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ドイツ語教員が教えながら学ぶ日々

熊谷哲哉 ドイツ語教育、ドイツ文学、文学じゃないけどおもしろいものなど。

どうやって研究者として生きのこるか?

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大学院進学を考えている人へ

研究者になりたいけど/研究に興味はあるけど、進学すべきかどうか?といった問題、そして、進学後はどうやって研究を続けていったらいいのか?こういった問題については、Facebooktwitterでしばしば多くの研究者の皆さんが意見を述べております。

定期的に議論される話題ですが、私はSNSで自分の意見をスパッとまとめられるような頭の良さがないので、じっくり考えて自分なりの見解をまとめておきます。

私自身は、学振特別研究員にもなれなかったし、政府系奨学金での留学もできなかったし、現在は科研費も毎年不採択なので、とくに優秀な研究者というわけではありません。自分自身を振り返って、こうしておけばよかったということも多々あるので、それらも含めて、あまり優秀でない人でも、それなりのやり方で生き残りましょう、という記事です。

大学院に進学して大丈夫?

そもそもいまどき人文科学系の大学院に進学して大丈夫なのか?というのがまず大きな問題です。大丈夫じゃないという意見が、おそらく大学教員の8割くらいになるだろうと思います。私は卒論ゼミなどを担当していないので、学生から進学の相談を受けることはありません。しかしもし聞かれることがあれば、行きたいなら行けばいいと答えるでしょう。

大学院を出ると就職に不利になるし、研究者をめざしたところで、希望の職に就けないことが多い。それはよくわかります。しかし、大学とはそもそも学ぶために来る場所ですから、お金が欲しいのであれば、さっさと新卒で働けばいいだけです。日本の制度上、大卒者は新卒で就職しないと、生涯賃金的にも大きな損をすることになります。

しかしながら、その損と引き換えに、一生つきあえる学問と出会えるかもしれません。どちらがいいかは、単純にコストパフォーマンスでは測れないでしょう。

私自身は、進学を意識し始めた頃はまだ研究者になる決心は固めていませんでした。自分のいる外国文学のような分野は、21世紀には消滅してしまうと不安に思っていました。だから、学問を身につけて、教員や研究者ではない業種で稼いでいこうと考えていました。

進学先は国立大学一択です!

卒論の指導教員に、進学について相談する場合は、当然今いる大学にそのまま進学することを前提に話すことになるかもしれませんが、場合によっては他大学への進学を考えることも必要です。

現在私立大学で学んでいるのであれば、進学先はやはり国立大を選びましょう。私学でいいことは正直いって、あまりありません。多くの分野がそうでしょうが、国立大学の方が学費は安い(休学は無料)し、設備や図書にも恵まれています。交換留学をする場合の、海外提携校も多いでしょう。また、東大・京大等旧帝大ならば、学閥も(昔ほどではないでしょうが)武器になります。

私は旧帝大の新しい研究科で学びました。同じ京大でも、他の研究科に比べると入試は簡単で、同期生も他大学出身者ばかりでした。在学中は、京大でもあまりちゃんとしてないほう、と自嘲していましたが、大学院を離れてから、旧帝大ブランドの力を思い知りました。

旧帝大あるいは早・慶(私の分野だとそれ以外の私学は勧められません。理由は下記)を出ていれば、圧倒的に有利なので、どこでもいいからこの中のどれかの院に進みましょう。

また、分野にもよりますが、博士号がないと昨今は就職活動にならないので、課程博士号を出していない大学は避けましょう。実情はよく知りませんが、東京の有名私大の中には、ほとんど課程博士号取得者がいない大学がいくつかあります。先生方が博士号など必要ないと思っているのか、課程博士など価値がないと思っているのかわかりませんが、同じように学問をするのだから、博士号が取れる大学にいた方がいいでしょう。

車の乗り方は丁寧に教えてくれても、運転免許を出さない教習所に価値がないのは誰もが理解するところでしょう。

 

大学院に入ったら、まずは基礎力を

日々の授業で基礎力を養う。これができてないと先がつらくなります。修士課程は2年しかないので、授業なんかより自分の勉強をして、論文の準備をしなければと焦る気持ちはわかります。しかし自分の研究テーマを探す、教養を深めるなどは二の次です。極端に言えば、M2の春にある程度テーマが見えていればいいくらいです。何も思いつかなければ、卒論をもう一度書き直しましょう。新しいことに挑戦するのは博士課程以後でも問題ありません。

