しい固有名詞、そしてブルーレイディスクのような新しい技術を使った商品の場合を考えてみましょう。

iPhoneは、Telephone電話が中性名詞なので、中性です。

iPadは、Tablettお盆が中性名詞なので、中性です。

また、Apple Watchの場合は、Armbanduhr腕時計が女性なので女性名詞となります。

iMacは、Computerが男性名詞なのでこれも男性ということになります。いっぽう、MacBook Proは中性です。これはNotebookノートPCが外来語として定着していて中性名詞だからです。Notebookはドイツ語ではNotizbuchといい、これも中性です。

ブルーレイディスクやDVD、CDなどはすべて女性名詞です。これはSchallplatteレコードが女性名詞であるから、同じような形状のものは全て女性なのでしょう。

このように、それまでドイツ語にはなかったような新しい技術や新しい機械装置なども、既存の名詞の性から類推的に決定されるわけです。

 

*登場後少し時間が経って、性が決まる場合

たとえば、EメールE-Mailは、私がドイツ語を大学で学び始めた頃はどの辞書でも女性または中性と表記されていました。しかし、昨今はほとんどの辞書で女性名詞とされています。

ブログBlogもまた、男性または中性となっています。現在はどちらの性でもいいようですが、そのうちどちらかに決まってくるのでしょうか。(現在はグーグルでヒットした件数を見たところわりと拮抗していました)

名詞の性がなぜ大事なのか?

はじめの方で、本を読むための勉強であれば、名詞の性を覚える必要はないといいましたが、やはり性がわかっていないと困る場面は多々あります。会話のさいにはもちろん、文章を読む際にも、名詞の性がわからなくて文意がとれないということがあります。

ドイツ語では、すでに出てきた名詞で言い換えるときは、人物の場合だけでなく、事物の場合もその名詞の性に一致する代名詞で言い換えるからです。

例を挙げてみましょう。

Ich habe einen neuen Computer gekauft. Er war sehr preiswert. 私は新しいコンピュータを買った、それはとてもお買い得だった。

一文目にでてくるComputerが男性名詞なので、次の文では、erと男性の人称代名詞を使って言い換えているのです。

要するに、コンピューターでもお父さんでもテーブルでも、男性名詞は人称代名詞erで言い換えられます。同様に、女性名詞はsie、中性名詞はes、複数であればsieで言い換えます。

人=er/sie(彼・彼女), 物=es(それ)ではない

ドイツ語を学ぶ学生がなかなか理解してくれないのが、この点です。人であれば、Mein Vater=er, Michael=er, Ihre Tochter=sieということはすぐわかります。しかし、der Computerそのコンピュータやseine Tasche彼のカバンを、erやsieで言い換えられるということがわからないようです。どうしても、物なのだから、彼や彼女ではなく、ニュートラルなそれ=esと言い換えないといけないと考えてしまいがちです。これもおそらく、よくみられる英語との干渉でしょう。

また、余談になりますが、ドイツ語の人称変化を学ぶ際に、er彼やsie彼女ならば教科書を見てすぐに動詞の形がわかりますが、MichaelやLouisaのような人名になると、動詞の形がどうなるかわからないという学生が多くいます。英語の場合でも私、あなた以外は三人称になるのは同じなのに、なぜなのかとよく考えますが、理由はよくわかりません。

 

*1:もちろん、その直後に「しかしこれはやはり危険であり、性別は「急がば回れ」の諺通り、一つ一つ辞書を引いて名詞のに定冠詞をつけて覚えていくのが唯一最良の方法かもしれない」と書かれています。なぜ男性名詞かということですが、中性名詞は男性・女性に比べて絶対数が少なく、eで終わる名詞は女性が多いので、eでなければ男性となるわけです