私はこのへんのことがまったくわかっていなかったので、修士課程を出るだけで4年もかかってしまいました。いまでもこのとき2年も無駄な時間を過ごしてしまったことを悔やんでいます。

 

自分よりもはるかに優秀な仲間に出会うこと

ゼミや専攻に先輩や同期生が多くいればいいのですが、周りを見回しても先生と自分一人というマイナーな場所で研究を始める人も少なくはないでしょう。その場合、授業だけでなく、研究会に出て、研究仲間を得ることは重要です。自分よりはるかに優秀な仲間が多くいる場所に行く必要があります。当然凹みますが、これから自分が何をがんばったらいいのか、自分よりできる人間は何が違うのかをよく見ておきましょう。優秀な仲間が、どのようにテクストを読み、論文を書くのか、身近にみて方法を盗みとりましょう。

それからもっと大事なことは、自分と他人の違いを認識し、無駄な嫉妬心で苦しまないようにするということです。自分は自分、と強く信じた人は生き残れます。

 

留学が必要な分野の場合は、さっさと海外へ

留学はなんとしても大学院在籍中にしておきましょう。(できれば、学部生のうちに語学留学はしておきたいところです)。大学院を出てから長期間海外に出るのは非常に困難です。奨学金が得られようが得られまいが、とにかくいかないことにはどうしようもありません。私のように、いろいろ迷っているうちに行きそびれてしまうのは最悪です。教員になって一定期間勤めれば、給与をもらって海外に滞在できますが、チャンスをえるのはなかなか困難だし、1年以上滞在できることはめったに(いくつかの恵まれた大学では2年在外研究ができるらしいですが)ありません。

 

博士課程を終えたら

博士課程に3年在籍したら、いちはやく学位論文を提出するか、単位取得退学をしましょう。人によっては、研究のための図書やデータベースが使いにくくなるので、なるべく長く博士課程に在学しようとすることがあります。私も含め、そういう人は、私の母校ではよく見られました。しかしあまり勧められません。

理由は次の節に述べますが、簡単に言えば、大学院に在籍し続けることで、博士論文の完成を急ぐ気持ちがなくなり、また同時に大学教員としてのキャリアのスタートも遅れてしまうからです。

 

非常勤講師をしながら公募書類を書く

私のいる外国文学系のような分野では、博士課程修了後(退学後)は、語学の非常勤講師を務めながら、専任教員になるチャンスを探ることになります。学振PDなど、家族で生活できる程度の収入が得られる職につければいいのですが、そうでない場合は専業非常勤講師で生活していくほかありません。

私は学振研究員には、いちども採用されなかったので、後述のように、助手になるまで、実家からの仕送りで生活していました。30過ぎてまで実家頼みというのは、全く情けない話ですが、正直なところ、実家のサポートも財産の一つです。アルバイトに身をすり減らして研究時間が確保できなくなるくらいなら、親戚一同に頭を下げたり、パートナーやその両親に頼んだりして、お金を出してもらった方がずっとマシです。博士課程にあがるころ、自活できるほどの甲斐性が自分にはないことがわかってきたので、それ以後、家族に積極的に頼るようになりました。能力がなくて国からお金がもらえないのであれば、そうやって開き直るしかないと思っていました。

その後、当時週1回アルバイトに行っていた京都精華大学で、初年次教育専門の助手の募集があったので、そこで3年間嘱託助手として務めることができました。この仕事は、週3コマの初年次演習と学生たちの学習指導などでした。学振DC程度の給料でしたが、自由な時間が多く、賞与も少額ながらもらえたので、今思えばずいぶん恵まれた待遇だったと思います。

私は、長いこと大学院に在籍していたこともあり、ドイツ語の非常勤として勤めるようになるのに時間がかかりました。はじめて大学でドイツ語を教えるようになったのは、2010年になってからでした。

その後2012年に学位を取得し、本格的に非常勤ぐらしと公募への応募をするようになりました。運良く2年間で現在のポストに就くことができました。

 

なるべく身軽でいるべき?

余計なお世話なので、こんなことは書かなくてもいいのかと思いますが、自分の経験と意見として書いておきます。

私の場合は、助手時代に結婚しましたが、結婚はもっと早くても、あるいはもっと遅くても、どちらの場合でもメリットはあるかな、と思います。若いうちに結婚すると、将来のことを計画的に考えるようになります。逆に独身で就職活動をしていれば、どんな辺鄙なところにも行けます。私も地方大学に応募しましたが、妻と私両方の実家から遠い場所など、知らない地方は敬遠してしまいました。

 

非常勤講師の口を得るには?

指導教員の専門分野と自分の研究分野と自分が教えたい分野

これらが一致していないと、最初はなかなか仕事が得られません。私の場合は、学際系の研究科にいましたが、師匠は独文出身でドイツ思想史が専門で、ドイツ語を教えていました。私自身も学部は独文で、ドイツ語の教員としての就職をめざしていました。そのため、大学院退学後にすぐに母校の非常勤講師になれました。

現在も母校の後輩からときどき非常勤講師の口が欲しいという相談を受けます。しかし私がどうにかできるのは、ドイツ語のコマだけです。そしてドイツ語の教員として推薦できるのは、関連する学歴(独文出身あるいはドイツ留学経験など)や学会での活動がないと難しいです。この人ドイツ語できるらしいよ、ではとうてい非常勤講師であってもお願いすることはできないのです。

学際系出身で、所属してた専攻も自分の専門も教えたい科目も、ぜんぶバラバラという人もきっといるでしょうが、どうしたらいいでしょう。少なくとも自分が教えたい分野の学会に入り、その分野の専任教員と面識を得ておくことは必要でしょう。多くの大学では、私のように着任間もない若手教員が、教務担当で苦労をしていると思います。とくに、全く知らない場所に着任してくる場合は、現地の若手非常勤講師とのコネを一から見つけないといけません。学会などでは、知らない土地にやってきたばかりの専任教員などを見つけると、チャンスが得られるでしょう。

 

公募を勝ち抜くには?

この点について何か言えるかと思っていたら、やはり何も言えないとわかってきたので、この記事を完成して公開することができずにいました。

多くの方にとっては、当然のことでしょうが、公募で面接に呼ばれ、そして内定を得るには、さまざまな条件が重なることが必要です。以下、選ばれるための条件を挙げましたが、誰もがいう当たり前のことしか書けません。

  1. 学歴、学位、職歴などの経歴
    これは当然。学位が海外だったり、競争的資金を獲得できていたり、賞を得た経験があったりすれば、もっと有利になります。
  2. それぞれの大学に適合した能力
    わたしが評価されたのは、おそらくこの点です。教える人が欲しいのか、優秀な研究者が欲しいのかは、それぞれの大学によります。職場は教育重視だったため、トップレベルの国立大学から専門学校まで、さまざまな学校で教えてきた経験が生きました。
  3. その職場にふさわしい性格や考え方
    これは、一般企業の場合と同様、安心して仕事を任せられるか、一緒に働いていけるか、という点です。大学には研究・教育が中心といっても、さまざまな業務がありますから、研究能力と同じくらい重要です。
  4. 他の候補者と比べた際のメリット
    次の項目と同様、本人には殆どどうしようもないことです。
  5. 運の良さ
    公募のタイミング、面接の順番など、自分にはどうしようもない要素も多々あります。

 水面より上に出ていれば、チャンスはある

同世代で、私より先に専任教員になっていた知人に、面接に呼ばれてから、どうしたらいいか相談をしました。そのとき知人は、面接での経験を詳しく教えてくれた上、水面より上に出ていれば(ある一定以上の水準を超えていれば)、今後は何度も面接に呼ばれるようになる、と励ましてくれました。この言葉に非常に力づけられました。

 

専任教員になってからも競争は続くし、これでいいのかと迷い続ける

公募に出しているうちは、専任教員になることがゴールだと思っていました。ゴールにあがれれば、憂のないの世界が広がっているのだと。まあ、教員も仕事なので、そんなことは当然ありません。忙しい業務の中で、研究をして、外部資金をとって、能力を高めて、とさまざまな競争にさらされます。そんな中で、心を病んでしまう人や体を壊す人も多くいます。

それでも、とにかく自分が望んでやってきたことなのですから、日々少しずつできることをやっていければと思っています。